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偉大なるデイヴ・グロールとレジリエンス

かっこよく年を取る秘訣

 
数年前にGRITという言葉がはやった。成功に必要な4つの要素をならべた頭字語で、Rはレジリエンス、きつい状況を切り抜ける能力のことだ。
ここしばらくフー・ファイターズのデイヴ・グロールと、レジリエンスについて考えている。

デイヴが上手に年を取った秘訣を知りたかった。
フーファイはMVが面白いという記事を読んで、YouTubeで若き日のデイヴを見て驚いたのだ。
現在のデイヴはワイルドなイエス・キリストのようだ。いかつくてカリスマがある。若き日のデイヴはひょろっとしている。チャーミングではあるがどうも頼りない。当時の傾向からすると今のデイヴはマッチョすぎるかもしれないし、彼の変化は時代にうまくフィットしてきただけなのかもしれない。けど、今のほうが断然いい。
何があったのだろうと思った。年とともに魅力を増した人は、どんなことを経験してきたのだろう。

世界で3番目にリッチなドラマー、デイヴ・グロールは、アメリカンドリームの体現者だ(本人いわく「高校中退でロックの殿堂入り」)。フー・ファイターズではギターとボーカルで、世界中のスタジアムをまわり、他のミュージシャンとも積極的にコラボし、MVや映画を監督する。家庭では、早起きして娘さんの朝ごはんとお弁当をこしらえ、学校まで送っていく良きパパである。
デイヴはフー・ファイターズのフロントマンになる前は、ニルヴァーナのドラマーだった。ニルヴァーナは、カート・コバーンの死で終わりを迎えてしまう。
それを乗り越えたと聞くと痛々しさを感じる。しかし、MVのデイヴは、仮装したり見事な顔芸を披露したり元気いっぱいだ。もちろんストレートなMVやライブではひたすらかっこいい。喜怒哀楽がオープンで陽気、誠実かつ洒脱にファンとやり取りするデイヴは、ロック界で最もナイスな人と呼ばれている。

マッチョな人や楽天的な人は生まれつき強靭なんだろうと思っていた。つらいことがあっても軽やかに乗り越えて、さっぱり忘れてしまうか、いい思い出にしてしまうんだろう。くよくよしがちな人間とは根本から違う。
音楽ニュースのヘッドラインで見るデイヴはライオンみたいな長髪にヒゲで、いかにも骨太だったので、縁遠さを感じて、長らくニュースの詳細を開いたことはなかった。

レジリエンスの対義語はヴァルネラビリティで、もろさ、傷つきやすさを指す。
この言葉で思い出すのは、エド・シーランがTwitterをやめた・やめないで騒動になった時の、「だってみんな意地悪なことしか言わないだろ」というコメントだ。
なんて純粋で正直な人なんだと思った。それ以降、エド・シーランの優しい笑顔を見るたびに、一抹の悲しみを探してしまう。

デイヴだって落ち込む時は落ち込んでいた。カートの死後と、骨折ツアーが終わった後だ。ワーカホリックで、「サメのように常に動き回っていないと死んでしまう」と評される彼が、何もしたくない、音楽にさえかかわりたくない状態だったらしい。ずっとソファで過ごしたり、ヒゲを伸ばし放題でリハビリする(ギプスで固定したままツアーを続けた脚の状態は深刻だった)日々を過ごした。やがて活動する意欲が湧いてきた。

骨折した直後のレジリエンスもすごかった。コンサート中にステージから落ち、動けない状態で「俺は骨折したと思う。治療してまた戻ってくる」と宣言して担架で運ばれていき、デイヴぬきで続けていたショーに本当に戻って(運ばれて)きて、椅子に座って最後まで演奏した。理由が「まだ2曲目だった」というのが泣かせる。骨折は手術が必要で、ツアーは中断した。入院中に王様が座るような椅子をデザインして、再開後のツアーではその玉座に座った。
リアム・ギャラガーは、デイヴが玉座でツアーを続けたせいで「風邪をひいてもキャンセルできない。腰抜けに見えるだろ」と言った。『デイヴ・グロール、ライヴで再び脚を骨折しかける』のヘッドラインでリアムの発言を思い出し、玉座を検索した。ギターのネックが生えた椅子に座る大真面目な顔のデイヴに惹かれて検索を続け、フーファイのMVの記事を見つけた。

現在のデイヴはマッチョだが、若い頃はそうでもなかった。陽気なのは昔から変わらない。マッチョで陽気な、無敵に見える今のデイヴでも沈むことがある。インタビュー中、クリス・コーネルの話題になると、常になく沈黙し、言葉に詰まる。時間をかけて乗り越えても、友人の死は繰り返され、乗り越えたはずの気持ちが戻ってきてしまう。しかし、ここでもデイヴのレジリエンスは発揮され、奥さんと娘さんが帰宅すると、鼻をすすり、涙を拭い、いつものデイヴに戻って出迎えにいくのだ。「一番重要なのは家庭を安全に保つこと」と言いながら。

たぶんこれが秘訣だ。つらい記憶は消えないし、悲しい気持ちになることもある。予想もしないことが起こり、怪我を負い、ものすごく痛い時だってある。そんな中でも、平気な顔に戻り、その時に一番大事なことをすること。それを続けること。落ち込んだら元気が出るまでじっとしていてもいい。
その繰り返しとハードワークで、デイヴの魅力と能力は磨かれていき、王者の風格と凄みを身につけたのだろう。老眼鏡だってチャーミングに見えるくらいの茶目っ気と、ヴァルネラビリティだって隠さないオープンさと、何より観客を大切にする姿勢を維持したまま。

GRITの話に戻ると、デイヴには4つの要素すべてが当てはまる。レジリエンスにばかり目がいくのは私の都合だ。求めよ、さらば与えられん。
歯を食いしばったりしかめ面をしても、悔しがって泣いても、すぐに平気な顔に(できれば笑って)戻ればいいんだ、という答えが見えた気がした。無理してヴァルネラビリティを押し殺すことはない。
デイヴは夢を追うことの大切さも説いている。今の私にはまだぴんとこないけれど、レジリエンスを鍛えればきっと身にしみてわかるはずだ。フロントマンになったデイヴが、カートの歌詞に新たな意味を見つけているように。

夢の一つとして、目下のところは、フーファイを見にアメリカに行かなくっちゃ、と思っている。

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