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普通じゃなくて良い。普通じゃないから良い。

amazarashiの『月曜日』が肯定する人生

『僕は社会不適合者だ』。23年間生きてきて、ようやく至った結論がそれだった。むしろ気付くのが遅すぎるくらいだが。
 

大学を卒業し、新入社員として社会に出て直面したのは、自身のコミュニケーション能力の低さだった。
 

まず僕は、いわゆる『ほう・れん・そう』が全く出来なかった。何よりも、上司の反応が怖かったのだ。怒られるかもしれない。幻滅されるかもしれない。そんな『もしも』の結末が頭を過り、僕の体をがっちりと固めた。
 

思案の末ようやく絞り出した言葉も、ぎこちなさや要領をえない言い方のせいで、思うように伝わらないことが多かった。
 

日常会話もままならなかった。僕が休憩室に入った瞬間の、上司の淀んだ目線は、一生忘れないだろう。話すのが嫌いなわけではない。むしろ話したい。「昨日のテレビ見ました?」。「今日お客さん多いですね」。「何のアプリやってます?」……内容は何でもいいのだ。ただ、それを口にすることすらはばかられる気がした。結局、1時間の休憩中、一言も話さずに業務に戻る。
 

そんな休憩時間が嫌で、いつしか外で休憩をとるようになった。音楽を聴きながら昼食代わりのパンをむさぼる。通行人、上司、空……。全てが僕を嘲笑っているように思えた。休憩中はスーツが汚れるのが嫌で、常に立っていた。雨が降ったときも、同様に1時間過ごした。休憩から戻ると、休憩室で繰り広げられる他愛もない爆笑に、また憂鬱にされた。
 

そんな僕を見て、上司は次第に僕への評価を落としていった。仕事が出来ない。会話も出来ない。そんなないない尽くしの僕が疎外されるのは当然だった。いずれも、極端なまでのコミュニケーション不足が招いた結果だった。
 

数ヶ月後、僕は体を壊した。
 

会社を退職し、アルバイト生活を続けるようになってからも、人間関係のストレスはついて回った。1ヶ月以内の短期のバイトを繰り返し、人間関係が悪化しかけたら辞め、また新たな環境で働く日々を送った。
 

夢を追いながらのフリーター生活。労働の対価として支払われるのは、地元の最低賃金。ギリギリの生活だった。友人からは「正社員になれば?」と耳にタコが出来るほど言われたし、両親も見ていられないという風だった。
 

だが僕は感じていた。定職に就き、何年も働くのが『普通』なのだとしたら、僕は普通の人にはなれないのだ、と。
 

そんな暮らしを続けたある日、大好きなバンド、amazarashiの新曲がリリースされた。タイトルは『月曜日』。
 

配信限定リリースという手法で発売された今作。日付が変わった瞬間に購入し、すぐさまダウンロードした。無意識にスマホのボリュームを上げて聴く。
 

〈普通にも当たり前にもなれなかった僕らは せめて特別な人間になりたかった〉
 

〈特別な人間にもなれなかった僕らは せめて認め合う人間が必要だった〉
 

『月曜日』の主人公は、僕だった。息苦しくて、くそったれな世の中で生きる人間。誰も認めなかった僕の人生を肯定してくれる唯一の存在。それが『月曜日』だった。
 

それからの日々は、『月曜日』と共にあった。聴かなかった日は一日たりともなかったし、口ずさみながら歩いたり、カラオケで歌ったりと、自分で歌う機会も増えていった。動画サイトで公開されたPVは何十回も観たし、歌詞は全て覚えた。
 

そして先日の5月6日。amazarashiのライブツアーの広島公演で、『月曜日』が披露された。
 

〈嫌なこと嫌って言うの そんなに自分勝手かな〉
 

〈それならば僕は息を止めて潜るよ〉
 

ステージ一杯に貼られたスクリーンの映像。血を吐くように叫ぶ秋田ひろむ氏のボーカル……。音源の何倍もの迫力で演奏された『月曜日』は、僕の涙腺を決壊させるには十分だった。涙が溢れ、頬を伝った。そして気付いた。知らないうちに、どれだけこの曲に救われていたのかを。
 

ライブが終わると、僕は決意した。「自分が生きたいように生きよう」と。だって僕は、普通ではないのだから。
 

この日は日曜日。そういえば明日は、月曜日だった。
 

次の日バイトに出勤すると、店長に呼び出された。
 

「長期の契約に切り替えてみる?」
 

そう店長は言った。僕は了承した。

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