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Lemonの匂いは涙の味

米津玄師のLemonを織り混ぜた私の苦くて甘い記憶

私の社会人一年目といえば一言でいえば、不幸。社会人としてまだ足りない部分が多い私に同僚や上司は必要以上に罵り、大した人間ではないと思える同僚に人格を否定されたこともあった。だが、そこで心配して声を掛けてくれるような優しい人はいない。逃げ場のない私は耐え切れなくなると、逃げ場を探すようにトイレに駆け込んでは泣いていた。【受け止めきれないものと出会うたび 溢れてやまないのは涙だけ】常に殺伐としていて、心苦しい日々。やがて、一年が経ち異動が発表されるシーズンになる。転勤してくるのは新しい支店長だった。Lemonでいう光は私にとっての支店長だ。ここからは支店長のことを彼と呼ぶことにする。歓送迎会の日は一年目の研修があったために私はひとり遅れて着いた。着いた瞬間に案内された私の席は彼の目の前の席。一息ついた途端、斜め横のほうから「なんでこんなに遅くなるんだろうねー」と支店長と同僚が嫌味を言うようにひそひそ話している。嫌な空気感だった。私はいつものようにその場にいられなくなりトイレに駆け込み、泣いた。その時の私は「彼に泣いている弱虫な自分を見られたくない。彼も私を悪く言う人だったりして」と空回る気持ちでいっぱいで、私はぐしゃぐしゃの顔で席に戻ると赤い顔が恥ずかしくて下を向いた。【胸に残り離れない 苦いレモンの匂い】苦いレモンの匂いとはしょっぱい涙の味を比喩表現しているのではないだろうか。

その時間は長かったが、電気が消え、ノリの良い音楽が流れ始め、お店の人が彼への歓迎のケーキを運んできた。そのケーキを載せたお皿には文字や可愛らしい絵が描かれていて、私は彼に「こっちにおいで」とでも言われたのだろうか。どういうわけかその時私は彼の隣に座っていた気がする。ろうそくの火が消え、拍手の音の余韻がなくなり落ち着いたころ、彼はケーキを指して私に「可愛いね」といった。たったその一言だけで、私の中に唯一の光が見えた気がした。それからのこと、その出会いを境に私の毎日はみるみる変わっていくことになる。彼は決して周りと一緒になって私を罵ったりせず、私という人間を知ろうと深いところまで付き合ってくれる人だった。周りの同僚にも「本当は面白くていいやつなんだ」と言ってくれたりもした。そのおかげで驚くことに周りの私に対するあたりはなくなっていった。嫌なことがあったときは私の表情だけで気付き、誰よりも早く「なにかあったのか?」と声を掛けてくれて、私の不満を解いてくれた。私が嫌な思いをしたときに彼がそれに気づかなかったことはなかったと思えるくらいに。【何をしていたの 何を見ていたの わたしの知らない横顔で】

彼と出会ってから私は幸せで、嬉しくて流す涙を知った。私を大切にしてくれる彼の喜んだ顔が見たくて、悲しい顔が見たくなくて、私は彼のために仕事を頑張ったといえる。ある時、友人に彼のことを話したら、「同期だったらいい感じの二人だよね」といわれ、いっときは恋をするときの感覚にも悩まされたことがあったほど、彼を前にして顔が赤らんでしまうときもあった。【自分が思うより 恋をしていたあなたに あれから思うように 息ができない】

幸せな日々は約二年間続いた。三年目の春、異動が発表され、彼と私だけがそれぞれ別の場所に転勤になる。うすうす彼が転勤ではないかと感づいてはいたが、知った時は涙が止まらなかった。彼には「新しいところでもお前ならやっていけるよ。今までが大変すぎたんだから。みんながみんなひどい人でもないよ」と言われた。自分でもわかっていることだ。

【きっともうこれ以上 傷つくことなど ありはしないとわかっている】

だがそれ以来、彼とは会っていない。私が容易に彼に連絡を取ったら今までの彼に頼っていた自分と変わらないと思われそうだから。きっと彼は自立した私を望んでいると思う。【あんなに側にいたのに まるで嘘みたい とても忘れられない それだけが確か】

彼と出会わなければ私の暗い過去に終わりはなく、今日の今日まで続いていたかもしれないと恐ろしいことを考える。【戻らない幸せがあることを 最後にあなたが教えてくれた 言えずに隠してた昏い過去も あなたがいなきゃ永遠に昏いまま】

どんなに辛いことがあっても彼と居られる時間があるだけで私の心はひとりではなく、どんな日々でも日が落ちるころには愛せていたような気がする。【あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ そのすべてを愛してた あなたとともに】

今も辛いことがあると彼と居た時のことを思い出す。今も私の心の中にはあの頃の彼がいる。彼の気持ちだろうか。【どこかであなたが今 わたしと同じ様な 涙にくれ 淋しさの中にいるなら わたしのことなどどうか 忘れてください そんなことを心から願うほどに】

孤独だった私がひとりではなかったと思えた二年間の記憶。今もこれからも先も彼は私にとっての光で在り続ける。一緒に過ごせたという事実があるだけで私は十分生きていける気がしている。【切り分けた果実の片方の様に 今でもあなたはわたしの光】

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