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「ともに生きていけるバンド」

きっと誰も焼き墜とさない、WANIMA

「ともに生きていけるバンド」
ボーカルの彼は真顔でそう言った。
なんの綺麗事だ、と私は思った。
 

うつ病。10年前にそう言われて今も通院中。
脳の中の「セロトニン」という細胞が減り、気分や意欲などの情報を伝えられなくなって、
感情を上手くコントロール出来なくなってしまうというもの。
環境の変化や人間関係のストレスなど、この病気になる原因は沢山ある。
「気の持ちよう」で何とかなるもんじゃない。これは脳の病気。
完治にどれだけかかるか、それは人それぞれだけど、
「病状はだいぶ良くなっているよ」と主治医に言われるまで10年。
今は健康な人と同じような生活をしている。
だけど私の周りに、私がこの病気だと知っている人は少ない。
どうか誤解を招かないように、でも理解して欲しいという気持ちもあり、説明しようとした時期もあったけど、
外側から見た身体のどこかに傷やらギプスが巻いてある訳でもなく、
高熱が下がらない、とかいう訳でもない。
結局、見えないから言葉で伝わらない。
病名病状を説明しても、相手を困らせてしまうのだ。

そして、診察をしていて最近分かったこと。
どうやら私は、普通の人より「生」「死」について敏感らしい。
毎朝毎晩テレビやインターネットから、「生」より多く立て続けに流れる知らない誰かの「死」が、
ひとつひとつ無意識に突き刺さり続けて、
いつの間にか全く関係無い自分の心が疲れ果てていた。
私はいつ死ぬんだろう、明日かも知れない、ドアを開けた次の一瞬かも知れない。
「生きる」ってなんだろう、いつ終わるんだろう。
そんな見えない恐怖のループ。未来なんて考えることが出来なくなった。
 

去年のいつ頃だったか。
バンド名は知っていたけど、初めて彼らを観たのはテレビの音楽番組だった。
底抜けに明るい笑顔と忙しいカメラ目線と、
「これでもか!くらえ!」と言わんばかり、溢れる音を全身で鳴らし歌っていた。
心が動揺した。その衝撃がどうしても忘れられない。
 

「眩しすぎる太陽は、直視出来ないからなぁ」
大人にそう言われたことがある。
眩しいものに惹かれ、憧れる。近くに行きたくなる。もっと近寄りたくなる。
でも、眩しすぎる其れに近づきすぎると、その光に焼かれ墜とされてしまう。
そんな歌があったような、イカロスの羽根がなんとかって記憶。
彼らのことをそんなふうに思った。
私の場合、焼かれてしまう前に、
自分の身体に当たった光から伸びる影がどんどん長くなり、闇が深くなっていくようで、
上手く息ができなくなった。
 

だから、「彼らは別世界の人間だ」と自分に言い聞かせた。
例えば私が居る世界で少ししんどくなった時、たまに少しだけ覗いてみよう。
覗くだけだったら良いよね?って、ただ本当は、近づくのが怖いだけ。
 

「ともに生きていけるバンド」
ボーカルの彼は真顔でそう言った。
恥ずかしげも無く何を、私はそう思った。
 

だけど、日が経てば経つほど彼らのことが気になって、
我慢できなくなってレンタルショップに駆け込んだ。出てるCD全部を借りた。
速い音、遅い音、攻める音、街の音、叫ぶ音、温かい音、自然風景が浮かぶ音。
色んな色をした音楽が鳴った。
分かりやすい言葉が並ぶ歌詞は、気取っていない、伝えたい溢れた感情そのまま。
なんだかそれらは、吐き出せない心の声に光を当ててくれるようで。
たぶんそれは、誰もが持ってる「当たり前の言葉」を「当たり前」に歌っているようで。
その「当たり前」を、「そのままでいいんだよ」と、
今の自分の状況がどうであっても、
全部ひっくるめて「大丈夫だ」と肩を叩いてくれるようで。
 

どこまでも伸びるハイトーンな歌声と、重なる綺麗なコーラスが、
中途半端な曇り空を割って私の元へ青空を連れてきた。
 

借りてきたCDでは足りなくなって、
発売されていた「JUICE UP!! TOUR FINAL」のBlu-rayを買った。
テレビじゃない彼らがどんなライブをするのか観たい。家に帰ってすぐに再生した。
「元気しとった?」「ちゃんとごはん食べてきた?」「苦手なアイツともちゃんと上手くやってるか?」
2万人の固まりの中の、1人1人に声を掛ける。ステージ上、3人の視線はいつだって忙しい。
「待っとってくれてありがとう」「みーんなで歌うよ!」「楽しかなぁ」
久しぶりに会った、会いたくて仕方なかった1人1人に、
溢れては止まらない気持ちをひたすら真っ直ぐ投げかける姿が、
彼らの音楽同様、気取らないそのまんまだった。
一緒に歌い暴れ、笑ったり涙を流しているお客さんが画面に映れば分かる。
激しい曲も、弾き語りも、バラードも、誰一人だって他人事にも置いてけぼりにもしない。
「これからも応援しとるけん!」「毎日お疲れさん!」
汗か涙か分からないぐちゃぐちゃになった笑顔で、
ボーカルの彼は何度も「ありがとう」と言った。
こんなにも人懐っこくて前のめりで、沢山笑うロックバンドは初めてだった。
 

たぶん、レンタルショップに駆け込んだと同時に私は、
転がり落ちるように彼らを好きになっていた。
息ができなくなる恐怖なんてもの、本当はとっくに無くなっていた。
やはり眩しい光に憧れ、惹かれてしまった。
でもきっと、彼らの眩しさは誰も焼き墜としたりなんかしない。
もっと優しくて、あたたかい光だ。
 
 

“生きて耐えて時に壊れ泣いて迷う影に笑顔咲き誇る
 生きていれば…命さえあれば…”
(ともに/WANIMA)
 
 

「ともに生きていけるバンド」
ボーカルの彼は真顔でそう言った。
綺麗事でも恥ずかしい事でもない。
次の一瞬も一緒に生きてくれる本気の言葉。
 

「セロトニン」は、太陽の光を浴びると分泌される。
彼らが宇宙にある本物の太陽でないことは分かっているよ。
だけど、怖くて近づけないと思っていた彼らの音楽を、
彼らの光をいつか全身で浴びたいと思った。
そのためにもっと、外へ出よう。彼らに会いに。
一緒に歌いたい、一緒に笑いたい。
「ともに生きたい」と思った。

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