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あなたの思い浮かべる「あなた」は誰ですか

WANIMA「TRACE」について思うこと

世の中には、二種類の歌がある。テーマがはっきりしている歌と、そうでない歌だ。
WANIMAの歌に関していえば、「1106」が前者の最たる例だろう。KENTAが亡き祖父に宛てた、手紙のような歌。「ありがとう、愛してる」の気持ちを込めた、とてもまっすぐな歌。

じゃあ、テーマのはっきりしていない歌は?

私は、「TRACE」だと思う。

初めてその歌詞を読んだとき、「なんかよく分かんないけど分かるなあ」という、かなりぼやっとした感想を抱いた記憶がある。なぜ、「なんかよく分かんない」のに「分かる」んだろう。私なりに、その理由を考えてみた。

この歌の主人公を仮に「僕」とおいてみる。そもそも、「TRACE」とは、「轍」という意味。「僕」は、自身が今まで歩んできた道のり、「轍」を、足を止めて振り返っている。その道のりは決して平坦ではなくて、傷つくことも、絶望することも数えきれないほどあったけれど、「あなた」の力を借りて、「僕」は歩き続ける。「あなた」とは、多分「僕」にとってすごく大切な誰かのこと。

―誰にも言えず傷は増えて繰り返しすり減らす日々
―過ぎる時間も変わる季節にさえ置いて行かれこの時代に慣れるまで
―あなたがくれた(あの言葉が)いつだって背中を押してなんとかここまでたどり着けた

きっと「僕」は、優しくて真面目で、すごく繊細な人なんだろう。変わってゆく日々と変わらない自分のギャップに心をすり減らして、他人の冷たさもちょっとした悪意も、真正面から受け止めてしまうような人。そんな「僕」が、苦しみながらも歩き続けてこられたのは、他でもない「あなた」のおかげ。だけど、この「あなた」が誰なのかは、歌詞を読んだだけではさっぱり分からない。家族かもしれないし、恋人かもしれない。友達の可能性だってある。

―泣かないで涙拭き笑みでまた逢えたらあの頃のまま…

ただ一つ分かるのは、「あなた」がもう簡単には逢えない人であるということ。「あなた」は、「僕」のいる場所から遠く離れたところで暮らしているのかもしれない。けれど、やっぱりはっきりとした居場所は掴めない。

―いつか元通り戻るようなありふれた夢を見てる (でも)他人は言う「目を覚ませ」

「僕」が見ている夢はきっと、「お金持ちになりたい」とか「世界一周をしたい」とか、そういう夢とは違うモノ。手の届かない距離にいる「あなた」にもう一度逢いたい、「あなた」がそばにいることが当たり前だった、「元通り」の生活をしたい、っていう夢だと思う。そんな「僕」を、他人は冷めた目で見つめる。「現実を受け入れろ」って。「あの人はもう簡単に逢える人じゃないんだよ」って。だけど、他人の声をあっさりと受け入れてしまえるほど、「あなた」は「僕」にとって軽い存在なはずがなくて。

―あなたがいれば…今ならあの日の嘘もあの夜も超え許せるから…

「僕」と「あなた」が過ごした日々は、決して穏やかなものばかりではなかった。ぶつかって、すれ違って、傷つけあって、互いに互いを許せない日もあった。「あなた」と離ればなれになってしまった今なら、素直に「ごめんね」と言えるのに、「僕」が言葉をかけたい相手は、もうここにはいない。

こうやって歌詞を読み解いていくと、なんとなく、「あなた」はもうこの世にいない人のような気がしてくるけれど、そう決めつけてしまっては、きっとこの歌が存在する意味がなくなってしまう。「僕」と「あなた」の関係性も、「あなた」の生死も、なにもかもぼやけているからこそ、「TRACE」はその真価を発揮する。

この歌の最大の魅力は、聴き手に解釈の余地が残されているところ、聴く人によって捉え方が無限大に広がるところにあると、私は思う。
大切な家族を亡くしてしまったときは、この歌が、雲の上の愛しい人と自分を繋ぎとめてくれる。遠い世界に行ってしまった「あなた」に、そこで見守っていてね、と優しく呼びかけてくれる。ある人は、「あなた」を別れた恋人に置き換えるかもしれない。そんな人が聴く「TRACE」は、あなたにもう一度逢いたい、楽しかった日々を取り戻したい、と強く願う歌になるだろう。

「TRACE」は、聴き手の数だけストーリーを紡いでくれる歌だ。
だから、遍く人々の胸を打つ。
だから、「なんか分かんない」のに「分かる」んだ。

もちろん、この言葉を綴ったKENTAの目には、なにかはっきりとした景色が映っていたんだろうし、この歌を歌うWANIMAの3人の中には、確固たる思いがあるんだろう。
けれど、私たちはそれを知ることができないから、代わりにそれぞれの「あなた」を想う。

私にとっての「あなた」は、離れて暮らしている家族のときもあれば、今はもう逢えない好きだった人のときもある。支えてくれる友達のときも。「TRACE」を聴くと、たくさんの人の顔が浮かぶんだ。この歌はきっとこれからも、人生の色々な場面で、形を変えて私に寄り添い続けてくれる。そんな歌に出会えた私は、幸せ者だと思う。

これを読んでくれたあなたにも、大切な「あなた」はいますか?

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