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日常と非日常、現実と理想

Superorganismと僕らの世界

 私たちは音楽を携帯する。ウォークマンで、iPodで、スマートフォンで、電車の中でも、散歩中でも、はたまたランニング中でも、音楽を聴くことができる世の中にいる。そんな現代社会において、音楽は非常に身近な存在だ。いつでもどこでも聴くことができる音楽は、もはや「日常の一部」となっているという人も多いだろう。
一方で私たちは音楽に非日常を求める。あまりにも猥雑な現実からの逃避行のために、イヤフォンをつけて目を閉じる。すると、アメリカの摩天楼や北欧の広大な自然等の、—そこが現実にはたとえ満員電車の中であっても―別の世界へと一瞬で没入できる。
 簡単に持ち歩くことのできるようになった音楽は、日常の風景の一部となりながら、他方で非日常に耽るためのツールとして機能する。一見相反するこの音楽をめぐるあり方を、Superorganismの満を辞してのデビューアルバム”Superorganism”は見事に体現している。

 彼らが注目を集めたきっかけは、彼らのデビューシングル”Something For Your M.I.N.D.”がApple Music内のFrank Oceanの番組”​​blonded RADIO Ep.2″でプレイされたことであった。以降瞬く間に話題が話題を呼び、音楽シーンの新たな注目の的となった。
 この”Something For Your M.I.N.D.”やその後に発表された”It’s All Good”はサイケデック感溢れる楽曲で、MGMTやThe Go! Team、Super Furry Animals等のような、雑多さ、猥雑さが特徴的なトラックであった。
そしてついに今年三月、多くのメディアが注目する中デビューアルバム”Superorganism”がリリースされた。同アルバムは上記2曲を含む10曲約33分から成っている。

 と、ここまで簡単にSuperorganismのバイオグラフィーを紹介してきたが、ここで冒頭の表現に立ち返って本作の音楽的特徴を考えてみよう。つまり、本作が「日常性と非日常性という一見相反する両方の性格を体現している」という点についてだ。
基本的に彼らの音楽の多くはサイケデリックでドリーミー、その意味では非常に非現実的な性格を有している。全編を通して聴かれるうねるシンセやギターのリヴァーブに見られるように、こうした仕掛けは我々を別世界へ、夢や幻想の世界へと誘う働きをする。
 さらに歌詞に目をやると、”I think that you and I Could set the world alight”(Everybody Wants To Be Famousより)や”We know you feel the world is too heavy But you can turn it all around if you want”(It’s All Goodより)など、「我々は世界を変えることができる」というあまりにもオプティミスティックな一節が並んでいる。こうした世界に対する楽観的な予測は、リアリスティックなものというよりは理想的、空想的なものだ。
 一方で、所々に散りばめられた生活音が我々を現実世界へと引き戻そうとする。それは雨の音であったり小鳥のさえずりであったり車のクラクションであったり、我々が生活する中で日々耳にする音である。こうした音がちりばめられたものとして最も特徴的な曲が、”Nai’s March”だ。同曲の1分過ぎ、それまで流れていた楽曲が突然フェードアウトし、聴きなれた駅のアナウンスと発車ベル、そして緊急地震速報の警報音がけたたましく鳴り響く。実際に、私がこの曲を電車の中で聴いていた際、突然イヤフォンから流れ出した駅のアナウンスに驚き、そしてはっと現実の世界へと揺り戻された。この駅のアナウンスが日本語であることもあって、本当に現実世界でこのアナウンスが流れたかのような錯覚に陥ったのだ。

 『◯◯を知る』や『◯◯のすべて』といった本が溢れる現代社会、我々は物事を余すことなく知りたがる。何か疑問が生じた際に、すぐにGoogleへと向かい答えを一瞬で見つけ出そうとする。そんな世界のあり方は、何かしらの問いに対して、できるだけ簡潔に説明することがしばしば求められることにも現れている。
 しかしながら、世界というものはそんなに単純な物事で溢れていない。現実はあまりにも猥雑でよくわからないもので溢れている。
 本作は、「音楽の持つ日常性と非日常性という一見相反する性格を見事に体現している」、と書いた。そんな中で、彼らの描く「日常」は、車のクラクションしかり電車の発車ベルしかり、猥雑でつかみどころのないものとして表現されている。私たちは日々、世界が単純であってほしいと思うか、もしくは単純であると思いこんでしまう。しかしながら、現実の世界は単純ではない。彼らが本作で見事に表現したように、現実の世界はごちゃごちゃで、複雑で、説明不可解なことに溢れている。
 たまにはそんな世界に思いを馳せて、答えのない問いについて思いを巡らすことも必要なのではないだろうか。わかった気になるのではなく、むしろわかっていないということを勇気をもって認めることが必要なのではないか。ソクラテスの「無知の知」ではないが、そんな謙虚な気持ちで生きていたいと思うものだ。

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