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2017年5月・月間賞 最優秀賞 | 2017年4月18日

saki (26歳)
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back numberというバンドについて

〜All Our Yesterdays Tour 2017〜

今日は仕事で嫌なことがあった。なんとなく恋人からの連絡も冷たくそっけない気がする。テレビをつけると、私の気持ちなんて知る由もなくキラキラした人たちがくるくると楽しそうだ。今日はちっとも面白くない。
テレビを消す。静かになった。右手の親指は小さな四角い画面をするすると動いた。からっぽの薄暗い部屋の中に聞き慣れた音楽を満たした。iPhoneのスピーカーでは少し物足りないな。もう少しシャッフル再生で曲を聞いて、それでもダメなら幕張ライブのDVDでも付けよう。

私はこの約8年間、心がこんなふうに良くないほうへ傾いてどうしようもない時は、back numberを聞いているのだ。

初めてback numberに出会ったとき、私は看護師を目指す大学生だった。邦ロックが大好きでCDショップを巡る休日が好きだった。
そんな私にバイト先のバンドマンの先輩が貸してくれたCDがback numberの「逃した魚」だった。数曲聞いたところで驚いた。「どうしてこんな良いバンドがまだ有名じゃないの?」と私が訊くと「群馬のバンドでね。俺この前、対バンしたんだよ。絶対にこのバンドは有名になるよ。」と先輩はニヤッと笑っていた。すぐに自分でもCDを買って何度も歌詞カードを片手に聞いた。一目惚れというのが音楽にあるならば、あれは一耳惚れか。とてもとてもback numberに惹かれた。

その頃わたしは大人になってから初めての恋をしていた。学生時代とは違って時間の貴重さは感じていたし、見えるもの・見えないものそのどちらにおいても、差し出すものも差し出されるものも大きくなっているように感じていた。相手には好きな人がいた。それでもいいと思っていた。彼もback numberが好きだった。

初めてback numberのライブに行ったのは、彼らがメジャーデビューをしてすぐだった。イヤフォンを通して聞いていた音楽がライブでは、びりびりと熱を放ちながら、しかし時には穏やかな深海のように私のどんな感情も包んでくれた。私の気持ちを収納するのにぴったりの場所を作ってくれた。

あのとき隣にいた彼が「幸せ」で音を立てぬよう細心の注意を払いながら泣く私に何故か気づき、笑いながら頭をポン、と一度撫でてくれた。その後彼とは付き合えたが、やはり好きな人がいるからとあっさりフラれてしまった。ひどいなあと笑ってみたり、勝手に涙が止まらなくなったりした。
いつか清水依与吏がインタビューで「恋愛ってどんなに頑張ってもどうにもならないことがある、だから歌にするしかなかった。」と言っていた。わたしのカッコ悪い失恋は時間をかけて、back numberに思い出に変えてもらえたと思う。 今の恋人もback numberが好きだ。ふたりで行くback numberのライブは、とても楽しい。

今でこそ「女子高生が選ぶラブソング!」なんて見出しのランキングに躍り出がちなback number。もちろんそれもファンとして嬉しい。メジャーデビューした時に「はなびら」がバイト先の有線で流れて、仕事が手につかなくなるほど喜んでしまった私だ。back numberにスポットライトが当たることが何より嬉しい。
だが、私の第一印象は「とても男くさく力強いロック」だった。ライブハウスでは30代の男性たちが拳を突き上げていた。そしてback numberのラブソングを聞いて、みんなで「男泣き」するのだ。あのアツい景色とフロアの湿気を含んだ温度が忘れられない。でも女子高生にキャーキャー言われているback numberも好きだ。やっぱり、嬉しいのだ。

そしてback numberの曲を聞くと誰もが「あの曲のように大切にしたかった」「あの曲のように大切にされたかった」そんな風に思うのではないだろうか。その後悔の対象は「恋人」だけに限らないだろう。「小さい頃からの夢」「家族」「友達」…「描いていた理想の自分」。「back number」というバンド名は「彼女からしたら俺なんて型遅れのようなものだったんだ」という清水依与吏自身の恋愛における喪失体験から生まれた。
恋愛での傷はなかなか治りが遅いことはおそらく誰しも経験済みだ。生きていると失うものは多い。苦しい。つらい。だがback numberの曲を聞くと気付く。私たちはちっともひとりで生きてはいないのだ。裏切られたり傷つけられたり、悲しみの渦中でも闘うことをやめなければ、救いの光は届いてくれるらしい。

共にとことん落ち込み、滑稽なほど嫉妬し、無様なほどカッコ悪くカッコ良く歌ってくれるback numberの各曲の主人公たちは、私たちの心がどんな時も、ひとりぼっちにさせないのだ。

何もかも遠ざけた私のからっぽの部屋には「青い春」が流れたあと「光の街」が流れ始めていた。明日は休みだから化粧を変えて出かけてみよう。恋人に今度いっしょに水族館に行きたいと誘ってみよう。甘いものが好きだったはずだから、こっそりケーキを焼いて渡してみよう。

ぼんやりと笑顔の未来が描けた。
簡単じゃないか。
もう、私は大丈夫だ。

今年のback numberのツアー「All Our Yesterdays Tour 2017」私は幕張と大阪を観に行った。

ライブハウスでの彼らも好きだったけれど、ホールやアリーナでの彼らも大好きだ。大きな舞台装置や素晴らしい照明による演出に、照れくさそうにしながらも、昔と比べると立派に堂々としている。演奏の途中、笑顔の3人に胸が熱くなる。どんどん大きくなるステージも動員数も、確実にライブハウスから始まった彼らが努力を少しずつ積み重ねて築き上げてきたものだ。
まぶしい光の中にいる彼らを見て、私もback numberを知った頃からの過ぎ去った日々のことを思った。私はこの約8年でライブハウスから武道館、そして幕張メッセや大阪城ホールといった大舞台へ駆け抜けていった彼らのように、何か成し遂げられただろうか。子どもの頃からの夢の看護師になれたことは良かった。この先は何を目標に、どんな人生を送るんだろう。

ステージ上で彼らは全身全霊をかけて、私たちが聞きたかった一曲一曲を丁寧に披露してくれる。「ひとつひとつの曲にあなたの日常とか物語を重ねて聞いてくれていると思うと、どの曲も本当に大事で、自分たちの曲だけどそれだけじゃなくて、上手く言えないけれど、大事に歌わなければならないと思うんです。」と清水依与吏は話していた。
ここで、今回のツアーのタイトルが素晴らしい。back numberの各曲に出会えた「あの日」のことを思い出さずにいられない。そしてそんな「あの日」の積み重ねは、ひとつのバンドの思い出ではなく、様々な出来事で上がったり下がったり、心動かされてきた自分史なのだと気付いた。
詳細はこれからライブに行く人のために秘密にしておくけれど、あの演出であのセットリストは、どの時点でback numberを知った人でも「最高!」とライブ後に満足感に浸ったに違いない。実は今回のツアー、各公演でセットリストが少しずつ変わっている。どうにかこうにか分身して全セットリスト網羅して全曲聞けないものか妄想した。
どこまでも、楽しいツアーである。
どの曲も素晴らしいのだけれどback numberというバンドの曲の性質上、深い思い入れのある曲というのがリスナーそれぞれに存在する。「あの曲が聞きたかった」という想いは、次のいつかのライブへ楽しみが持ち越せたと思おう。

back numberは誰のことも置いて行かず、ひとりぼっちにさせないバンドだ。
「 back numberなんて聞くんじゃなかった」というCMが2016年末流れていた。彼らの音楽にぴったりのキャッチコピーと映像で素敵だと思った。

いつだってわたしを救ってくれるスーパースターは、再生ボタンの向こうにいる。
未来の自分のために今出来ることは、簡単なことだ。

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