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アーティストは人間だ

Linkin Parkのチェスター・ベニントンに寄せて

彼がこの世を去ってからもうすぐ一年が経つ。

これは彼に寄せて、それから私の尊敬する全てのアーティスト達に寄せて、どうしても書き残しておきたかった文章。

2017年7月20日、Linkin Parkのボーカル、チェスターが自殺した。今まで耳にしてきた有名人の死の中で、一番衝撃を受けた。未だに信じられないし、受け入れられなくて辛い。…どうして会ったこともない人の死でこんなに心が空っぽになるんだろう。でも多分きっと、彼がこの世界のどこかに存在しているというそれだけで、私には十分すぎるほどに意味があったのだと思う。

あれから色々なことが頭をよぎった。リンキンとの出会いや、他のメンバーのこと。好きだった曲。何度も繰り返し見たMV。自殺についても考えた。私も死にたいと思ったことがあるから。それからアーティストについてやファンについて。アートそのものについても。

私がここで書き並べることは彼の自殺には直接関係無いのかもしれない。でもアーティストとはどういう存在なのか、私達ファンはどうあるべきなのか、これはずっと考えていたことなので書かせてほしい。
ちなみにここではアーティストをミュージシャンを含め全ての「ものを生み出す人達」と定義して文を書いている。
 
 

私達は今、一瞬で全てがジャッジされる世界に住んでいる。人の投稿はTwitterやInstagramのいいねで評価され、RTで沢山の人に拡散され、気に入ればスクリーンショットで簡単にコピーも手に入り、気に入らなければコメント欄で「意味わかんない!」と直接相手に伝えることすらできる。
でも考えてみてほしい。
アートとは、果たしてそのような処遇を受けるべきものだったか。

“Disappointed” -「がっかりした」

私がこの世で一番嫌いな言葉!
人が0から苦労して作り上げたものを、簡単に、それも上から目線で、土足で踏みにじるような失礼な言葉。

新譜をリリースした直後のLinkin ParkのFBのコメント欄には、途中で読むのが辛くなるくらい沢山この単語が並んでいた。それからこんなものを作るなとか、昔の作風に戻れとか、心ないコメントが大量にあった。

SNSは図らずもその機能で、作り手と受けとる側の立場の逆転を錯覚させる一因になってしまったんだと思う。

だってそんな言葉は、そもそもお門違いなんだ。だってアーティストは、需要にあったものを供給し続けるような存在なんかじゃない。人から期待されたものを用意するべき存在なんかじゃない。

私の中でアーティストとは常に行く道の先の方でキラキラと輝いている存在であり、今までにない新しい驚きや刺激、感動をもたらしてくれる人達。私はそれを背後からただ追いかけているだけ。ましてや自分の腕の中のお気に入りの箱の中にずっと閉じ込めておけるような、そんなものとは程遠い。

チェスター自身も生前、ファンからの期待や批評について何度も触れていた。1stアルバムに拘るのはやめてくれと。
彼らのように一番初めの作品で成功したバンドほど、後に自らの作品が足枷となって自由を奪おうとする。それから先どのような作品を作っても常に過去と比較され、一部の自称ファンからは敵意を持って受け止められる。とても残酷だと思う。

私は彼の抱えていた苦しみのきっと一億分の1くらいしか理解できていないだろうけど、その一億分の1ですら、とても耐え難く辛い。
過去の栄光の鎖に繋がれたまま飼い慣らされるのは楽だろう。でも彼らはそれをしなかった。足枷をものともせず羽ばたこうとしていた。たとえそれが自らを傷つけることになっても。そのことは、私が彼らを尊敬していた理由の1つでもあった。

「前作は好きだったけど今回は好きじゃない」とか
「昔はよく聴いていたけど今はもう聴いてない」とか
そんなふうに思うことは別にいいと私は思う。もちろん何年もの長い間ファンでいられることはとても素敵なことだ。けれどアーティストの全てを好きになろうとする必要なんてない。ファンはいつでも辞められるし、彼らとの出逢いが過去の自分の素敵な思い出になればそれでいいと思う。

どうか、アーティストを自分のお気に入りの存在として捉えないで。自分の思い通りの形に彼らを歪めようとしないで。変化を選んであなたの好みから離れていったアーティストへのヘイトをぐっとこらえて、今この瞬間あなたが一番大好きなアーティストへの「愛」に変えて、それをあなたの言葉で伝えたらいい。愛はこの世にいくらあったって十分すぎるなんてことはないんだから。
 
 

ものを生み出すというのは、とても大変なことだ。難しいことだ。これだけは声を大にして言える。身をもって経験しているから。

当たり前だが、まず途方もなく時間がかかる。大人になるにつれて時間は有限だということに嫌という程気づかされた。

それから自らの知識や経験が、助けになる時もあれば時に邪魔をする。◯◯はこうあるべきで、◯◯はこうあるべきではないという固定概念が、知らずのうちに脳みそを支配して、私達をつまらない人間に仕立て上げようとしているからだ。
そこをぶち破るのは容易なことではないけれど、そこから脱してこそ最高に面白いものが作れるんだと思っている。そう、まさに彼らの音楽のように。

私はアーティストの石ころみたいなものだけど、ものを作る。ネットで沢山の人が見てくれる。たまにイベントで展示もするし、購入してくれる人もいる。それでも自分の作っているものがクールかどうか自信がないので、まだ心から好きになることが出来ない。時に凄く恥ずかしくなるし、フラストレーションとも戦う。

彼らのようなミュージシャンの更に大変なところは、ものを生み出すことに加えて、自分の作ったものがクールであると常に大勢の人間の前で証明し続けなくてはならないことだと思う。ああ、きっと自分自身が作り手であり、作品そのものなんだ。

もちろん人間皆平等じゃないし、誰しも得意不得意はある。でも、もし全てのアーティストが自分と全くの同質で、一人の人間が同じように苦悩をして、そこから努力して築き上げてきたものがこの世の全ての「アート」であると考えることができたら、見えてくるものは変わらないだろうか?

チェスターの死に関する発言で一番私の心に刺さったのは、As It Isの元ギタリスト、アンディのtweetだった。

“Once again we learn our heroes are human”
“今一度僕たちは、僕たちのヒーローが「人間」であることを学ぶんだ…”

思わずはっとした。こんな当たり前なことを、こんな時になって痛感せざるを得なかったことに私は深く反省した。

有名なアーティストであるほど、私達は自分とは正反対の、ともすれば立派で無欠な人物像を勝手に生み出し、当てはめがちになる。だが、作品が成功することは自信には繋がっても、必ずしも作り手の人格や精神面を育て上げてくれる訳ではない。

だって考えてみてほしい。注目されない人生ほど楽で快適なものはない。有名になることは決していいことばかりじゃない。一度頭上に現れたスポットライトは自分の意思で簡単に消せるものではなく、時として陰鬱なもうひとつの姿をも、赤裸々に映しだそうとする。

皆自分で自分を奮い立たせ、大勢の人間の前で自分を表現するための勇気を作り出さなくてはならないのだと思う。自分自身の手で自分の中にヒーローを産み出さなくてはならないのだと思う。

twenty one pilotsのドラマーのジョシュも、学生時代は人前に立つことが極度に苦手で、プレゼンテーションすら出来なかったという。彼にとっては幸か不幸かTOPは今や世界でトップを争うほどの人気バンドになってしまった訳だが、彼がドラムという楽器をはじめに選んだのも一番目立たないからという理由だった。でも同じように悩みを抱え、音楽に安らぎを求めライブにくるファンの為に演奏することの素晴らしさを感じるようになり、やがてそれが彼のエネルギーになったのだとか。

現実の世界は映画の中とは違って、忽然と姿を表すヒーローなんてものは初めからどこにもいない。個人の血のにじむ努力や葛藤がやがてヒーローとしての立派な人格を築き上げるのだ。彼らが彼らであることが立派なのではなく、0からその全てを作り上げた「彼らの行為」こそが、凄く凄く立派なのだ。それを決して忘れてはならないと思う。

私の中のチェスターは凄く立派な人だったし、今もこれからもそれは変わりない。
 
 

繰り返すと私の中でアーティストとは、常に行く道の先の方でキラキラと輝いている存在であり、そんな輝きがパッと消えてしまった時、そこにはただ暗闇が残る。
それがこの悲しみや虚しさだとしたら、ファンである私達はどうすればいい。彼の残光を浴び続けるしかないのだろうか。いやそれだって、十分すぎるほど眩しいのだけれど。

私はまだずっと、彼を追いかけていたかった。

でも彼はもういない。そして彼もまた、沢山のいずれ消えていく輝きの一つだったんだろう。今年一年でも世界はとても多くの輝きを、アーティストを失った。
 
 

とある本で読んだ、病気で亡くなったアーティストの言葉にこんなものがある。

“真のアーティストは死が怖くない。自分が死んだ後も、作品の中に魂が残り続けるからだ”

私がアーティストという存在に強い憧れを持つ所以とも言える言葉だ。

これから先何十年経ってもLinkin Parkの音楽が聴かれ続けることは間違いない。それから更にずっと年月が過ぎて、彼の名前も知らない誰かが彼らの音楽と出逢い、それらに魅了された時、作品の中の彼の魂がまたキラッと輝くんじゃないかと思う。

最後に。
チェスター、私に素敵な音楽をくれてありがとう。
 

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