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歩き出す少女と美しい棘

GLIM SPANKYが鳴っていた春

1年前の春、大学に入学して一人暮らしを始めた。
ずっと行きたかった大学に受かって嬉しかったが、新しい生活の準備にばたばたと追われてあっという間に過ぎた3月だったと思う。

4月のはじめに引っ越して、すぐに入学式があった。母は新幹線で式に来てくれた。式のあと、会場の最寄り駅のベンチで短い手紙を渡した。
「頑張るね」と言おうと思ったけれど、涙が出てきて上手く言えないほどになってしまった。自分でもかなり驚いた。大学や一人暮らしは勿論不安ではあったが楽しみなことも多かったので、まさか泣くとは思ってもみなかった。
母も驚いていたが「泣くなよ~」と言って、つられて泣いていた。
駅なんて人の多いところで泣いたのは、いつ以来だったのだろうか。

落ち着いてから、私は在来線で下宿先に帰り、母は新幹線で地元に帰る。
改札を抜けてから振り返ると、笑って手を振る母が見えたけれど、すぐに人に流されて見えなくなった。

入学後の4月に一番聴いていた曲はGLIM SPANKYの「美しい棘」だった。
高校2年の時に地元のライヴハウスで観て以来、とても好きでよく聴いている。
4月に出たアルバムに収められたこの曲で描くのは、成長していく女の子と友達の儚さ、「女同士の友達の歌」だと松尾レミは答えていた。
聴き手によっては男女の歌とも取れる歌詞だけれど、私にとっては「故郷や家族を離れて独り立ちする少女の歌」だった。

《今までとなりに居たあなたから手を離せば最後 もう知らぬ人》

作詞をした松尾レミにとっては、世界を広げてゆく自分と遠くなる友達を描いた歌詞だと思うが、私がイメージしたのは駅で人混みに消えてゆく、手を振る母の姿だった。
一人暮らしを始めたからといって、知らぬ人になるわけではない。だけど、生まれてからずっと手を握ってきてくれた母が、確かにゆっくりと手を離した瞬間だったのだと思う。

そんなことを考えながら、まだあまり物の無いワンルームで何度も聴いた「美しい棘」。1年経った今もはっきりと思い出す。春のぼんやりとした光が、新しいカーテンを揺らしている。

《棘に刺さりながら 少女は今/深い傷を増やして喜びを知っていく》

傷も増えていく毎日だけど、それだけじゃない。遠くで自分を思ってくれる人がいながら、一人で少しずつ掴んでいく喜び。季節はあっという間に変わっていく。

今年も各地で大学入試や合格発表がニュースに映る時期になって、この曲の幻想的なイントロが頭に浮かぶようになった。新しい生活を控える女の子たちの姿が、とても眩しく見える。

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