1147 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

彼女は「ザ・ビートルズ」と出会った

ロックンロールという自由への扉

 自分がリアルタイムで感じることができなかった時代の話を聞くのはとても楽しい。当たり前だが、僕はビートルズの全盛期を知らないし、ジョン・レノンが銃弾に倒れたというニュース速報を見たこともない。

 すべては映像や写真、雑誌から知ることである。当時の空気感をこの五感で感じることができていない以上、「ビートルズが好き!ジョン・レノンを愛している!」と自信を持って公言していいものか悩む。

 僕の母は音楽が好きだ。母は高校生の頃、阪急電車の車内に掲出されていたデヴィット・ボウイの吊り広告を持って帰りたくて仕方なかったらしい。終着駅でみんなが電車を降りたのを確認して、一生懸命ジャンプして取ろう!と思ったけれど、さすがに良心の呵責を感じ、断念したそうだ。
 
 ロック少女だった母。彼女のロックンロールへの目覚めはまるで小説の一場面のようである。

 厳格な家庭に育った母は、いつも自分の知らない世界に憧れていた。自分の家の塀の向こう側。自分の住んでいる街の向こう側。テレビに映る自分の知らない世界を見ながら、母は大きくなったら世界中を旅することを夢に見ていたそうだ。

 そんな母にとって、世界への扉を開けてくれる鍵が音楽だった。

 母の家の近くには、ハイカラで綺麗なお姉さんが住んでいたという。幼い女の子にとって彼女はとても魅力的で素敵に見えた。
 
 ある日、学校帰りの母を見つけて、彼女は自分の家に遊びに来ないかと誘ったという。今の時代ではそんなことは許されないのかもしれないが、彼女の言葉は母の心を鷲掴みにするものだった。

「あなたが聞いたことのない、素敵なレコードを聴かせてあげるよ」

なんてお洒落で魅力的な言葉だろう!
 
 母は憧れのお姉さんの家にあがった。おいしいケーキとあたたかい紅茶をいただいていると、彼女はレコードを回し始めた。

 そのとき、流れてきたのがビートルズの「Blackbird」だった。

 母にとってその音楽は衝撃的だったそうで、日本の小さな部屋の一室にいるはずなのに、まるでイギリスの街に連れていかれたような感覚だったと話す。

 紅茶の甘い香りとともに、ほのかにリヴァプールの風のにおいが混じっていたはずだ。

 それからというもの、母の心はすっかりロックンロールの虜になった。
 ロックンロールという切符を片手に世界を旅し、そして今では自分でギターを練習し、いつも大好きな音楽を聴いている。

 「Blackbird」にはこんな歌詞がある。

 「All your life You were only waiting for this moment to be free」

 「人生の中でずっと、君は自由になる瞬間を待っていただけだったんだね」―
 音楽というのは本当に素晴らしい。自分自身の肉体はここにあっても、心を自由にする力がある。

 今年はBlackbirdが生まれて50年。ビートルズがロックの殿堂入りを果たして30年。
 
 当時の空気を感じることはできないが、僕も自分が感じてきた音楽との様々な思い出を、これからも大切にしたいと思う。
 そして、母の思い出話を今日も聞きながら、「Blackbird」を聴いている。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい