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Memento mori

androp 変わり続ける音と死生観

「Memento mori」で締めくくられたandrop 5年振りのホールツアー “cocoon”。生きていれば何時か必ず死を迎える、だからこそ《今 一瞬を生きて》いく、その時は突然やってくるかもしれないのだからー。本編のみで構成された時間に、2度と戻る事のない瞬間の尊さと死を思う。
 

初日、名古屋。音が鳴り止むと同時に一つの命が終わりを迎えたかのようだった。プッツリと途切れてしまった。粛々と見送ったあとその場を後にする。拍手は少し違う気がした。

振り返れば、2016 “best blueprint”ツアーも本編のみで終了している。フロアとの会話がキッカケで生まれた曲(Encore)をファンが歌い、メンバーが応えるというそれ迄のスタイルから離れ、アンコールはあくまでも特別なものであって基本は本編で完結している、という意思を示した。ベスト盤から選曲された前半と、闇を曝け出したアルバム”blue”を再現した後半。《どうか許してほしい 未来へと》。客電の点いたフロアには好きなバンドのライブを観た興奮より、新しい音とアンコールが行われない事への戸惑いが広がっていた。本編のあとに用意さていたのはそれらと向き合う為の時間だった。

2008結成。活動当初は顔を出す事すら拒んだバンドが音楽だけでリスナーの支持を集め、フロアとの会話を始め、繋がる歓びをおぼえた。「音楽は人だ」と腹を括り、闇と向き合う事で背中合わせの光を見せた。
ーもっと音楽を届けるためにはどうすればいいのか?その答えを探し新たな挑戦を続ける為に事務所を設立してから2年、選んだのはホールツアーだった。

仙台、福岡を経てセミファイナルとなる大阪公演。初日とは大きく演出を変えたこの日、最初に現れたのはデビュー当時を彷彿とさせる彼等の姿だった。シルエットのみを映し、その表情を窺い知ることは出来ない。曲に合わせて少し明るくなったステージから、メジャーレーベルと再びタッグを組みリリースされた「Prism」、リスナーとのシンガロングが印象的な「Voice」、喉の不調から歌う事が出来なかった昨年末の経験を踏まえてつくられた「Arigato」、そして「Boohoo」を奏で、軽くMCを挟んで「Sorry」「Proust」「Catch Me」「Hanabi」とcocoonの世界を描いて行く。
ダイレクトに音が響くライブハウスと違って、ホールでは細かな音が伝わり難い。今回のツアーを視野に入れてつくられたアルバムにはミディアムテンポの曲も多く、少ない音数で新たな音像をつくる為これまでには無かった楽器が導入されている。佐藤拓也(Gt.Key)がギターを下ろしてコーラスに徹し、前田恭介(Ba)がユーフォニアムを吹く「Sleepwalker」、ピアノとコントラバスをバックに歌われた「Tokei」、伊藤彬彦(Dr)と佐藤が戻り演奏された「Kitakaze san」のアイリッシュサウンド、冬のBillboard公演でも披露された「Neko」。サポートメンバーに佐藤雄大を迎え、5人編成を軸に次々と形を変えていく。
Sleepwalkerで着席を促した内澤崇仁(Vo.Gt)が「そろそろ疲れも取れたんじゃないですか?」と笑いを誘い、立ち上がった客と一緒にコーラスを始めた「Ao」から、「Joker」「MirrorDance」「Sunny day」「One」「Yeah! Yeah! Yeah!」まで一気に駆け抜けると、息を切らせた内澤が呼吸を整え再び話し出す。
「音楽は楽しいだけじゃない、辛い時や悲しい時も寄り添えるように。僕らの音楽が、貴方に届きますように」
「Memento mori」(死を想え)。その警句と対になるラテン語はCarpe diem(今を楽しめ)。共に歌い、未来へと進んで行く光のイメージが先行しがちだが、andropの根底に在るのはMemento moriの最後に綴られている《生きてくんだよ どうせ消え去る前に》という変わらぬ死生観だ。音楽は形のない、手に触れる事の出来ないもので、誰にも届かなくなった時その生を終える。今目の前に居る人の心に届けられなくなった時、その人の中で曲が死ぬ事を彼らはちゃんと知っている。
人として、バンドとして、曲として、様々な生が絡み合う時間にも必ず終わりはやってくる。演奏を終えた4人が去り、独りきりになったステージに歪んだギターの音が響く。1時間40分、ライブは幕を閉じた。アンコールは行わない。1度消えた命が戻ることはない。

終わらない音楽などない。このバンドにもいつか本当の最期の時が来るのだろう。終わるのかもしれないし、終わらせるのかもしれない。けれど、まだ続いて行く。それを知っている。

誰も居なくなったステージへ大きく拍手を送り、会場を後にした。

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