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2018年、無罪モラトリアム。

私の知らなかった椎名林檎

椎名林檎のファーストアルバム『無罪モラトリアム』が発売された1999年、私はまだこの世にいなかった。と言いたいところだが、いた。1998年生まれの私は当時1歳。だが、当然その頃の記憶なんか一つもない。私がこれから先どういう人生を歩むのか、どういう人間になっていくのか、両親すらも分かっていなかっただろう。私はこの頃、ただただ(人並みに)可愛いだけの赤ちゃんだったのだ。
時は流れ2018年。私は大人になった。いや、二十歳になった。そして人生20年目の今年、私はこの『無罪モラトリアム』を初めて手に取った。

椎名林檎という人の存在はもちろん昔から知っていた。テレビでたまたま流れていた「本能」のPVを見て、何て綺麗な人なんだろうと思ったのが最初だった。それと、ナース服姿でガラスを蹴る、叩き割るという衝撃も同時に。彼女が東京事変のボーカルを務めていたことは後から知った。その後も「NIPPON」、「長く短い祭り」、「おとなの掟」などテレビで流れるキャッチーな新曲たちを通して、大ファンという訳ではなかった私の中にも彼女の存在は煌めいたものとして鮮明に更新され続けていた。そして、私の中で彼女は憧れの対象になっていった。

私がこの『無罪モラトリアム』を手に取ったのは、2018年5月に発売される彼女のトリビュートアルバムに、スピッツの草野マサムネ氏がボーカルとして参加していることを知ったのがきっかけだった。私はスピッツの大ファンでもある。楽曲は「正しい街」。どんな曲なんだろう、聴いてみようかな。そう思って「正しい街」が収録されているこのアルバムを購入したのだった。
結論から言うと、とても意外だった。私の中の椎名林檎という人のイメージは、「目抜き通り」のPVのあのまま、美しくて才能に溢れていていつでも自信たっぷり。そういうものだったのに、それとは少し違うものを感じたからだ。アルバムのラストを飾る「モルヒネ」の〝素敵な赤色のボトムス あたしには少し似合わないし〟という一文がとても印象的だった。そんなことない。彼女は誰がどう見ても綺麗とか美人なタイプだし、今でも色々な衣装で私たちを楽しませてくれている。似合わないものなんて無いじゃないか。私にこそ似合わないから、それが似合ってしまう彼女に憧れているのに。そう思いながらも、当時21歳、今の私とほとんど年齢の変わらない彼女のこの詞に、少しだけ親近感を覚えた。
「正しい街」もそうだった。〝さよならを告げたあの日の唇が一年後 どういう気持ちで いまあたしにキスをしてくれたのかな〟。上京する際の恋人との別れを歌ったこの歌。登場する百道浜や室見川は、私の地元に実在する場所である。しかし、そこには私の知らない椎名林檎がいた。憧れの対象としてではない、21歳の女の子の言葉だと思った。

本を読むことが大好きな子供時代を過ごし、その頃偶然手にしたスピッツのCDをきっかけに音楽も好きになる。中学では長期の不登校を経験。高校時代は特に何もなく普通に過ごし、でもその当時書いた文章を褒めてもらえたことがとても嬉しくて、文学を学べる大学に進学。今はそこの3年生で、最近の悩みは主に就職関連のこと。これがざっと私の過ごした20年間である。その中で私に起こった出来事の一つ一つには、感情が伴っていた。そしてその感情全てが言葉に代えて説明できるものではない。だから、その時々の私によって選ぶ音楽も変わっていったし、読む本も変わった。けれど、この『無罪モラトリアム』は、説明の付かないその感情の全てが全11曲のどれかに当てはまっているような、そんな感覚がした。当時21年間を生きてきた彼女が作ったアルバムを、今20歳の私が聴く。もちろん全く違う人生であるし、見てきた景色も違うはずだ。なのに、歌詞の中の〝あたし〟は何だか私みたいに思えてしまう。このアルバムには、そんな魔法が掛かっている気がした。

2018年、現在39歳の彼女は、デビュー20周年を迎えてもなお、ますます輝いている。ありきたりな言葉だけれど、その姿はやっぱり美しくて、かっこいい。常に今日現在(いま)が最高値だからこそ、彼女は眩しくて憧れてしまうのだ。それはそうとして、私はどんな大人になっていくのだろうか。1999年、この世に生まれたばかりだった私は、今そんなことを考えている。
 

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