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2017年4月3日

ノマナナコ (18歳)

私と「彼女」の距離について

SHE'Sはどこへ行ってしまうのか

ここ最近、バンド界隈においてピアノの存在が大きくなってきている。いや、過去何回もこの流れはあったのかもしれないけど、私が18年生きてきた中では初だ。
例えば、あるアーティストは、「ギターの音はもう古い」とまで言ったくらい。
バンドメンバーにキーボードがいるバンドだってもう珍しくない。
そうでなくとも、サポートとしてツアーに帯同している場合もある。
どうでしょう。はっきりと名前を出さずとも、邦ロックが好きな人には1つは頭に浮かんでいるバンドがあるはず。
2000年代、ギターロックの波が来たというのなら、今ピアノロックの波が来たって何もおかしくない。3月24日、SHE’S初のワンマンツアー『プルーストの欠片』8本目、BIGCAT公演。それは新たな波が生まれた瞬間だった。

※ここからは4月9日の赤坂BLITZ公演に行かれる方はライブ終了後に読むことをお勧めします。だってどんなに抑えて書いても、「セトリがすごい!」みたいなことを書いたらセトリこそ言っていなくても驚きが薄れてしまうと思うんです。終わった後に読んでにやにやしてください。前置きが長くなりました。いきます。

私の1日は電車運転見合わせから始まった。なんという幸先の悪さ。一緒にいく子に遅れる旨を伝え、振り替え輸送でじわじわと心斎橋へ近づいてゆく。あの子を待たせている焦りからじんわりと汗をかきそうだったが、SHE’Sの復習をするには十分な時間ができたので気分はどうにか立て直すことができた。
心斎橋OPAで待ち合わせたその子は笑顔で迎えてくれた。SHE’Sのインストアライブから仲良くなった子だ。こんな形で友達ができるのは初めてだったので、会うたびに嬉しくてこそばゆくなる。バンド名の由来となったボーカル井上竜馬の同級生「SHE」が実際にいるならこんな感じなんだろうな、と思う。その子と心斎橋を歩いていたが、お互いそわそわして結局BIGCATについてしまったのだった(私が行こうと言った)。

関西のライブ好きにはおなじみBIGCAT。BIGSTEPという商業施設の中にあるそれは、初めて行く人なら一度は「床が抜けるんじゃないか」と思うような立地だ(4階にライブハウスがある状況はなかなかカオス)。大阪にある数多のライブハウスのなかで結構な大きさを誇る。この1サイズ大きなキャパの場所となるとZEPPなどになってしまうので、若手のバンドがBIGCATでやる、となると「お、ファンが増えたんだな」となる。少し寂しくもあるが、喜ばしいことだろう。
キャパが多くなると開場してからライブが始まるまで約1時間の待ちがある。思ったよりも前のほうに行けた。ギターよりの5列目くらいといったところか。いつものライブであれば、ギターのチューニングをしているところなどが見られるのだが、今回は幕が下りたままだった。これはさびしい。私は対観客に見せる顔になる前のスッとした顔を見ているのが好きなのに。(悪趣味!)
しかし、程なくして幕が必要な理由が分かった。会場が暗くなると起きる期待のどよめきは、幕が上がると驚きの歓声へと変わった。私たちの目に飛び込んできたのは、ファンならおなじみ、長方形の中にSHE’Sの文字が入ったあのロゴだった。しかもでかい。舞台の背景一面に広がっていた。ああ、ワンマンってできることが増えていくんだ。始まる前からすでに泣きそうになっていると、シンセ音と同時にメンバーが静かにステージに上がっていく。スムーズに進みすぎて気持ちが追い付かない。気付けばシンセの音程が変わっていき、この音はもしやと思ったところでキムこと木村雅人のドラム。『Morning Grow』だ。やられた、と思った。かっこよすぎでしょ、これ。
〈後退も前進も 停滞すらも/全て意味あって/僕は 僕へ辿り着けた〉
1曲目でこう歌ってくれる心強さといったらない。メジャーデビュー曲をしょっぱなから飛ばせるところから強気な姿勢がうかがえる。今日も井上竜馬の持ち味である子音が際立つ歌い方は健在で、天井をも突き抜けるようなスコーンと出る高音が心地良い。
続けて2曲目は『海岸の煌めき』。ピアノロックバンドと呼ばれるSHE’Sを表すようなこの曲。まさに鍵盤の要素があることが意味に反射した光のよう。
冒頭のこの流れは最新アルバム『プルーストと花束』の1・2曲目そのままだった。私はそれが嬉しかった。データ配信が普及により気になった曲だけサクッと買うことができる今、もはや曲順なんて関係ないのかもしれない。それを完全に否定するわけでもないし、賢いやり方だと思う。
 ただ、今回は違う。彼らはタイトルに『花束』という言葉をいれた。11本の花(=曲)を束ねて1つの作品にしたのだ。一つひとつの花はもちろん素敵に咲いているのだが、花束になってこそ魅力がさらに引き出される。このアルバムが発売されてから約2ヶ月、私は毎日毎日聞き続けた。もう耳が『Morning Grow』の次は『海岸の煌めき』を待っているのだ。そんな私の考えを見透かすようなセットリストに思わずにやりとしてしまう。
MCではバックドロップ(例のSHE’Sロゴ垂れ幕)が今日初お披露目であることを4人が嬉しそうに話す。うわーこれ私たち初めて見れたんだ、と少し優越感。4人とも大阪出身ということで地元ローカルネタを挟んでくる。いつも通りの調子でしゃべる彼らに思わずおかえり、と言いたくなる。いや、私は京都府民だけどそんなの関係なくて、彼らが自分の住む街へワンマンライブで帰ってきたことが嬉しいのだ。しかも今日は早くにソールドして機材席まで開放してある。きっと彼らに見えている景色は最高なはずだ。

今回のアルバム名は「プルースト効果」からとったもので、「とあるきっかけで無意識下の記憶が蘇る経験のこと」だそうだ(RO69HPから引用)。はじめそれを聞いたときは抽象的でなんとなく理解したつもりだった。しかしそれは『Say No』ではっきりと現れた。自然と思い出さないようにしていたことがこぼれていくのだ。
陸上部で仲の良かった子たちが次々に部活をやめていったこと。
その後本当に部活内で1人になったこと。
それを誰にも言えなかったこと。
曲の間ずっと涙は止まらないのだが、不思議と辛くはなく温かかった。彼らの曲は壊れないように私たちを包んでくれるようで、最後には訳もなく笑みがこぼれるのだ。

セトリは本作のリリースツアーということもあって『プルーストと花束』収録曲がメインとなっていた。しかしライブでは恒例の『ever glow』コール&レスポンスではメンバー全員がマイクを通して歌ったり、『Un-science』での手拍子など既存曲も輝きを増していた。青の照明がバックドロップと4人を照らす。どこか異空間に迷い込んでしまった感覚になる。手拍子をあおるベース広瀬臣吾は一見無表情に見えるが楽しそうだし、なぜか遮るものもなく服部栞太の笑顔がダイレクトにくる。そんないつも通りと特別が入り混じるような空間に、次はどの曲が待っているのかとワクワクする。

「次が最後の曲になるんですけど」と井上が言い始めて正直びっくりした。えっ、もう終わり?こんなにあっという間なライブは初めてだ。その後井上が珍しく言葉を詰まらせたと思うと、さっきの衝撃を軽く超えることが告げられた。
「上京する」、ということだった。私は頭が真っ白になった。別に会えなくなるわけじゃないし、もともとライブでしか会えないんだから何も変わることはない。なのにどうしてだろう、距離が広がってしまったようだった。井上がどうにか話し始めようとしたその時、誰かが鼻をすする音がした。思ったより大きい、マイクでも通しているみたいだ。井上が「あれ、キム?」と振り返る。それは木村の泣いている声だった。思わず会場は笑いに包まれる。キムは何か言おうとするが言葉にならない。あ、寂しかったのは私たちだけじゃなかったんだ。ほっとした。「会場が一つになる」ことがどんなことなのか私は知らなかった。それは感情を共有するということだった。感情を共有できる限り、私たちとSHE’Sの距離は近づいたままだ。「僕らは大阪のSHE’Sです、って言い続けるんで。また会いましょう。」井上はそう言った。
〈何度もこの日々に憂い 足は止まって/何度もその度に 救われてきたから/何度でも何度でも 声を枯らし叫ぶよ/あなたが光なんだ〉
アンコール最後の曲『Curtain Call』のこの1フレーズがこの日を言い表すにはぴったりだった。

ライブが終わるとメンバーがピックを飛ばし始めた。栞太さんのピックが飛んでくる。私の足元に落ちたようだったようだが、先に前の人が見つけてしまった。残念。「次のライブまでに床と同化したピックを見つけられる視力を鍛える」ことを隣で見ていた友達と約束した。あの子は今年受験生なので「次」は1年後だ。私は私で明日から大学生。『Freedom』の歌詞に出でくる「18歳」と同い年だ。私は「理屈じゃないものに動かされ」この文章を書いた。書いているうちにぼんやりとした輪郭が徐々にそぎ落とされ、理屈抜きでやりたいことが見え始めてきた。まだちっぽけなものだけど、きっと次はあの子に堂々と伝えられる気がしている。

次が約束できるって幸せだ。きっと私の目の前には4人がいて、隣にはあの子がいる。また新しい私で、あの子とSHE’Sに会いに行こう。青い光を放つ彼らに。

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