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上昇気流に乗るために

Awesome City Clubを処方する

「ふう…」と息をついて家までの階段を上る。自分の部屋へ入り、豆電球の薄い灯りを頼りに間接照明をつけ、ラジオの電源を入れるとちょうど23時のタイムシグナルが流れてきた。今日も長かった…まだ水曜日だなんて信じられない。お風呂を温め直しながら、その日を振り返る。最近の僕はとことんついていない。スマホにお茶をこぼすし、植木鉢はひっくり返すし、おまけに奥歯が染みる。それに『あんなこと』まで…こういう時は大人しく過ごすに限るとラジオの電源を切り、iPodの電源を入れる。サンボマスターに力を分けてもらおうか、ヤバTで嫌な気分を吹き飛ばそうかと考えながら選んだのはAwesome City Clubだった。

「架空の街“Awesome City”のサウンドトラックをテーマに、テン年代のシティポップをRISOKYOからTOKYOに向けて発信する男女混成5人組バンド」
(Awesome City Clubホームページより一部抜粋)
これが彼等のふれこみである。最近のおしゃれな音楽、シティポップを語る上でAwesome City Clubの名前は外すことができない。今まで元気が出る、明るい、みんなで歌える音楽を聴いてきた僕が彼等にはまったのは生活環境が変わったからだと思っている。もちろん23時に帰る日があるくらいだから忙しい時はあるが、毎日そういうわけでもない。ただ職場や家庭、そこでの人間関係で当たり前のように出る音、会話が何故か尖って棘があるように感じる。そんな時はアップテンポの曲よりも彼等が奏でるゆったりと肩の力を抜いたような音楽を欲するようになった。忙しいだけでなく、ついていない上に“あんなこと“まであった最低の状態にある僕にAwesome(最高) City Clubの音楽はその傷を癒すのにぴったりだった。どのアーティストにもファンの間で名曲や神曲と呼ばれる一曲があるが、僕がAwesome City Clubで名曲だと思っているのが“青春の胸騒ぎ“だ。メロウなサウンドに男女混成のハーモニー、あえて淡い映像になっているMVと全てが好みに合致している。

《あの日に タイムトリップ 青春の胸騒ぎ ふざけ過ぎた夜が蘇る あの頃に戻ってはしゃげたら かじかむ心 満たされるのかな》(青春の胸騒ぎ)

誰でも過去に戻ってやり直したいと思ったことが一度はあるのではないだろうか。それは性別や年齢などのパーソナルなことや進学、就職といった人生の岐路ともいえる場面で呼び起こされる。あの時、違う選択をしていれば、強がらなければ、もっとしっかりしていればとか『あんなこと』があったからふとした瞬間にそんなことを思い返すと心に隙ができて、何とも言えない気持ちになる。これが“青春の胸騒ぎ“か。Awesome City Clubの音楽はまるで傷口を消毒する時のようにジーンと染みる。そしてそのジーンとした痛みは虚しさや悲しさを呼び起こす。お酒を飲みに行くこともよくあるけど、先のことを考えて必ず終電の時間を気にかけていた。いつかの帰り道に悪ふざけのように繋いだ手を大きく振って帰ったのは“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる“とその一瞬でも思ってくれていたからかもしれない。これがいわゆる後悔というものだが、後悔先に立たずという言葉があるように過去に捉われていては前に進むことはできない。Awesome City Clubが自身初となるベストアルバムに1曲だけ新曲を収録した。それが“ASAYAKE“だ。

《歌おう 朝焼けのメロディー 闇を 越えてアナタと共に 今を 追い越し僕らは 行こう 風になる》(ASAYAKE)

この曲は今までのAwesome City Clubとは一線を画す力強いメロディーと歌声に惹かれた。これはベストアルバムという一つの節目に、彼等が新たな何かを始めてそれに向けて一歩踏み出すための決意表明だと感じた。常套句のようになるが、明けない夜はない。最近のついていない最低だと思っている日々もいつか上向きになっていくはずだ。今は『あんなこと』と気に病んでいる部分もあるが、いつか「そういえばあの時あんなこともあったよね」と笑いあえる日がくるだろうか。闇を越えて、今を越えるためにはどんな小さなことでも“ASAYAKE“が射す時に見える一筋の光のようなきっかけを掴まなくてはならない。

『あんなこと』と表現してきたものはついてない日々に追い打ちをかけるような出来事で、それの傷口は“青春の胸騒ぎ“によって消毒された。『あんなこと』はあえて言葉にしたくないが、大切な何かを想う気持ちを失ったのだ。失うというのは悲しいし、何かに当たりたくもなる。しかし、それでいいのか。

《見えないふりしてた 目を逸らしてた 臆病なアウトサイダー》(アウトサイダー)

まさに今の僕を歌っているようだ。ついてない、『あんなこと』とまるで誰かのせいにして当てつけている。自分に都合の悪いこと、弱みからはどうしても目を背けて否認しているが、これではだめだ。

《もう空気読んでばっか いられないねアウトサイダー 今変わらなきゃ!》(アウトサイダー)

そういうことだからこそしっかりと自分と向き合って、これからどうすればいいか考えていかないと。『あんなこと』…いや、失恋という過去だってこれからの自分の財産なのだ。“ASAYAKE“、“アウトサイダー“というAwesome City Clubの音楽を処方することでその傷口は優しく保護されて、治癒していくに違いない。僕は組織とその小さな人間関係の中でインサイダーになるよりも、一つの枠にとらわれない良い意味での“アウトサイダー“になって、過去と今を経験という財産に変えて自分をより高めていこう。
そのために勇気を持って一歩、今踏み出すのさ。

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