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7月20日という日

LINKIN PARKと親友へ

 
 ああ、彼はもうこの世にはいないのか。

 YouTubeのトップページには彼らの映像のサムネイルが表示されて、それを見るたび体の一部がどこかに消えた気分になる。いつだってリンキン・パークのMVが再生されていた私のアカウントには、おすすめとしていくつかの動画が今日もきらきらと光る。

 チェスターの訃報を知ったのはネットのまとめサイトだった。

 わりと不真面目な記事も多いそのサイトにチェスターの名前を見たときは、正直ウソだろ、釣りだろ、と思った。んなわけないじゃん、とタイトルをクリックして内容を読むために画面をスクロールする。手が止まる。先程とは別の意味の、ウソだろ、が私を浸食してゆく。

 Googleに飛んで確認をした。ウソだったらどんなにかいいだろう。私はまだ一度もリンキンパークのライヴに行ったことはなかった。そしてこの年の11月に彼に会えるはずだった。その機会が完全に失われたと知ったとき、涙が勝手に流れて落ちていった。

 彼が亡くなったのは親友の、クリス・コーネルの誕生日だった。そして奇しくもその日は私の誕生日でもあった。

 ずっと昔に買った2012年のタワレコ手帳を引っ張りだして7月20日を見ると、クリスの名前は当たり前みたいに書いてあった。ページを捲ってチェスターの誕生日、3月20日も眺めた。故、という文字はまだ二人ともついていなかった。わけのわからない気分に苛まれ、私はそっと手帳を閉じてまた引き出しに仕舞うと、これでも救われないのか、と愕然とした。

 唯一無二の歌声に、ハイクオリティな楽曲を次々生み出すかけがえのない仲間たちと、美しい妻と何人もの子どもたちにも恵まれ、何度も何度も大きな賞をとる。音楽好きなら皆が知っている。彼の歌声に何万人もの人が心を打たれ、救われ、また次の日を生きる。それなのに、彼本人はまだ、救われてはいなかった。

 彼の過去はインタヴューで知っていた。だからこそ彼には言い知れぬ魅力があるのかもしれなかった。それでも、この華々しい人生を送る中で、彼はもういくらかは、救われているんだと勝手に思っていた。でもそれは間違いだった。私などでは想像もつかないところに彼はいた。そしてそこから大親友の永遠の不在を経て、もっと遠い遠いところへ旅立ってしまったのだ。

 それでも私の世界は回転を続けて、じりじりと日々は過ぎていく。夏が終わって、秋、冬、2018年になった。異様に降って積もった白い雪が溶けて、桜が咲き、散り、新緑が輝く。そしてまた夏になる。

 今は、曖昧な天気と湿気に辟易しながらもiPodのスイッチを入れる。クラシックタイプのシルバーの、8ギガバイトしかない小さな薄い箱から、朱色のイヤホンのコードを通り、彼らの声は相変わらず鼓膜に当たる。

 天国を信じることにした。そこには巨大なステージがあって、歴代のスターがきっと今日もライヴをしてる。天国だけのスペシャル・ライヴで、ここでしか見られないコラボレーションで、セットリストで、彼らは思い思いに、勝手に、自由にパフォーマンスをしている。そう信じることにした。

 今年ももうすぐ夏が来る。7月20日が来る。私だけが29歳になって、平成という元号の最後の夏になる。

 それでいいんだと思えるようになった。結構時間がかかったなあと、ゆるゆると首を振る扇風機に髪を散らされながら思う。今年も、来年も、私がいなくなっても、仕方ない、ずっと7月20日は来るのだ。

 再生の止まったiPodをシャットダウンして、イヤホンを外す。開け放した窓の向こうで、蛙の声がフェス並みに聞こえてくる。初夏の匂いを少しだけ孕むぬるい風が頬を撫でた。瞳のふちをそっと指で拭うと温かかった。

 天国にも、夏はあるのだろうか。

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