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2017年4月17日

kam (23歳)

過ぎ行く季節に思う曲

フジファブリック メジャーデビュー13周年に寄せて

今から13年前の4月14日、ある楽曲がリリースされた。フジファブリックのメジャーデビューシングル「桜の季節」である。

 桜の季節過ぎたら遠くの町に行くのかい?
 桜のように舞い散ってしまうのならばやるせない

(桜の季節/作詞・作曲 志村正彦)

「桜の季節」の別れではなく、「桜の季節過ぎたら」訪れることになるであろう別れ。この部分の歌詞を読むだけでもいわゆる「桜ソング」の枠には収まらない曲だと感じるのだが、さらに続く歌詞も、また歌詞のみならずアレンジも、「桜の季節」というタイトルから抱くイメージをことごとく覆すものだった。

私がこの曲を初めて聴いたのはリリースから随分経った時のことではあるが、その時のことは鮮明に覚えている。

1音目のギター。
劇的な幕開け。
桜という単語から思い浮かべる穏やかな春の陽気に真っ向から反するように、そのイントロは雷のように鋭く衝撃的だった。

そして「桜の季節過ぎたら 遠くの町に行」ってしまうであろう人に向けられた言葉が紡がれる。目に浮かんだのは、まだ肌寒さの残るような曇天の下、咲きかけの桜並木。
続いて聞こえてくるピアノの音はどこか日本的で、例えば箏曲の「さくら さくら」を思い起こさせた。
この時私は歌詞を読みながら聴いていたと思う。そこには次のようにあった。

 ならば愛を込めて 手紙をしたためよう
 作り話に花を咲かせ 僕は読み返しては感動している!

「感動している!」
ここで歌は途切れ、全楽器の鋭い和音が鳴り、再びイントロのギターが戻ってくる。
突き放されるような感覚。
私は呆然とした。
この曲を自分が好きなのかどうかまだわからない。けれど、凄いものに出会ってしまったと思った。

まだ冬の冷たさを残す風が桜の枝を揺らし花びらを散らすようなピアノのスケール。淡々と流れていく間奏のツインギター。そして畳み掛けるような歌声。
全ての音が、ひとつ残らず劇的だった。

「桜の季節」は、一筋縄ではいかない曲だが、それでも紛れもなく桜の曲だとはいえるだろう。
「桜が枯れた頃」の「遠くの町」に思いを馳せ、きっと投函されることはないであろう手紙をしたためる「僕」。
どこか掴みどころのないイメージを残す歌詞ではあるが、奏でられている音が映し出すのは確かに桜なのである。咲かんとする桜に吹き付ける風。歌詞として紡がれたわずかな言葉とアンサンブルを通してこんなに鮮烈な情景を見せてくれるバンドに、私はその時初めて出会った。

フジファブリックの音楽は、一曲ごとに然るべき季節・時・気候・場所というものを持っているのではないかと思うほどに様々なイメージを描き出す。私にとって「桜の季節」は最初にして最も端的にそれが表れたとてつもない作品だ。
そして、そのような彼らの特徴は志村正彦がひとりで作詞を担っていた時も、彼がいなくなって山内・金澤・加藤の三人がそれぞれ曲を作るようになってからも、貫かれているように思う。もちろん作詞・作曲者が違えば曲のカラーも変わるが、彼らの紡ぐ音が作り出すイメージの鮮やかさと多様性という点では、少しも変わるところがない。

季節ごとに、その日ごとに、思い出す曲がある。それがフジファブリックというバンドの、デビュー以来変わることのない魅力なのではないかと思うのだ。

この文章を書いている今日、2017年4月14日、フジファブリックはデビュー13周年を迎えたことになる。14年目、彼らはその音楽を通してどのようなイメージを描き出すだろう。

私の住む町ではもう過ぎつつある桜の季節に、今年もあの曲のことを思う。

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