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私には音楽が必要だった。

大人になって出会ったBUMP OF CHICKEN ~ 同じ時代に生きられて

2018年2月11日。
さいたまスーパーアリーナのスタンド席で、私は光の一つとなって大きく右手を挙げていた。
BUMP OF CHICKENの長いPATHFINDERツアーのファイナルのステージ。
彼らの22周年記念日に奇跡的に取れたチケットだ。

「見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ」

天体観測、私が初めて彼らを知ったきっかけの唄だ。
初めて聴いたときは衝撃的だった。
そしてまさか、それから17年も経って、彼らの22周年のこの会場に遠征参戦するなんて、想像すらもしていなかった。

当時、彼らの音楽は何故かとても心に残って、でも深く聴きこむことはなかった。
それから長い年月、彼らの音楽は手を伸ばせばいつでも触れられるような、同じ川を流れるような場所にあって、今は、かけがえのないものとなった。
 

今思えば、私には音楽が必要だった。
子供の頃から、自分の気持ちを人に上手く伝えることが出来なかった。
悲しいことが起こっても、それを伝えた誰かが、自分よりもっと悲しい気持ちになるのでは、とか。
私が泣いたりしたら、困る人がいるのじゃないか、と考えてしまうような子供だった。
だから、母親と別れたあの日も終始笑って、本当の気持ちを閉じ込めた。
姉として、妹のお手本にならなくてはいけないと思った。
長女として、父を支えていかなければいけないと思った。
自分の本当の気持ちなんて、どこにあるのかもわからなかった。
中学生になった頃、新しい母ができ、私の居場所は無くなった。
存在を認められなくなって、唯一音楽だけが自分で押し込めた気持ちを解放してくれる気がした。
深夜ラジオから流れる音楽に耳を傾けて、暗闇の中朝まで過ごすことも何度もあった。
少ないお小遣いは全て音楽につぎ込んだ。
安いギターを手に入れてかき鳴らした。
悲しい旋律の音楽を聴いては、知らず知らずのうちに涙が溢れる日々。
現実の世界には自分の居場所なんて何処にも無い、自分がそこに居ないような不思議な感覚に襲われながら、
私の居場所は常に音楽の中にあった。
そこでだけ息ができた。

やがて、悲しいことを押し込めた塊を忘れる術を身に着け、笑えるようにもなって大人になった。
誰にも何も話せなかったものはそのまま蓋をして、母親にもなった。
忙しい子育ての中で、好きだった音楽はいつしか子供用の唄に入れ替わった。
それでも、心の奥の真っ黒な塊はずっと私の中でくすぶっていて、時々チクチクと私の内側から存在を主張した。
誰かのさりげない呟きや、街なかで見かけるふとした風景に、フラッシュバックすることもあった。
閉じ込めて忘れていた記憶が不意に駆け巡って私を苦しめた。
巷では虐待が囁かれ始めて、幼い頃、長かった髪の毛をつかまれて部屋の中を引きずり回された光景や、何時間も正座させられた記憶が蘇って狼狽えた。
その度にまた奥の方に押し込めて蓋をして、忘れるように生きた。
 

忙しい日々の中で、ずっと近くで聞き流していた唄の詞が、ある時私の心にするっと入り込んできた。
 

君に嫌われた君の 沈黙が聴こえた

息は持つだろうか 深い心の底まで
君が沈めた君を 見つけるまで潜るつもりさ

傷付ける代わりに 同じだけ傷付こう

響く救難信号 深い心の片隅
こんなところにいたの 側においで 逃げなくていいよ

勇気はあるだろうか 一度手を繋いだら
離さないまま外まで 連れていくよ 信じていいよ
(BUMP OF CHICKEN メーデー)
 

誰も、自分でさえも触れなかった心の奥の塊に触れられた気がした。
遠い昔押し込めた自分。
もうすっかり硬くなって、重く、冷たい塊の私を見つけるまで潜ってきてくれる。
不意に触れられて、同じだけ傷つこうと言ってくれる。
信じていいよ、と。

こんなに大人になるまで心の奥に抱えて居たものを、初めて自覚した気がした。
もうとっくに忘れて乗り越えたのだと思っていた。
全然大人になんかなれていなかった。
涙が溢れた。
 

目に見えない後遺症のようなものは今も残っていて、自分から誰かを誘うようなことは未だにできないし、友達や実家でさえも自分から電話やメールも出来ない。
怖いからだ。
拒絶されるのが。
 

嫌いな思い出ばっかり詰めた 荷物を抱えて
ずっと動けない自分ごと埋めて と笑った

見つけたものは本物だよ 出会った事は本当だよ
捨てるくらいなら持つからさ 貸してよ

一緒に ここから 離れよう
(BUMP OF CHICKEN arrows)
 

学生時代や就職先で出来た友人でさえ、大切に出来ない自分がいる。
大切なのに大切に出来ない。
心を許したあとで、失うのが怖いから。
一度出来た居場所を失うのが怖いから。
 

彼らの唄は、すっかり大人になったはずの私の心を撫でてくれる。
包み込んで、手を引いて、ここに居るよと言ってくれる。
安心して心を開いても、ずっと待ってると言ってくれる。
大人のはずなのに。
大人になったのは外側だけだった。
 

子育ても終わって、こうして遠くの会場にまで駆けつけて彼らの音を聴けること。
少し、彼らよりは歳上だけど、今だからこんな風にナマの彼らの音楽に触れられること。
沢山の光に包まれながら、ギリギリ同じ時代に生きられていることに感謝しながら、若者たちに混じって一緒に唄う。
傍らに、一緒に参戦してくれる娘と共に。
 

ステージの上から何度も「ありがとう」と言ってくれる彼ら。
こちらこそ、ありがとう。
同じ時代に生きられて、あなたたちの音楽を聴くことができて、私を救い上げてくれて本当にありがとう。
 

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