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The Stone Rosesというグッド・トリップ

マッドチェスターに置いてきた10代の愚かさ

「これからはオーディエンスの時代だ」
彼らが言ったとされる有名な言葉。

不況にあえぎ、体制に唾を吐く「怒れる若者の時代」は終わった。
不満をレコードに乗っけて撒き散らし、ライブ中にブン殴り合うのはもうクールじゃないし、ロックの正しい形でも何でもない。

オーディエンス自身が、甘ったるくて青臭くてとにかくヤバそうなキラーチューンに頭からダイブし、トリップするのがロックのニュースタンダードだ。
そんな風に価値観を塗り替えたのがマッドチェスターというジャンル、ならびにThe Stone Rosesというバンドなのである。

現在何かしらのメディアがロック史として当時を振り返る時、マッドチェスターにスポットライトが当たることは少ない。
世紀末のカオスをシリアスなムードに乗っけたようなグランジや、所謂クール・ブリタニア戦略の延長線上にあるブリットポップばかりが取り沙汰されている。

マッドチェスターが極めて刹那的で、ローカルなムーブメントとされているからだ。

ただ、そんな事実は当時の私には何の影響も与えなかった。
初めてThe Stone Rosesを聴いた時の多幸感は、その後に出会ったどんな音楽にも塗り替えられない素晴らしい体験だったからである。
 

“I wanna Be Adored”

I don’t have to sell my soul
He’s already in me
I don’t need to sell my soul
He’s already in me

I wanna be adored
I wanna be adored

「誰かに魂を売る必要は無い、必要なもの(神様)はもう既に俺の中にある。
俺は崇拝されたい。憧れられたいんだ。」
 

ティーンエイジャーの持つ愚かで向こう見ずな希望のかたち、
それを取り巻く歪ながらも美しい心象風景がみえてくる。
「憧れられたい」「崇拝されたい」というパラノイアじみた願いは、地方都市に住む高校生だった私とマンチェスターの若い彼らのどちらにも遜色は無かった。
そんな当時の私にとって、The Stone Rosesは日々の鬱屈を凌駕する圧倒的な肯定を与えてくれるドラッグのようだった。
 

“Elephant Stone”

Burst into heaven
Kissing the cotton clouds
Arctic sheets and fields of wheat
I can’t stop coming down

「天国にブッ飛んで、綿飴の雲にキスをする。
一面の海氷に、だだっ広い小麦畑。もう止めらんないよ」
 

自転車で走る国道沿いが、退屈なチェーン店ばかりでも。
乗り込んだバスが、塞ぎ混んだような顔の老人ばかりでも。
イヤホンをつけて彼らの音楽を聴けば、キラキラした音と言葉が降り注いでくれば、自分の未来は無限に広がっている気持ちになった。何にでもなれるような気さえしていたのである。
そして、たとえ後追いでも 冒頭での彼らの発言が指す「オーディエンス」とは私そのものであると信じていた。ロックを楽しみ、ロックに夢を見て、ロックを愛していた。
 


 

さて、今でも私は彼らが言った「オーディエンス」の一員なのだろうか?
何だか当時のように胸を張ってそうだと言えない。

かつて夢見た「誰かに崇拝されるような人生」では決して無い。
夢を追って上京したはいいが、日々の煩雑の中でそれをどこかに落っことしていた。
何者にも成れず、何となく働いて、何となく結婚して、何となく生きている。

自身の奇跡的なトリップから今年で10年が経った。
彼らの音楽が連想させるドラッグ体験。
私は東京に揉まれて、随分長いドラッグの効き目が切れた。
しらけたムードで現実に立ち返り、今ではThe Stone Rosesという存在そのものがティーンエイジャーだけが見られる白昼夢のように感じられてしまう。
思えば随分、彼らが遠くなった。

それでもやはり変わらず、彼らは愛おしい。
彼らの日本公演は欠かさず足を運び、わずか数時間のトリップに身を任せもする。
マッドチェスターというムーブメントと同じく、
極めて刹那的でローカルな私の青春時代が 彼らの音楽の中でまだ息づいている。
そんな希望だけは、大人になってもどうしても捨てることができないのだ。

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