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RIDEを聴いてなぜ泣くんだろう?

彼らの変わったもの、変わりえないものについて

諸星大二郎の『遠い国から 追伸 カオカオ様が通る』という漫画がある。
美しさについて考えるとき、いつも遠い昔に読んだそれを思い出す。
物語の鍵となるカオカオ様は謎の巨大生物であり、人間の住む街をたまに通り抜ける。
見かけた人々の反応はそれぞれで、カオカオ様を無視する人もいるし、混乱する人もいる。
なかでもタパリ人は特徴的で、彼らはカオカオ様をみるとすぐさま自分で自分の人生を終わらせてしまう。
彼らはカオカオ様をとても美しいものだと認識していて、感動を持ったまま生涯を終えたいと思っているのだ。

わたしはそこまで極端な行動をとろうとしたことは一切ないが(大事なことだ)、その作品を受けて「圧倒的な美」について考えるようになった。
長い人生のなかで心を揺るがすような美しい存在にひとつでも出会えたら、すごく幸せだと思う。
わたしにとってそれはRIDEだった。
そして彼らの美しさに触れるたびに、なぜか涙が出る。
 
 

RIDEに出会ったのは19歳のころで、大学に入ってはじめた音楽関係のアルバイトがきっかけだった。
UKロック好きの上司はシューゲイザーとともに青春を過ごしてきたという。その並々ならぬ熱気にあてられるかたちで、わたしはRIDEの音楽に触れた。
波ジャケ、きゅうりっぽい顔ジャケ、オアシスのアンディがいたバンド。靴をみるというくらいなのだから、ちょっと大人しい感じの音楽なんだろうか。
わたしのイメージはぼんやりとそんな感じで、ひとまずアルバム5枚が入ったボックスを買った(オール輸入盤、安かったのだ)。
とりあえず一番有名なやつ、と安易に考え、アルバム『Nowhere』の華麗なる一曲目、Seagullを聴いた。

きれいだ。

心からそう思った。そして全然大人しくねえ。
けれど、一口で「大人しくない」なんて論じてしまうのはあまりにも短絡的で、10秒も聴けばその美しさに気づく。
青くて、必死で、甘酸っぱい。決して二度とは訪れない、この時期だけのロマンティシズムの昇華。
汗が飛び散りそうなみずみずしさ、ノイズに隠された荒々しい、内向的な衝動。
マークとアンディの声は分かちがたいほど溶け合っていて、ひとつの生き物みたいに聴こえてくる。どちらがどちらかわからない。
息をつかせないドラムが、ふたりの声の裏で脈打つベースが、たっぷりかけられたディストーションが、思考を奪う。
運命は音楽のかたちをしていた。彼らの軌跡を追いかけるうち、ジョック・スタージスまで好きになってしまった。
 

初めて彼らを観たのは22歳の夏、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERでのアクトだった。
この日のことは断片的に覚えている。初めて観た4人はレコードの何倍かわからないほどすごかった。
このひとたちは本当に何年も4人で演奏しなかったんだろうか。
マークってこんなに笑うのか(口が逆三角形のまま、つまり彼は笑いながら歌っていた)。アンディって運指に無駄がないんだな。
ロズっていったよね、ドラムの人立つんだ!?スティーヴ、淡々としているけれどよく聴くと異次元のグルーヴだ。
Vapour Trailのイントロのカッティングが鳴った瞬間の興奮。Drive Blindで溶け合う4人のサウンド。
All I Wantでフロアが浄化されていくのを感じたし、ライブのためにアレンジされたフレーズやアドリブはなんで耳に録音機能がないんだよというくらい気が利いていた。
考えるすきを与えないほど惜しみなく音が注がれて、あの時間、世界は完全に4人の支配下にあるような気さえした。
感情の赴くままに書きつらねてめちゃくちゃになったメモにはこう書いてある。
<ライドを観た。轟音でラウドでロックンロールだった。ギターとベースが座ってボードをいじって、ドラムが立つ。
ロックバンドじゃあんまりないことかもしれない。でも、自分が欲しい1音にこだわり抜いた結果のロックンロールがシューゲイズなんだってわかって嬉しかった。>
読み直してもよくわからない。意味不明で恥ずかしいくらいだ。けれど、うまくアウトプットできないなにかがあったのだ。
そしてわたしは猛烈に感動して、熱を書きとめておきたかったのだと思う。地元へ帰るバスのなかでぼろっと泣けた。
支離滅裂な言葉に閉じ込めたRIDEに対する思い。わたしのRIDEに対する特別な思いは一体何なんだろう?
次に会えるとき、答えが見つかればいいと思った。
 

来日公演がせまるなか、RIDEから一枚の贈り物が届いた。『Tomorrow’s Shore』、4曲入りのミニアルバムだ。
わたしの学生時代は終わりかけていて、社会人になるまで間もないのに、何もかも上手くいかなかった。生きてるのってめちゃくちゃみじめだと思った。
アルバイトを終えてから、レコードの配送を待ちきれなくてすぐにストリーミングで聴いた。
彼らが再結成して初めてのアルバムになった『Weather Diaries』を経たリリースであることも、わたしにとって重要だった。
HOSTESSで彼らを観てから、わたしはちょっと怖かった。なにしろ、ライブもアルバムも超よかったから。
つまり『Weather Diaries』が最後のリリースになってもおかしくないと感じていたのだ。
しかし、このミニアルバムを聴く限り、こちらの勝手な心配をよそに彼らはのびのびと新しいやり方に挑戦していた。
バンドサウンドにエレクトロの要素をとりいれた試みは、新しいRIDEの世界観の構築に大いに役立ったと思う。
青春の衝動を抱えた音が、たおやかで繊細な今の音になった。違和感なく次の世界へ繋がったな、という感じだ。
ロズのドラムに少し遅れて入るマークの歌声が天啓のように響くPulsar。音という音が収束して、We’ve come so far、という言葉で解き放たれる。
小気味よいギターリフとどことなくビーチ・ボーイズを彷彿とさせるメロディ、Wear the impression……からのコーラスワークが浮遊感をもたらすKeep It Surreal。
ローファイな音像が郷愁をかきたてるような、薄らと影をまとったところが今の彼ららしいCold Water People。
ミニアルバム発売前に解禁されていたCatch You Dreamingなんてもう今のRIDEを代表する曲だって他人にプレゼンできるくらい良い。
ドリーム・ポップと言えそうなんだけれど、静かながら力強いビートと、凛としたストリングスの絡みが唯一無二だ。
この中で一音だって欠けたら100点にはならないと思ってしまう。
イヤホン越しだけど、RIDEはいつ会ってもきれいだな。
マフラーに顔を埋めながら、一曲ずつ噛み締めるみたいに聴いて、ちょっと泣いたせいで前が見えなくて電柱にぶつかった。
 

2017年の夏を経て、次の機会は案外早く訪れた。2018年2月22日、なんばhatch。
若いひとも、仕事帰りだろうかと思うひとも、長い間ファンなんだろうなあというひともいた(レアそうなTシャツ!)。
外国人らしきひともいて、みんなRIDEを観るためにここにいると思うと胸が熱くなった。一様にどきどきした表情で、入り口のほうを気にしながら立っている。
ライブはLennoy Pointからはじまり、わたしは人懐っこいマークの声と再会した。再結成後のマークの声には人懐っこいという表現が似合う気がする。
 

マークは昔の日本公演についてファンと喋ってみたり、轟音のなかでオーディエンスを煽ってみたり、アンディからはLet’s Shoegaze!の言葉が聞けたりした。
恒例となりつつあるロズの写真タイムもあった。スティーヴ、彼は見るたびに若返っている感じすらある。
RIDEはリズム隊が凄まじい。これはライブに行かないと気付かないことだった。
ロズのプレイは若い頃の彼に比べると冷静さを持ち合わせていながら、手数は減るどころか増えている感じすらある。
ドラムの熱を帯びた疾走感がかつての彼らの持ち味だったけれど、今の彼はエモーショナルな部分はそのままに、不完全な点を克服して技術を向上させたようにみえる。
スタジオミュージシャンの活動のなかでつかんだ成果だろうか。
「楽曲に入り込んで体現する」ことよりも「より音楽としての強度、クオリティを上げる」一歩引いた姿勢を持っている、といった印象だった。
スティーヴのベースの堅実ぶりは、RIDEのバンドサウンドをより強固なものにしていると思う。彼の音はいつでも誠実だ。
この4人の誰が欠けてもRIDEのサウンドにはなり得ない。

スペシャルな夜だった。親密で、一生忘れたくない夜だと思った。全部覚えて帰れればいいのになあと何度思ったんだろう。
セットリストは新旧半分ずつといったところだろうか。念願のTwisterella!聴くたびざあ、と心に涼風が吹くChelsea Girl。
RIDEの音楽は不思議だ。生まれ育った国も時代も違うのに、聴くたび懐かしい思い出がこみ上げてきて、切ないようなくすぐったいような気持ちになる。
出会って数年のわたしですらそうなんだから、RIDEとリアルタイムで人生を駆け抜けてきたひとなら尚更だろう。

しかし、彼らの代表曲に胸を躍らせながらも、わたしの耳は不思議と再結成後の曲をひろった。
Charm Assault、Weather Diaries、Pulsar、Cali、Lateral Alice、White Sands。
そのおかげで、アンディが低くLateral Aliceと呟いた瞬間めちゃくちゃ興奮してしまった。むせた。
新曲は夏にもいくつか聴いたはずなのに、もっと雄弁にわたしに語りかけてきたのだ。

音にたゆたいながら、なんでだろうなあと考えた。正直、ここまで色々考えながら観たライブは初めてだった。
解散にまつわる事情は「人間関係のもつれ」とか、一言で説明できるほど簡単なことではなかったんだろうな。
このあとアジアツアーってここにいる22歳(わたしだ)より体力ありあまってるじゃん。すげえな。

そしてめちゃくちゃシンプルな答えが出た。わたしって今のRIDEが一番好きなんだな、と。
もちろん映像で観る昔の彼らも大好きだ。自分たちの奏でる音楽に必死で、エモーショナルで、ひりついた焦燥感すら感じとれる。

でも、Hurricane#1があり、Oasisがあり、Beady Eyeがあった。
The Animalhouseやソロワーク、他バンドのサポートや、演奏活動から身を引いていたメンバーもいた。

4人はこれまでの長い人生で起きたことを全部受け入れて、ここに立っている。
彼らは青春を無理に引き延ばしたりはしなかった。いまの4人にしか作り得ないものを作った。わたしはそこに強く惹かれたのだ。
変わったことも変わらないこともある。
少なくとも年齢は避けがたい変化だし、音楽シーンも変わっている。
変化していないことのほうが少ないくらい。
でも、4人のコアの部分は変化していない。
むしろ解散と再結成を経て、もっともっと輝いている。
音楽を愛している純粋な気持ち。新しいことをやり続けたい、ひとところに留まらないという気概。
なにより、自分たちの奏でる音楽に彼ら自身が期待しているように見えた。少年みたいだ。音楽好きの少年が目の前に4人いる。
自分たちの作り出す音にワクワクしないとここまで良い曲とライブはできないだろう。
本当はリアルタイムで彼らの音楽に出会えた人々が少しうらやましかった。
けれど、今の4人に出会うことができて心からよかったと思った。
これまでの人生を受け入れてここに立つ4人がとんでもなく尊くみえた。
わたしの出会ったRIDEは自分よりずっと年上だったけれど、少年だった。
White Sandsの途中で鼻の奥がツンとしたが、びかびかに光る照明の中の4人を網膜に焼きつけたくて我慢した。
今のRIDEが一番好きだ。馬鹿みたいに何度も心で繰り返した。
今のRIDEが、わたしにとっては一番美しい。だから泣けるんだ。
 
 

ライブがはじまる前、大阪の街を歩くアンディとロズに出会った。
冬にしてはあたたかい日で、ふたりの明るい色の髪が太陽の光をうけてきれいだった。
今まで遠い世界に住んでいたふたりは確かに同じ日だまりのなかにいて、しかも目の前で微笑んでいた。
実は4人に手紙を書いていた。花が描かれた日本画のカードを4枚、英語に不得手なので内容はとてもじゃないけれどいいものじゃない。
さらに言うなら、スタッフに預けられたらラッキーなほうで、届けられるかもわからない。
けれど日本に来てくれたことが嬉しくて、あなたたちの新しい曲が本当によかったんだよと伝えたかった。
直前まで書いて意味あるかなあと思っていたけれど、一念発起して徹夜して書き、間に合わなかったから空港でも必死に書いた。
ロズは驚いた顔でみて、4通あることを確認してから「おお!」とか言ってくれたと思う。
「これからあなたたちのライブに行きます」とか「ファンです」すらすっ飛ばしたわたしにOKOKを連発し、他のメンバーにも渡しておくからねと言った。
ロズの差し出してくれた手があたたかくて、アンディの見上げた目が空より青くて、ああ、このひとたち同じ人間なんやなあと思った。
RIDEのメンバーはSNSでファンと交流する。アジアツアーのなかではサイン会もやったみたいだ。
ファンを大事にするところも彼らの変わらないところなんだと思う。

帰りの飛行機は今までにないくらい泣けてきて困った。悲しさじゃない涙だった。
手紙のなかに、次はわたしがイギリスに観に行くと書いた。いつになるかわからないけど、できるだけ早いほうがいいだろう。
ハンカチも忘れずに、また泣くんだろうし。

RIDEを聴いてなぜ泣くんだろう。美しいからだ。
その美しさが、奇跡みたいだからだ。
4人で集まって、また音楽をやることを選んでくれた在りかたが。
少年みたいな音楽を愛する心が。ファンを大事にしてくれるやさしい気持ちが。

もう一度言う。今のRIDEが一番好きだ。
そして、今のあなたたちが一番美しい。

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