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2017年4月21日

柴沼千晴 (21歳)

女神になった少女

~miwa 5thアルバム『SPLASH☆WORLD』に寄せて~

miwaが変わった。

現在26歳。公式サイトには「10代からリクエストを募ると必ず上位に名前が挙がる、時代を紡ぐ女性シンガーソングライター」とある。小柄な身体で大きなギターを奏でるその姿で、デビュー当時から多くの注目を集めてきたことに今さら説明は不要だろう。ここ最近は音楽番組のみならず様々なメディア出演も増え、それらの目を引く数々のトピックによって、彼女の愛らしいシルエットはさらにくっきりと外の世界へ届けられるようになった。しかし、「変わった」と書いたのは決して新たなフィールドでの活躍を言っているのではない。ここ数年の彼女について私が今特記しておきたいのは、「シンガーソングライターとしてのmiwa」と「彼女自身」との乖離と、その決別の話だ。

miwaというシンガーソングライターの歴史とは、ひとりの少女が一歩ずつ大人になっていく過程だった。夢を叶えた彼女が曲中で描く恋愛や未来を歌うステージは、彼女が次の夢を叶えていく様をリスナーと共有する場所だった。19歳、ドラマ主題歌でメジャーデビュー。夢というのは難儀なもので、その端に手が触れた瞬間に突然表情を変えたように現実を突きつけてくる。遠くから眺めていればきらきらと反射してよく見えなかったものが、近くまで辿り着いてみると驚くような複雑な色をしていたり、無数の棘を隠し持っていたりする。願いがひとつ実現したからって、結局悩みは尽きないし、今日明日で人生ががらりと変わるなんてありえない。夢を叶えるということは、0か1かではないのだ。一見申し分のないシンデレラストーリーを歩んできた彼女が、そのふつふつと沸き起こる感情をそっと歌い始めたのは大学を卒業した2013年頃のことだった。卒業式と称した初の武道館ライブを成功させた後にリリースされた3rdアルバム『Delight』。その表題曲で《風を感じたら従えばいいのよ》としなやかに歌い上げる彼女の息遣いは、今までのそれとは全く違っていたのだ。全てを受け入れることを力強く肯定するその言葉の端々にはどこか切なさが宿っていて、何かとても柔らかいものを両手で掬い上げるかのような包容力を纏っていた。アルバム後初となる12thシングル『Faraway』では特に顕著にその変化が見える。一風変わったバンド編成と展開で編み上げられていくのは、明日を変えたいという小さな願い。《あの時願った場所はどこまでも近づくほど 遠くなる気がする》という歌い出しがシンセサウンドと溶け合って、これまでにない表情を見せていた。そして“Delight”同様、4thアルバムの表題曲として1曲目を飾る“ONENESS”では《大丈夫まだくじけないわ 覚悟はとっくにしてきたの》という一節が眩しい。これまで彼女が自分についての歌を歌うことは、私たちを救うことと同義だった。先にも書いた通り、シンガーソングライターに就職するまでのmiwaは、ほとんど私たちと変わらない、ひとりの少女だったからだ。リスナーの近くに寄り添うことで必然的に獲得してきた共感は、この時から少しずつ形を変えていったように思う。このタームを乗り越えて今彼女がどこに向かうのか―――その答えが明確に示されているのが2017年2月22日に発売された5thアルバム『SPLASH☆WORLD』のように思えてならないのだ。

今作は今までのどの作品とも異なる、稀有で珠玉の11曲だ。その視線は内なる自分ではなく、拓けた世界に向いている。より広がりのあるストリングスとよりパワフルなビートに乗せられる言葉の訴求力と度量。多彩なアレンジや音色を乗りこなしながら歌唱はより強かさを増していて、どこまでも伸びていくような声に含まれる感情の量がもの凄い。Nコンの課題曲“結 -ゆい-”で歌われる聴き手へのエールは、私たちに歌の力を信じさせてしまうほどのエネルギーに満ちているし、深いブレスに始まる“泣恋”のメロディラインは、そのセンチメンタルを何倍にも増幅させるから胸が詰まる。ラストトラック“あなたがここにいて抱きしめることができるなら”にこの上ない美しさを感じて、これらは自分のために歌える歌ではないと確信した。収録曲のどれを取っても、「シンガーソングライター・miwa」の臆することない視線に見つめられているような感覚になるのだ。歌を通して人との繋がりを求め、新たな化学反応によってその先の目的地に向かっていくという覚悟。これは他アーティストとのコラボシングルとか製菓会社のCM出演とか若手人気俳優とのW主演映画なんかよりもずっと大きなニュースであり、彼女のキャリアにおけるとてつもない前進だと私は思う。というよりも、全てはこの進化に伴う事象に過ぎないのだろう。彼女は本当の意味で、ポップネスのど真ん中で旗を掲げる意思を固めたのだ。

miwaは変わった。とても優しく、強くなった。常にマスに向けた楽曲を世に送り続ける傍らで、夢見るひとりの人間として抱えていた「自分との向き合い方」という命題にひっそりと終止符を打ち、さらなる壮大なテーマに向かっている。「水の循環」をテーマに制作されたという今アルバムのトップナンバー“SPLASH”がこれまでで一番に気高く逞しく響いてくるのは、miwaのそんな並々ならぬ矜持の表れなのだろう。今週末からスタートする全国アリーナツアーで、必ずや彼女はポップの女神として私たちを麗らかな景色へと導いてくれるはずだ。

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