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2017年4月3日

はち (24歳)

私と涙とエレカシと

ドーンと30周年を迎えた、戦う男たち

 薄暗く、スモークがたかれたステージ。ざわざわしながらも密かにその時を待つ人々。あの空間は何度経験しても緊張感に満ち満ちていて、呼吸が嫌でも浅くなる。
 2017年3月20日。エレファントカシマシのデビュー30周年記念コンサート「さらにドーンと行くぜ!」が大阪城ホールで行われる日だ。彼らに相応しい、最高にストレートなタイトルである。どんな曲を披露してくれるだろうか。どんな表情を見られるだろうか。想像は膨らむが、そんなものは公演が始まれば無駄になる。いつも想像を高く大きく越えていくのだから。
 彼らがデビューした1987年、私は生まれていなかった。人間として半人前どころか、4分の1人前にも満たなかったおよそ10年前、エレカシのファンになった。きっかけは些細なものだったが、当時は学生で勉強とか恋愛とか対人関係とか、たまに面倒くさくなってしまうような日々の営みに疲れていたように思う。生きるって何なのか、と答えようのないことに自問自答を繰り返したこともあるし、漠然と悲しくてやるせない毎日だった。エレカシにはその日々に潜んでいる悪魔を追い払ってもらえたような感覚だった。音楽を聴いて涙が出たのは初めてで衝撃を受け、そこですぐに一生ついていくと決めた。だからココロを掴んで離さないエレカシは、今も常に私の生きる原動力になっている。
 一生ついていくと決めたとはいえ4分の1人前は初め、世界観を理解するのに苦労した。エレカシは「耳で聴く文学」だ。難しい言葉は出てくるし、文字に起こせばまるで小説の一節のよう。それでもvo.宮本浩次が身を粉にする思いで綴った歌詞は、時に後ろから背中を押してくれる追い風になり、時に胸に突き刺さって抜けない刃になり、時に砂漠の真ん中で迷ってしまった私を救うオアシスになってくれた。きっとそう思っているファンの方も多いはずだ。私の人生は私しか知らないはずなのに、自分のことを歌ってくれているのでは?と思えるくらい、リアルで不器用でヒューマニズムに溢れている。寄り添うなんて生温いものではない。ふと陥る虚無感や怒り、途方もない切なさを真正面から、正々堂々と見せつけてくる純粋さがある。
 無論、歌詞だけでなく曲にも同じことが言える。宮本が作った曲を、gt.石森敏行、ba.高緑成治、dr.冨永義之の3人が盛り立てる。しかしその裏では宮本が極限まで、容赦なく理想を追い求める形で舵を取る。暴力的で美しく、壮大でキャッチ―さもある、そんな曲たちを学生時代からの友達同士、という4人でしか鳴らせない骨太なサウンドで表現する。また、4人にしか分からない絶妙な空気感と踏み込めない領域があって、ファンにとってはたまらないのである。さて、もうすぐコンサートが始まる。電源は切って、カバンの中にしまっておこう。私ができること、それは30周年をお祝いする…ことも大事なことだが、まずは何も考えずに楽しむこと。それに尽きる。
 会場が暗くなると、ステージ両側に設置されたスクリーンがパッと明るくなった。メンバーの若い頃から現在に至るまでの写真が次々と映し出され、頭の中を彩っていく。「ウワアア…!」と会場が地鳴りのようにどよめいた。エレカシ30年の歩み、重み。視界がどんどん滲んでいく。そうか、私は泣いているのか。開始10秒そこそこで涙腺はすでにクライマックスを迎えてしまっている。なんと頼りない涙腺だ。今から泣いていてどうする。いや、そもそも今日は泣きに来たのではないはず…。スクリーンの映像が今のエレカシをドーンと映し出した。いよいよ30周年イヤーが目の前で幕を開く。ああだめだ、やっぱり涙が止まらない!
 エレファントカシマシは今年、アニバーサリーイヤーということでテレビにラジオに雑誌にと精力的に活動している。特に、オールタイムベストアルバム《THE FIGHTING MAN》の発売(2017.03.21)は大きいイベントの一つと言っていい。30周年にちなんで30曲3000円、しかも選曲は宮本自身というではないか。丹精込めて作った歌の中から自らの手で選定するというのは、根気と時間が非常にかかるものだと思う。宮本が頭を抱えて唸る姿、想像するに難くない。私は完全受注生産のデラックス盤(現在は予約生産終了)をすぐさま予約した。12000円だったが、大した金額ではなかった。というと嘘になるし「い、いちまんにしぇんえん…」と泡を吹きそうになっていたのも告白しておく。しかし幻の音源など貴重な資料が詰まっているため、今後の大切な財産になることは間違いない。

 会場の熱気がどんどん高まっている気がする。10000人近いお客さんが一斉にステージを刮目すると、いつもの様子で悠々とメンバーが姿を現した。わくわくして、たくさん手を振ったら体が持ち上がるように軽くなっていくのが分かった。私にとっては2017年エレカシ初め。1曲目は何なのかと期待が高まる中、石森がギターに腕を振り下ろすと聴き慣れた、それでも1曲目には珍しいフレーズが空気を鋭く切り裂いた。オールタイムベストアルバムのタイトルにもなっている《ファイティングマン》だ。かっこいい、かっこよすぎる。前奏から耳と内臓がビリビリする感覚が心地いい。
 “黒いバラとりはらい 白い風流し込む oh yeah”
 叫び散らすわけでなくあくまで冷静な始まりだったように感じた。エレカシにスイッチを押されて、一緒に歌っていた。コンサートに理性は必要ないと思わされる瞬間だ。曲の途中に宮本が「エブリバデー!」と叫べば大歓声が返り、合間もファンがメンバーの名前を愛称で呼ぶ。コンサートの独特な一体感に飲み込まれてつい無意識に叫んでいる人もいるのではないか。だって、お祝いだもの!
 自らを「総合司会」と謳う宮本は、曲の解説を交えながら「らしさ」もあいかわらずだった。ステージには花道があったのだが、客席に降りたと思えば花道によじ登ったり(ほぼ這っていた)、メンバーを「もっともっと」と煽ったり。それに動じることなく忠実に真面目にこなすメンバーとのギャップもまた愛らしい。セットリストは宮本曰く「エレカシの基礎」であるベストアルバムからほとんどだったが、コンサートでは定番の曲やレアな曲も含め全30曲を披露した。1曲1曲全力で、かつ懇切丁寧だった。50歳とは思えない声量、体力、気迫。自分の中に眠る細胞を、起爆剤として片っ端から叩き起こしてくれた(言わずもがな、涙腺は粉々になった)。朗らかであり荒々しい、両面性のあるコンサートだった。「また会おう」と宮本はお得意の投げキッスをして、30周年一発目は幕を閉じた。いつでも戦う男たちは、ステージに春の始まりのような爽やかな風を残して去っていった。私は一瞬現実に戻りきれず、ストンと椅子に沈み込むと一つ息を吐くしかできなかった。
 家に帰りながら記憶を整理しようとしてみるが、どの曲もどの場面も「かっこよかったな…」という感想しか出てこないことに気付かされる。目まぐるしくもただただ楽しく、勇気づけられた力強い時間。華やかなステージで声援という音を浴びて輝くエレカシをこの目で見ることが出来てよかった。しっかりと赤く腫れた目がその証拠だ。歌ったり、奏でたり、あるいは笑って、泣いて、叫んで、怒り散らす、そんな姿をいつまでも見ていたい。ここからエレカシは年末まで全国47都道府県を巡るツアーに出る。あと私は何回泣けばいいのだろう。でもそれは愚問だ。《涙》の歌詞に答えはある。
“悲しい時には 涙なんかこぼれない うれしい時には 肩怒らせ 世を笑うさ”
そうだ、世を笑ってお祝いをしようじゃないか!30周年本当におめでとう!これからもついていきます!エレファントカシマシ、ドーンと行け!

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