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私の卒業ソング

星野源の「YELLOW DANCER」

 この春、私は大学を卒業した。社会人になり、自分の車を持ち、その車で通勤するようになった。車内でよく聞くのは、星野源の「YELLOW DANCER」だ。
 私が通っていたのは地方の女子大で、のんびりとした空気が流れていたが、それぞれに熱い思いを秘めた人が多かったように思う。少なくとも、私の友人たちはそうだったと勝手ながら思っていた。そこでたくさんのことを学び、時に遊び、悩み、過ごした4年間。集大成として、私は友人たちと卒業旅行に行く計画を立てた。
一緒に行く友人は、同じサークルに入っていた4人。(本当は5人なのだが、残念ながら1人は体調不良で行くことができなかった。)私たちの学年は人数が少なく、3年の時には全員で幹部を務めた。話し合いなどをしていくうちに、よく全員で遊びに行くようになり、これまでにも近場で旅行をしたことはあった。今回は、その最後で最大のものとして、沖縄へ行き先をきめた。
沖縄では、レンタカーを借りて本島を3泊4日で巡る計画を立てた。車、といえばBGMが必要だろうと考えた私は、星野源の「YELLOW DANCER」のCDを荷物に入れた。このCDは、あまり仲が良くないがCDの貸し借りだけはする兄から、たまたまその時借りていたものだった。なぜこのCDにしたのかというと、星野源なら好き嫌いが無さそうであったことと、有名な「SUN」が入っていたから、みんなで楽しめるのではないかと思ったからだった。
沖縄に到着し、レンタカーを借りた。私ともう1人の友人はペーパードライバーだったため、運転は3人に任せることにした。(感謝している。)かわりといっては何だが、CDを持ってきたことを告げてすぐに「YELLOW DANCER」を流した。「時よ」のイントロから、みんながわあっと盛り上がる。星野源で正解だった、と心の中ではドヤ顔をしていた。
運転手の3人が、「星野源の声だと安心して運転できる」と言って、楽しそうにしてくれていたのがとても嬉しかった。私と同じペーパードライバーの友人は歌がうまいので、「SUN」を横で歌ったり踊ったりしていた。

卒業旅行は事故などもなく、無事に、楽しく終えて帰ることができた。友人と別れて、アパートに戻る。大学に通うために借りた一人暮らしの部屋はしんと静まり返っていた。パソコンを立ち上げて、「YELLOW DANCER」を流した。その時にふと、あることを思い出した。にぎやかな車中で、1人が「この曲、ラジオで聞いて気になっていた」と言ってタイトルを確認している曲があった。確か、「Friend Ship」だったように思う。その時は話したり、じゃれあったりしながら聞いていたため気づかなかったが、歌詞を見て驚いた。ありがちな表現だが、まるで私たちのことを語る様な歌詞だったからだ。
 旅行に行かなかった1人も含めて、私たち6人はそれぞれ違う進路が決まっていた。同じ就職でも地元に帰る人、大学のある地に残る人。大学を卒業してから、また違う学校へ行く人。家に残る人など。今までのようにすぐに会える距離にはいられなくなってしまう。それに改めて気づいて、何とも言えない気持ちになった私は旅行中の写真や動画を見返した。私一人の部屋に、みんなの笑い声が響く。車中で撮った動画は、どれも後ろでかすかに星野源の歌声が聞こえる。「Friend Ship」もまた、同じように。
 旅行から帰って来た後は、慌ただしかった。就職のためにまた違う場所で一人暮らしをすることになり、引っ越しの準備があったからだ。卒業式の前日には、私の部屋はほとんど何も無くなってしまった。テレビは床に置いてあり、ベッドのかわりのソファは少し寝づらい。小さな折り畳み机の上にはぎゅうぎゅうに、メイク用品やパソコンなど細々したものが置いてある。一人で寒々とした部屋に寝ころびながら、聞いていたのはやはり「YELLOW DANCER」だった。先にも書いた友人たちと、私の部屋で話し合いという名目のパーティみたいなことをしたこともあった。全員が集まらなくとも、何人かで集まってお菓子を作ったこともあった。いろいろなことが思い浮かんだ。
 卒業式も終えて、いよいよ部屋を出る時が来た。最後にカーテンを取り外した時、窓から見える公園に桜の木がたくさんあることを思い出した。入学したての頃、不安と期待を抱えながら一人暮らしを始めた頃。カーテンの隙間から外をのぞいた時に、満開の桜がいっぱいに見えて思わず声を上げたのだった。残念ながら、私が引っ越す時にはまだ桜が咲くには早かった。ただ、ほんの少しだけ桜色をのぞかせている蕾がいっぱいについた桜の木を見ていて、思わず涙が出てしまった。1年の時から毎年、ベランダで桜を眺めていた。その桜の下を歩いて大学まで通っていた。引っ越し先に向かう車の中では、「桜の森」を聞いていた。

 「卒業ソング」といえば、定番のものはいくらでもあるだろう。そして、個人にもそれぞれ思い入れがある曲があるだろう。私は大学までの学校生活では、そこまで思い入れが無く、「卒業ソング」も何となくのイメージでしかなかった。しかし、私の、大学の卒業ソングは間違いなく星野源の「YELLOW DANCER」で、「Friend Ship」なのだろうと思う。社会人になって1ヶ月経った今では、友人たちが元気でいるかどうかは定かではない。SNSなどで時折様子をうかがえるが、実際に会ってはいない。でも、それで良いのだろう。「YELLOW DANCER」のライナーノーツで星野源はこう言っている。

 依存なく離れていけるのが、本当のフレンドシップだと感じます。

 連絡を取り合うことはなくても、私はいつでも自分が運転する車の中で「YELLOW DANCER」を聞いて、大学の日々を、友人を思い出す。それでほんの少しだけ友人たちのことで笑って、仕事に向かう。多分きっと、そのうちに会えるだろうと思いながら。
 蛇足であるが、ライナーノーツを読んでいたら沖縄で見た夜明けをテーマにした曲や、思っていたよりも変態っぽい意味合いを含んでいる曲があり、驚いた。それもまた縁のような、そうではないような。何はともあれ、私の中でまた1つ大事なCDアルバムが増えたのだった。

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