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居場所を探す達郎さんの音楽=魂を今日も僕はそっとポケットに入れた

山下達郎 PERFORMANCE 2017

山下達郎がツアーに復帰して10年目。昨年も約3時間半の素晴らしいライブパフォ
ーマンスを堪能した。

いつものようにドゥワップのSEが流れ、メンバーが登場し、セットのドアを開け
て、達郎さんが登場する。
落語の名人が、出囃子とともに登壇し、鍛えに鍛えた芸を披露する風情だ。
そして、いつものようにテレキャスターを携えた達郎さんがスパークルのギターカッ
ティングを奏でステージが開幕する。

個人的に思い入れの深い『いつか』が2曲目に演奏され、大学時代に住んでいた6畳
のアパートの繊維壁に鈴木秀人のポスターが貼ってある真夏の暑苦しい部屋で、COME ALONGが扇風機の音を掻き消してラジカセから鳴り響いていたことを思い出す。
当時の一般的な大学生の部屋によくあった部屋の風景だ。

8ビート、16ビート、バラード、カバー曲、お馴染みの一人アカペラ。
スタンダードナンバーとなったクリスマス・イブ。

そして、達郎さんが最も思い入れの深い詩『蒼氓』へと続く。
中盤で、敬愛するカーティス・メイフィールドのピープル・ゲット・レディ、ボブ・ディラン
の風に吹かれてをはさみ不穏な空気に揺れる世界へのメッセージを歌い上げる。

ファンクチューンのメリー・ゴー・ラウンドで鍛えに鍛え上げた鉄壁のバンドアンサンブ
ルのグルーヴを聴かせ、エンディングへと突入する。
レッツ・ダンス・ベイビーでのクラッカー。
アンコールのRIDE ON TIMEでのマイクなしパフォーマンス。
そしてラストのYOUR EYESでのアカペラ。
定番とわかっていてもその圧倒的なパフォーマンスに毎回、感動で打ち震えてしまう
のだ。
 
 

夏だ海だタツローだといわれたように、FOR YOU、MELODIES、BIG WAVE
と続く作品は、世の僕のようなバブル期の大学生、都市に浮遊する若者の風俗を象徴
するサウンドだった。

ナンバーワンヒットを連発し、達郎的なサウンドが世で拡大再生産されても彼自身の
作り出すサウンドは風俗として消費されつくされことはなかった。
他の追随を許さない緻密で異常なまでこだわりぬいたハイクオリティな楽曲を突きつ
けられたリスナーはその心地よいサウンドに包まれながら、その楽曲に宿る音楽への
深い愛情、普遍的意思、そして根底にある強固なロックンロールのグルーヴ、精神を
嗅ぎ分けたのである。

RIDE ON TIMEで今まで聴いたことのない16ビートと圧倒的なボーカルで世を
あっといわせ、完璧主義とマニアックの境地である1人アカペラという気が遠くなる
ような途方もない作業で、愛してやまないドゥワップをタツロー流に再構築したON THE STREET CORNERを発表し、BIG WAVEで当時のロックファンが軟弱だと振
り返らなかったビーチ・ボーイズの素晴らしさを伝えたのもタツローサウンドだった。
 
 

すでに大御所であるといっていい達郎さんであるが、度々インタビューで、自分は、
ドロップアウトしたときからの屈折が続く変人と言い切り、シュガー・ベイブ時代の受
け入れられなかった苦い思いを語り、日本の音楽シーンでは自分の居場所が見つから
ないと答える。

それは、自分の選択した音楽スタイルがMORであり、商業主義的な匂いのする音楽
であることの理屈付けが未だにできないからだ。大衆音楽であるかぎり、売れなけれ
ば意味がない。しかし、安易な商業主義には走りたくない。
MORを選択したのは自分の素直な情念であり、その思いにはうそ偽りがないという
ことを常に自分に問いかけ、確認することをやめられないからだ。
その想いを証明するためにストイックなこだわりを貫くことを自分に課す。
自分の音楽スタイルが、決して商業主義、金のためにやっているのではないという
ミュージシャンとしての自負、信念、意志が数多くのこだわりの源泉である。

ロックンロールが好きだが3コードのロックンロールはやらない。
ライブはプラチナチケットになるという圧倒的な動員力を誇りながら、自分のサウン
ドの繊細さが伝わるのは2000人クラスのホールだからと武道館では絶対にやらな
い。
音楽マニアで博学であるからきっと売れるであろう本は絶対に執筆しない。
圧倒的なライブパフォーマンスは他の追随を許さないクオリティであるのに、映像作
品は発売しない。
高視聴率確実、PR効果も期待できるはずなのに、テレビには出演しない。

CDとステージでのみ自分の音楽を届けるというスタンスを決して崩さない。
そんな達郎さんのこだわりをファンは信頼し支持し、頼もしく思い、ずっと達郎さん
の音楽を聴き、ライブに足を運び続けてきたのである。

達郎さんの分岐点になる重要な歌の歌詞には『魂』という言葉が使われる。
RIDE ON TIME、蒼氓、希望という名の光、そして、8枚目のアルバム POCKET MUSICのタイトルトラックにも登場する。
ポケット・ミュージックは、オールタイムベストアルバムであるOPUSの選から漏れ
てしまった地味なサウンドの小品だが、ミュージシャン=芸人 達郎さん自身の音楽
を作り続ける意味と願いがこめられた非常にパーソナルな楽曲である、

ポケット・ミュージック 作詞 山下達郎

「束の間の 雨が上がり
 言い知れぬ 静けさに
 水溜り 消えて行くよ
 魂が 救われる様に
 秘やかに 過ぎて行った
 年月に 傷ついたメロディー」
 

気がつけばポケットにいつも入っている音楽、気がつかないようにそっと聴き手の魂
によりそう音楽を目指し、作品を作り続け、聴き手に届けることがアルチザン=達郎
さんの『Ray OF Hope 願い=魂』である。

達郎さんのライブは1人で会場に足を運んでいる人が多いように感じる。開演前の会
場は非常に静かである。観客は静かにオープニングを待ち、その音を1音も逃さず受
け止めるというクワイエットな情熱を充満させている。

このツアーの達郎さんの登場のSEはポケット・ミュージックだった。
拍手が大きくなる。いよいよだ。

ポケット・ミュージック 作詞 山下達郎

「それは
 失われた想い出にさえ
 なれぬけど
 決して忘れられぬ
 かすかな輝き
 呼起こす
 縮んだ上着のポケットに
 残ってた 今も」
 
 

ライブの観客は若い世代が急激に増えた。
達郎さんを知らない若い音楽ファンに夏フェスなどでにアプローチしたこと、そし
て、僕たち世代の子供たちは、親が聴いていた達郎さんの音楽に触れて育ったことが
大きな要因であろう。
彼らは今現在の音楽として達郎さんの音楽を再発見している。
達郎さんの音楽はこれからも現在のポップミュージックとして、聴き続けられるのだ。

そんな年齢層の幅広い観客は会場を後にするときに、達郎さんの音楽にライブに出会
えてよかったと心の底から思うだろう。

頑固で偏屈な達郎さん。
ご自身に課している誠実であろうとするがための『掟』もいいですが、せめてライブ
映像だけでも発表しましょうよ。
ファンは待っていると思います。レコードコレクターで名高い達郎さんは、ライブは
生で観るものだからとライブアルバムは持っていてもライブ映像は持ってないような
気もする。
僕たちは、そんな達郎さんの音楽をこれからも大切に聴き続ける。

そして僕は、今日もまたそっとポケットに達郎さんの音楽=魂を持ち帰るのだ。
そんなことを考えながら、家路についた。

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