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「全ては想像から」始めよう

sumika「Fiction e.p」に寄せて

それはまるで追い求めていた宝箱を開けた瞬間の胸の高鳴り、溢れんばかりに出てくる輝きの数々。上がり切っていた期待値と、それを遥かに上回る圧倒的な煌めきと幸福感。
sumikaの久々の新譜、「Fiction e.p」。その全曲を聴いた最初の私の感想だった。そしてこれは間違いなく傑作だと確信した。

フラゲが出来なかった私は発売日当日、足早にお店に向かっていた。ラジオや先行試聴で大体の曲の雰囲気は掴めていたが、歌詞をじっくり読みたかったしCDという形に残るものになるのは嬉しい。
それにその4曲が1つに纏まりお互いにどれだけの相乗効果を起こしているのかと思うと、とても楽しみだった。
待ち遠しかったものが今、やっと手元にある。あの喜びはいつ経験しても慣れないし同時にいつも感動で胸がいっぱいになる。
時折CDを見つめては笑う私を見た友達には若干引かれたが、それほど嬉しさを抑える事が出来なかった。
長かった一日を終え、帰宅後すぐに私はCDをプレーヤーにセットし、高鳴りを収めるように深く呼吸をして、正座の状態でゆっくり再生ボタンを押した。

全曲リード曲、そうはっきりと言い切った彼らの楽曲はまさにその通りだと思った。
ハッピー全開でありつつ、不安に寄り添うように優しい「フィクション」、疾走感の中に漂う未練と情景描写が切ない「下弦の月」、毒々しく攻撃的な「ペルソナ・プロムナード」、伝えられない片想いの淡い恋心を代弁した「いいのに」。
全部sumikaの得意技・必殺技だがその振り幅は大きい。しかし違和感なくすんなりと耳に流れて心に染み渡る。
それは全曲リード曲という言葉で表現したように、彼らの楽曲への想いと自信が大きい証拠なのではないかと生意気ながらに感じた。

今年で結成5周年を迎えたsumika。そんな記念すべき年の始まりに選んだe.pのタイトルは「Fiction」。虚構という意味を持つこの言葉を何故このタイミングで彼らは選択したのか?

片岡さんは「Fiction e.p」発売当日、こう呟いている。

「全ては想像から」

例えばいきなり金メダルを貰っても早く走る努力をしていないから貰っても喜べない。だから今幸せだと思えるのは、過去に思っていた事が実現するから。想像してない事は喜べないから「全ては想像から」始めていくという意味だ、と片岡さんがその後のインタビューやラジオなどで補足している。

『さあ 今日も始めましょうか
 昨日 挟んだ栞の続きから』

『破り捨てたい時は
 もう一回
 付箋の場所を読み返し』

『読み進める程
 白紙のページが
 お気に召すままに
 起承転結をこしらえて』

「Fiction e.p」の1曲目を飾る「フィクション」。この歌詞に出てくる『付箋』、『栞』そして『白紙のページ』。私は『付箋』は過去の事柄、『栞』は今の自分、『白紙のページ』は未来を表しているのではないかと考えていた。
歌詞の流れや栞は木の枝を折って道しるべにしたことが語源という根拠からも考えていたが、片岡さんの言葉からそれは衝撃へと変わった。
『付箋』という過去で自分がどんな事を思っていたかを想起する。それを胸に『栞』という今の自分を道しるべに『白紙のページ』という未来、つまり自分が過去に思い描いていた想像へ向かって歩き出す。
これこそ「全ては想像から」その言葉の真意を表しているのではないかと思った。

またROCKIN’ON JAPAN5月号のインタビューで片岡さんはこう語っている。

「改めてこの時期に、過去のことも、これから先のことも、全肯定していきたいなっていう気持ちがありました。」

そう、彼らはこの5年でキーボード小川さんの加入や多くの音源を発売したというプラス面の他に、ボーカル片岡さんの休養といったマイナスの事柄も経験している。
そんな山あり谷ありの彼らは良いことだけしか無かったと虚構を言い張るのではなく、良いことも悪いこともあったからこそ今がある、自分達が思い描いていた前向きな想像があると言い切り、そこには確固たる意思の強さを感じる事が出来る。

そう考えると「Fiction e.p」の曲達は彼らの全て、歴代の曲達の良さを凝縮したようだがその中には事新しさもある。
「フィクション」は「Lovers」「MAGIC」、「下弦の月」は「リグレット」、「ペルソナ・プロムナード」は「ふっかつのじゅもん」、「いいのに」は「アネモネ」と類似していると私は思っている。
「原点回帰」という言葉があるが、少し違う。原点に戻っているが、進化もしている。
あるバンドマンがこんな言葉を使っていたのを思い出した。「原点進化」、過去を含みつつ今を進むその形はまさにその言葉が当てはまるだろうと思った。

虚構ではなく、前向きな想像。
酸いも甘いも経験したsumikaだからこそ「フィクション」という言葉をこう表現し、今回のタイトルに選んだのだろう。
全てを忘れず過去も今も愛し背負っていく。そして「全ては想像から」始まった自分達の未来を実現する為これらを糧にし、進もうとする彼ら。その覚悟、想いは凡人の私には考えただけで果てしない。
しかし、それゆえにsumikaの音楽は真っ直ぐで、清澄で、強くて、気持ちが良い。
そして胸が幸せで苦しくなる程に、涙が無意識に零れる程に、彼らの楽曲、人柄、全てが私は大好きだ。胸を張ってそう言い切れる。

私にも彼らのような思い描く前向きな想像はある。しかしそれは朧ろげで見失ってしまいそうだ。
でもこの歌のように『付箋の場所を読み返し』確認しよう、自分がどうしてその想像をしたのか。そしてその時の様々な想いを思い起こし、今の自分を再確認して歩き出そう。
何度躓いたって良い、だって私達には合言葉がある。そう、「Fiction e.p」の1曲目「フィクション」。前向きな想像の最初の言葉を胸に、私は今日も進む。

『さあ 今日も始めましょうか』

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