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魔法の夜

BUMP OF CHICKENが憧れであること

 3月17.18日の振替公演をもって、ツアー「PATHFINDER」は幕を閉じた。
私が最後に参戦した2月11日の埼玉公演からは、もう1ヶ月が経つ。
このままずっと浸っているんじゃないかと思うほどの余韻からも知らない間に抜け出していて、普通の日常を普通に生きている。異常なほどキラキラと輝くあの瞬間が消えてしまいそうだけど、どうにかしてあの時の気持ちだけでも残しておきたい。

 約半年をかけて全国を回ったPATHFINDERツアーファイナル、埼玉公演。このツアーに参戦するのはこの日で3回目。千葉幕張メッセ2日目、静岡エコパアリーナ1日目、そしてさいたまスーパーアリーナ。私は2日目、2月11日の参戦だった。
この日は結成記念日で、ちょうど22周年。キリの良い数字じゃないと言った藤原さんに、「ゾロ目だよ!」と投げ掛けたお客さんの言葉で笑うメンバーが印象的だった。
この日のために生きてきた、と言ったら大袈裟だけど、そのくらい私はこの日を楽しみにしていた。
好きなバンドのライブとはそういうものだと思う。
毎日やるなら毎日だって行きたいけど、ツアーも単発ライブも、フェスにだって最近はあまり参加しないバンプにやっと会える日だ。ただでさえ楽しみなのに、ツアーファイナルでしかも結成記念日。当選のメールが来たときは、あと5年はライブに行けないだろうとすら思った。

 朝7時に起きて8時に家を出て、会場に着いたのは9時半頃。ファイナル限定のグッズを買うために早く来た甲斐あって、お目当ての品はしっかり買えた。お昼ごはんを食べたりさいたま新都心を観光したりしながら開場時間まで過ごしていたが、こんなに幸せな待ち時間は他にない。四方八方バンプのグッズを身に纏った人たちに囲まれながら、ふわふわと浮わつく気持ちを感じていた。

 この日でバンプのライブは4回目の参戦だった。忘れもしない2013年9月25日、ベストアルバムを引っ提げたツアー「WILLPOLIS」横浜アリーナ公演に、中学3年生の時に一度だけ参戦していた。それから私が高校生のあいだに2回ツアーが行われていたけど、部活があって行けなかった。
この3年間の部活があまりにも大変で窮屈で、休みがないとか規則が厳しいとかそれは大前提だとして、たった1人しかいない先輩との仲が上手くいかなかったことが一番苦しかった。どんなに嫌でも毎日毎日顔を合わせて、適当に笑って、それでも上手く笑えないときがあって。それが拗れて周りにたくさん悪い影響が及んで、もう誰が悪いのか何がいけないのか考えるのも嫌になったり、どうしたらいいかわからないことだらけで、何もかも投げ捨てたくなるような日々だった。
それでも時々思い出す、2013年9月25日。この時と比べれば苦労なんて少なかった中学時代だったけど、あの日の興奮と感動、貰ったたくさんの勇気を私はちゃんと覚えてる。
その日、ライブ終盤に演奏された「fire sign」は、私が初めてのライブで一番に歌ってほしいと思っていた曲だった。

“旅立つ人よ その行く先を 照らす明かりは 君の中に”(fire sign)

“星を廻せ 世界を掴め 僕らの場所は 僕らの中に どんな時も”(fire sign)

こんなに広い世界の中で、自分だけが自分の世界の中心であること。
こんなに窮屈な世界で、何よりも自分が自由であること。
弱い自分のままで一歩踏み出す強さを教えてくれたこの日のfire signを、私は何度も何度も思い出した。
自分が選んだ生活で、選んでいない向かい風の中で、打たれて、流されて、それでも耐えることを選んだ高校時代。まるで自動的に進む世界で、それに乗っかっているだけのような生活も、正しいか間違いかもわからない選択も、そんな状況で歪んでしまった心も、全て否定しないでいてくれたのはバンプだけだったような気がする。

 たった一度のライブを、もちろんそれだけでなく、バンプの音楽を少しずつ勇気に変えて、それを消費してはまたバンプから力をもらって、少しずつ小さい力を振り絞って。そうやって生きてきた高校時代を、今回のツアー「PATHFINDER」で思い出した。歌われた全ての曲に、とても良いとは言いがたい思い出ばかり詰まっていた。そしてこの日、埼玉公演でもそれは例外ではなかった。

 18時から予定されていたライブは、ドキドキで正直覚えていないけど、数分遅れて始まったと思う。
ずっと遠くから聞こえていたBGMが鳴り止んで会場が真っ暗になった。メンバーが順番にステージに上がってきて、最後に登場した藤原さんがギターを掲げたときは、興奮が最高潮に達した。
一曲目の「GO」が始まると、興奮が最高潮を突破していた。

“歩くのが下手って気付いた ぶつかってばかり傷だらけ
どこに行くべきかも曖昧 でこぼこ丸い地球の上”(GO)

まるでネガティブな歌い出しだけど、後ろのメロディーはとても嬉しそうに跳ねる。
高校3年生の冬に、辛い受験勉強中に聴いてノートをぐしゃぐしゃにするほど泣いた曲。
このために用意されたんじゃないかと思うほどその時の心境にマッチして、それを打破する勇気をくれた。

“とても素晴らしい日になるよ 怖がりながらも選んだ未来”(GO)

“強くなくたって面白い 涙と笑った最初の日”(GO)

右も左もわからず、狭い歩幅で何度も立ち止まりながら進む私の横に、彼らは笑顔で寄り添う。
今までの過去を思い出して、これからの未来を思い浮かべて、今目の前で演奏するバンプを見て、ボロボロと泣いた。泣いていた。けど、「22歳になったぜ!」と叫ぶ藤原さんの声を聴いたら、感傷に浸って泣いてなんかいられない。私もはやく、彼らの誕生日をお祝いしなくては。
あの時、怖がりながら選んだ未来がとても素晴らしい日になってることを、この瞬間、私はちゃんと実感していた。

 ライブ中盤に演奏された「pinkie」は生で聴くのは3回目で、1回目も2回目も泣かなかったのに、この日は何故か泣いてしまった。

“変われなくて いつも戸惑うけど 誰か一人が認めてくれたら もうそれでいい”(pinkie)

“あなたのためとは 言えないけど あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい”(pinkie)

変わってしまった自分も、変われないままの自分も、私は認めてもらいたかったのかもしれない。
明るかった小学、中学時代とは裏腹に、たくさんの山を越えながらどんどんひねくれて、完全に歪んでしまった高校時代。何が私を変えたのか、何が私を変えてくれなかったのか、考えるのも億劫になった。
「好きでこうなったわけじゃない」なんて、今さら誰に言うつもりもないし、言ったところでどうにもならないのはわかってる。でも、私は誰かにこんな自分を認めてほしい。
たった一人でも、大切な誰かに認めてもらえたら、きっとそれでいい。
こんな思いを掘り返されたら、泣くのなんて当たり前かもしれない。
藤原さんの語る「あなた」や「君」なんていつも不特定で不明瞭で、家族、友人、恋人、それはいくらでも聞き手の中で想像できる。自分にもバンプ自身にもなり得る。
この時、たぶん私の中であなたは、バンプだった。
変わったり、変われなかったり、それを繰り返すばかりの情けない私がここで出した声が、ここで挙げた右手が、彼らへの感謝が、それだけが伝われば、もうそれでいいんだ。彼らは今、私のために音を鳴らして、私は今、彼らだけのために右手を挙げる。
こんな独りよがりの発想も、特別なバンプのライブだから許してほしい。

 終盤での藤原さんのMCは、良い意味で衝撃だった。「昔の自分では絶対に書かなかったような曲も、今書いてる。これからやる曲もそのひとつ」だと言って、「虹を待つ人」を演奏した。
私は素直にカッコいいと思った。いや、バンプがカッコいいバンドだと言うことを、思い出した。違う、彼らがカッコいいということはわかっていたけど、こんなに彼らのカッコよさを痛感したのは初めてだった。

“そのドアに鍵は無い 開けようとしないから 知らなかっただけ 初めからずっと自由”(虹を待つ人)

“あるいは気付いていて 怖かっただけ どこまでもずっと自由”(虹を待つ人)

“うまく手は繋げない それでも笑う 同じ虹を待っている”(虹を待つ人)

きっとバンプ自身、あまり強くはないんだと思う。バンプ・オブ・チキンの直訳が「弱者の一撃」であるくらいだから、たぶんそうなんだろう。
それでも、彼らが新しいことに挑戦して、ひとつひとつドアを開けていく姿はカッコいい。
紛れもなく、彼らは私の憧れだ。
たとえ弱くても、たったひとつ”音楽”をもって、自分たちで自分たちを肯定していく彼らが、私はこの時、目に見えてカッコよかった。

 アンコールでは一曲目に「ガラスのブルース」、そして二曲目には「流星群」が演奏された。この曲では思わず泣いた。これもまたボロボロに。嗚咽すらも漏らしてしまった。

“こんな魔法のような夜に ようやく君と出会えた
たとえ君を傷付けても 見つけたかった
あの雲の向こう側の全部が 君の中にあるんだよ
僕の見たかった全部が 笑顔を越えて 零れたよ”(流星群)

涙を星として、その星を見たいんだと言う。例え相手を傷付けることになっても、その星を見たいと。その星を見て初めて君に出会えたと言われると、とうとう涙を堪える理由も無くなってくる。
忘れてしまいたいような記憶を持って、ひねくれた自分になって、それでもバンプは、その記憶に蓋をさせないんだろう。ひねくれた私を、そのままでいいと言ってくれるんだろう。

 本当に、まるで魔法のような夜だった。
もう忘れたはずの痛みを思い出して泣いていた。それなのに、今はまだ痛いはずの傷が、痛くなかった。

 そのあと、藤原さんが一人残って新曲を弾き語りして、この日のライブは終わった。
正直、流星群で泣いてからはもうよく覚えていない。
ライブ直後の感想はただひとつ、”カッコよかった”

 余韻に浸りながら電車に乗り、最寄り駅で降り、初めて行くお店でカレーを食べてから友達と別れた。その瞬間、感動と興奮と疲労と寂しさがドッと押し寄せてきて、何とも言い表せない感情が生まれたけど、それを全部背負いながらゆっくり歩いて家に帰った。

 それから、魔法なんか微塵も感じない夜を何度も過ごして、ライブ後の帰り道に生まれた複雑な感情もそろそろ消えそうだ。
あの魔法のような夜に、私は何か忘れ物をしてないだろうか。
全部もらって全部拾って、ちゃんと帰って来られただろうか。
もしも忘れ物をしていたら、また取りに行けるだろうか。
なんて考えながら、ちゃんと記憶を辿って私なりにPATHFINDERツアーファイナルさいたまスーパーアリーナ公演2日目、2月11日のことを記録しておいた。

 今さらだけど、ツアータイトルの「PATHFINDER」は、バンプにぴったりだと思う。バンプというか、彼ら4人にぴったりだ。
迷いながら怖がりながら、その曲が求める音楽を追及する”探求者”である、カッコいい彼ら4人に。

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