262 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年4月17日

ハイボール濾過マシーン (45歳)

戦う男たちの魂

エレファントカシマシ、ベスト盤に寄せて

 エレファントカシマシ結成30周年を記念してのオールタイム・ベスト盤『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』がリリースされた。彼らのように長いキャリアを持ち、作品数も多いバンドの場合、オールタイム・ベストというのは非常に難しい。時期によって曲の指向も変わるし、ファンの入れ替わりも多い。エレカシの場合簡単に言えばデビューしてから『東京の空』までのEPICソニー時代、『ココロに花を』から「今宵の月のように」でブレイクを迎えるポニーキャニオン時代、ほぼ宮本のソロとも言える『good morning』からバンド回帰を果たす東芝EMI時代、そして「俺たちの明日」から再ブレイクと言っていい充実を迎え現在に至るユニバーサル時代。ざっくり分けてもこれだけのフェイズがあり、サウンドも曲調もバンド内の力学も様々だ。何より、その膨大な楽曲群には20代前半から40代後半までの男の人生がくっきりと刻まれているわけで、一筋縄ではいかない。言うまでもなくエレカシの場合、シングル曲を並べればベスト盤になるかというとそんなことはない。エレカシ自身すでにベスト盤と名のつくものは何作もリリースしているが、万人を満足させる選曲というのはほぼ不可能だろう。
 今回はその点、宮本浩次自身が選曲を行っていることが重要だ。ファンにとってはもちろん「あの曲がない、この曲がない」という意見はあろうが、ここには宮本による「エレカシとは何ぞや」という禅問答に対する一つの解が提示されている。2枚組の本作ではそれを「Mellow&Shout」「Roll&Spirit」とディスクごとに色合いを分けて選曲している。簡単に言ってしまえば「Disc1:Mellow&Shout」にはセンチメンタルで抒情的な、万人に受け入れられるタイプの開かれた曲が多く収録されている。対して「Disc2:Roll&Spirit」にはロックンロールバンドとしてのエレカシのコアな部分、パンキッシュで激しい曲が収められていると言える。しかし、Disc1にマニアックとも言えるユーミンのカバー「翳りゆく部屋」が収録されていたり、Disc2にアコースティックな「涙」が入っていたりと一概に言えるものでもない。長年のファンはこの選曲に対する宮本の意図を読み取ろうとすることで改めてエレカシというバンドの本質や奥深さに向き合うことになるだろうし、最近ファンになった人にとってはここから過去作を辿る入門編にもなると思う。
 エレカシの最高傑作は何か。この問いは、ファン歴が長ければ長いほど難しい質問だ。バンドの歴史の中での重要さやシーンに与えた音楽的影響、セールス的なインパクトなど様々な要素はあるだろうが、エレカシファンならばそこにどうしてもエレカシとともに過ごした自分の人生を投影せざるを得ないだろうからだ。自分の場合も『生活』というアルバムは絶対にはずせないし、『東京の空』も『ココロに花を』も重要なアルバムだ。そうした自分史の投影という主観的な思い入れを外して客観的、俯瞰的にエレカシというバンドを見た時にはやはりデビュー作『THE ELEPHANT KASHIMASHI』に行きつくのではないかと思う。バンドの歴史はどれだけ積み重なっても、このデビュー作にはそのすべての萌芽がすでにここにあったのだと思えてしまう。現在の彼らのライブにおいてもハイライトとして君臨するその1曲目「ファイティングマン」を、宮本はこのベスト盤のタイトルとし、ラストに配置した。ここから、宮本がエレカシというバンドの本質をどうとらえているのか透けて見えてくるような気がするのだ。
 自分たちのデビュー曲、あるいはデビューアルバムの1曲目を懐メロではなく「今の自分たちの曲」としてのリアリティを持って真っ直ぐに鳴らすことのできるバンドがどれだけいるだろう。しかもエレカシは30年選手である。このベスト盤で稀有なバンドの歩みを辿り、それからまた各々の自分史に戻っていくのもいいだろう。少し気が早いかもしれないが、バンド40周年を迎え還暦を過ぎた宮本浩次がどんな曲を書くのか、今から楽しみで仕方がないのだ。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい