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2017年4月24日

キクチ タイスケ (19歳)
7
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

あの娘とテレビの嘘

とある高校のとある文化祭にて

中森明菜を見ると脳裏に浮かぶ一人の女性がいる。
僕はその女性の名前も年齢も、知らない。
 

その日、学校は学園祭だった。
友達の居ない僕は独りで教室のいつもの窓際の席に座っていた。
もう一人、同じように友達の居ないA君も教室に居た。
別段、僕はA君と仲が良いわけでは無かったので、お互い本を読んだり、
携帯をいじったり、それぞれやりたいことをやっていた。
高3で既に達観していた僕は「皆んな楽しそうだなぁ」と特に僻みや妬みなども
無く、ただただ単純にそう思いながら窓の下に見えるいちゃつく男女のグループを
頬杖つきながら眺めていた。

吹奏楽部の音色を子守唄にポカポカした陽気な日光を浴びながら机に突っ伏し、
寝たり起きたり寝たり寝たり寝たりを繰り返していたらあっという間に学園祭は
あと1時間というところになっていた。

Aくんに後ろから肩を叩かれた。

「体育館にでも行かない?」

このまま教室で終わるのもなぁ、と思っていた僕は 「うん」と 返事をして二人で
体育館へと向かった。

そこでは、カラオケ大会が行われていた。
僕たちが行った時間は丁度、野球部が当時とても流行していた
EXILE「R.Y.U.S.E.I」の「ランニングマン」というダンスを部員40人ほどで特に
揃っているわけでもなくヘラヘラステージで踊っていた。
「これは見てらんねぇな」と思いながらも僕は口角を無理やり上げ、その場に
合わせて手拍子していた。

その後も、カラオケ大会は続いたが正直退屈になってきてまた眠たくなっていた。
隣を見ると、A君は寝ていた。

目をつぶって下を向き端から見れば完全に寝ていると思われる体勢で僕はその場を
持て余していた。
すると、今まで流れてきた最近のヒット曲とは異彩を放つ曲が流れてきた。

♪Get Up Get Up Get Up Get Up burning love〜

顔を上げた。

惚れた。

一目惚れした。

いや、厳密にいえば男が男に「惚れた」と言う方の「惚れた」。

そこには制服姿でマイク片手に中森明菜の「DESIRE –情熱– 」を歌っている
女子高生が居た。
しかも、振り付きで。あの、<恋も dance、dance dance danceほど>の
片手でリズムを刻みながら体を低くしていくところとかをやっている。

かっこいい、と思った。

何十人で踊っている野球部でさえ終始照れ隠しな雰囲気だった中で、彼女はたった
一人でステージに立ち「自分が世界の中心よ」とでもいうような佇まいで歌い、
踊っている。

♪Get Up Get Up Get Up Get Up burning heart〜

観客の男子生徒たちから「ヒューー!!」と
歓声が沸き起こる。

(映画「リンダ リンダ リンダ」で見たヤツだ)。

と思いながら僕は後ろの方でただただその光景を眺めていた。
A君は寝ていた。

あんなに男子生徒を沸かしているのだから校内では割と有名な人なのかもしれない。
でも、そういうネットワークの無い僕の耳には何も入って来ていなかった。
 

結局、彼女が同級生なのかどうかも分からないまま
僕は卒業し地元を離れた。
彼女の「今」を僕は知らない
 

自信が溢れている人を見ると、嬉しくなって憧れる。
「かっこいい」と思うし、「可愛い」と思う。
 

アーティストの星野源さんが「SUN」をテレビで歌っているのを見たとき、
学園祭の彼女と並べるのは失礼かもしれないけど、同じように
「世界は自分中心に回っているんだ」という自信が溢れているように見えた。

カメラに顔を近づけ、手を振り、ダンサーを従えて自らも踊る姿は
最高にかっこよかった。

星野源さん自身、高校時代にパニック障害で不登校になったりと、心の底から
明るくて楽しい陽気な人ではないかもしれない。だからこそ、テレビの前で
「一エンターテイナー」として世界を自分のものにし、テレビの前の人間を
楽しませる姿は痛烈にかっこいい。

モデルで歌手のchayさんが音楽番組で「あなたに恋をしてみました」を歌っている
のをたまたま見た時もカメラ目線でウインクをしたり投げキッスをしたりとテレビを独り占めしていた。めちゃくちゃ可愛かった。

水曜日のカンパネラのコムアイさんもテレビで歌を披露する際、毎回 あっ と
視聴者を驚かせる演出で魅了させられる。

それでも、彼女らにはどこか「闇」のような部分が垣間見える。
ステージに一人で立つ孤独感は半端ないはずだ。

自分はそれを「テレビ」でやっている人が好きだ。お茶の間に向けて勝負している
人に惚れる。

日本の美術家で映像ユニット「南関東逆境会Neo」のメンバーでもある
ニイルセンさんがインタビューで語っていた
「『“かっこいい”』『“可愛い”』『“元気がいい”』は物事の三大正義」とは
まさにその通りだと思う。

しかし、周りにはその正義を良しとしない人が多いように感じる。
人の目に晒されるテレビでかっこよさや可愛さを振りまくとネットやSNSで
「調子に乗ってる」だ「腹立つ」などと中傷される。

寂しいと思う。

テレビは「嘘」だ。音楽に限らず、バラエティーもドラマも。
画面を通した向こう側を真面目に見すぎている人が多い。
 

あのとき、「DESIRE」を歌っていた彼女に幸せになってほしい。大きなお世話
だけど、そう思う。
たった19年生きた僕の稚拙な想像力の範囲だけれど、ああいうタイプの人は人間
関係が決して恵まれているとは思えない。
何百人も集まっている体育館のステージに一人で立ち、「DESIRE」を本意気で、
しかも振り付きで踊るような人はよく思われない敵も多いと考える。

自分ほど自信が無い人間も悩みものだが、
あそこまで自信にみなぎる人も、また難しいと思う。
いや、たったあの数十分のステージを見ただけで、僕はその彼女と話すらしたこと
ないから分からないけど。

でも、とにかく僕は彼女に、自分には持っていない全てを持っているように感じて
堪らなく感動して心が震えた。
この先、彼女が周りに惑わされて自信を失うようなことがあったら、それはとても
悲しい。
あの姿のまま貫いて幸せになってほしい。
そうじゃなきゃ、どうにもならない。

自分自身、自信が全くと言っていいほど無い人間だからかもしれないが、
自信に溢れた行動やパフォーマンスを見ると、勇気が出る。
そして、それを素直に受け止められる心をずっと持って生きていきたいと思う。
 

中森明菜を見ると脳裏に浮かぶ。
彼女の今に想いを馳せる。

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