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2017年4月20日

AkM (18歳)

ネット出身とかそうじゃないとか、気にする時代じゃないけれど

ヒトリエがロックバンドとしてもう一度生まれた“IKI”

私の思春期はインターネット上の音楽、特にボーカロイド楽曲と共にあった。とは言っても、私は友人からCDを借りてそれを聞くくらいであって、特別熱中したというわけではなかった。しかし、人間には真似出来ない速度・音程で歌われるルサンチマンや架空の世界のお話は何度も私を別の世界へと連れ出し、何度も私を救った。独特の閉鎖感を持つあの文化は私の血肉となり、私の意識の中に溶け込んだ。ネット音楽は、私を形づくる要素の中のひとつである。
だが、だからと言ってずっとそこだけにいたわけではない。小さい頃に好きだった歌謡曲を今は聞かないことと、同じようであると思う。歳を重ねるごとに私は、徐々にその世界から離れていった。

同時に、変わったのは私だけではないことも確かだった。今、メジャーシーンにはそういった場所から出てきたアーティストがたくさん存在すること。インターネットのようなところから、開けたシーンへやって来ることを選んだ人たちがいること。そういった人たちの変化を肌で感じ取る時、私はいつも勇気づけられる。過去に薄暗い場所にいた人たちが発する明るい言葉は、その影を背負っていっそう輝く。特に去年は米津玄師の《愛されたいならそう言おうぜ》(LOSER)だとか、ぼくのりりっくのぼうよみの《世界は色鮮やかで可能性に満ちてる》(after that)だとか、直球すぎて逆に取りこぼしてしまいそうなくらいの言葉たちが、それでもやはり真っ直ぐに心に刺さった。中でも私に一番の衝撃を与え、心に刺さるどころかぎゅと握って離さなかったのは、ヒトリエの2016年2枚目のアルバム、“IKI”の1曲目、『KOTONOHA』という曲でこう歌っていることだった。

《言葉、言葉、吐き出してただ / 届け、届け、まだ見ぬ人へ》

初めて聞いた時、ヒトリエの武器である各パートの圧倒的な個の強さが絡み合い巻き起こす轟音に揉まれつつも、耳がこの歌詞を拾い上げた瞬間鳥肌が立った。緊迫したメロディに乗せ、現実を受け入れ生きていくことを力強く宣言する『心呼吸』に続き、3曲目、アルバムの核である『リトルクライベイビー』へ雪崩込む間、ずっと心臓が忙しなかった。落ち着いて曲に浸ってみれば、ただただ美しい言葉と音の洪水が心を満たし、胸がいっぱいになって苦しいくらいだった。

“IKI”の10ヶ月前にリリースされたアルバム、“DEEPER”はその名の通り“深化”のアルバムであった。ヒトリエらしいと言われるようなもの、すなわちwowakaの手癖のようなものを掘り下げて完全な形で出し切ったのが“DEEPER”だった。だからこそ、歌われているのはwowakaのボカロP時代とあまり変わらない閉鎖的な世界のことであり、彼はアルバムを通してずっと自分の中のもうひとりの自分と対峙し続けていた。
しかし“IKI”はそうではないことが、『リトルクライベイビー』に続く『イヴステッパー』の舞台が《東京》という実在の街であることによってより明白になる。さらにこの曲の中には、《だけど今日も音に身を任し / 君の顔、めがけて唄う》というフレーズが出てくる。“DEEPER”やそれ以前の作品にも「歌を歌っている自分」の存在が出てくることはあるが、その向こう側に「誰か」がいることは殆どない。対して“IKI”では自分の前にいる「誰か」の存在を強く意識した歌詞が多い。先に引用した『KOTONOHA』に至っては、まだ自分の前にも現れていない誰かに届くようにと声を張り上げているのだ。“IKI”は、“進化”のアルバムだ。

それはサウンドの面からも見ることができる。wowakaの脳内で鳴っている音を4人で作り上げていく、というのが今までのヒトリエのイメージであったが、それぞれの音を持ち寄った結果として今までにないヒトリエの音が出来上がったような印象を今作からは受ける。
また、アルバム後半の要所、『doppel』の客演にthe HIATUSの伊澤一葉を迎えていることも変革の例として挙げられるだろう。ヒトリエが曲の中にメンバー以外の音を取り込むのは初めてのことである。他者とイメージを共有して曲を作りあげるという試みをしようと思ったこと自体が大きな進化で間違いないし、それは見事に成功を収め、アルバムに彩りを添えている。

wowakaが紡ぐ、時には声を張り上げ、時には語りかけ、時には手を差し伸べ共に歩もうとするような詩。メンバーの作り出す音は、詩が一番伝えたいことは何なのかを理解してそれが人々の心へ最良の形で届くように包み込む。ヒトリエがバンドであることの意義をこれでもかと見せつけられることが、清々しくて気持ちいい。 10曲40分を一通り聞いた後、私の心はぐちゃぐちゃになった。衝撃と感動と高揚と切なさと、まだ私では言葉に出来ないようなたくさんのこと。ただ、生きている、と思った。そして、彼らの出身がどこかなんてことに囚われず、純粋にカッコいいロックバンドとして、もっと多くの人のもとへ届くことを強く願った。

wowakaは、最後の曲でこう歌う。

《変わらぬまま行こう / 未だ知らない場所へと向かおう》(目眩)

ヒトリエはヒトリエのまま、変わらぬままに変わり続ける。“DEEPER”と“IKI”を聞き比べれば分かるように、数ヶ月前の彼らだって今の彼らとは大きく違う。もしもあなたが今、彼らを見られる機会を持っているのだとしたらそれを無駄にしてはいけない。知らない場所を、もっと遠いところを目指して今を生きる彼らを見て、あなたも息を呑まずにはいられないだろう。

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