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2017年4月19日

トウコ (35歳)

思春期に寄り添ってくれた音楽

黒沢健一はここにいるよ

中学生の頃の私は、モヤモヤと学校生活を送っていた。

眠れない夜が多く、深夜ラジオから流れる音楽で心の隙間を埋めて眠りに付くのが日課だった。
今思うと心の隙間は、思春期ならではのそれだったのかもしれない。とにかく、あの頃の私は今よりもずっと純粋に音楽を聴く準備がいつでも出来ていた。

ある日、クラスで仲良くしていた友人が、受験をして他校に転校しようとしていると知った。
何となく日々を過ごしていた自分と違い、友人は将来の夢を見据えて考えていた。

「私の夢は何だろう?」

途方に暮れた。考えたくない。そのまま今日は寝てしまおうとラジオを付けた。

『誰もが夢をくり返す 未来はすぐに通り過ぎる』

伸びやかな歌声が、今は考えたくなかった夢を歌っていた。確かに未来はすぐに通り過ぎ、過去になってしまう…ああ、もう今日は寝たかったのに、聴き入ってしまうではないか。

それは黒沢健一が率いるバンド、L⇔Rの「HELLO, IT’S ME」だった。

その日は眠れなかった。
 

『声が聞こえるかい 迷った町の雑踏で 立ち止まる不安な時』

自分の心の中の掴めない漠然とした不安に声を掛けられた。

一緒に登校する友達との会話を遮断したくて、音楽を聴きながら電車に乗り、自分の心を探っていた。

『窓に流れ 見える景色 心を閉ざしたなら 美しさ分からない』

曲に見透かされている。ヘッドフォンを外して、めずらしく友人との会話に加わると、不思議だ、いつもの車窓が変わって見えるのだった。
 

2016年12月。黒沢健一が亡くなった。

あれから年月が過ぎ、大人になった私は、ファン仲間から受け取ったメールで訃報を知り、携帯を片手に立ち尽くしていた。そして、頭の中に「HELLO, IT’S ME」のイントロが流れた。

そうだ、あの時の曲にもう一度会いに行こう。
久々にCDラックに手を伸ばし、静かに聴いた。あの頃の漠然と悩む若き日の自分に再会した。

『Hello 僕はここにいるよ』

黒沢健一の声は変わらず伸びやかに私に語りかけてくれた。

彼はこれからも私の中にずっと、いる。

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