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2017年4月24日

小幡 千里 (19歳)

私にとっての『You』

雨のパレード『You』を聴いて

 一年前、大学に入学したての頃、私は「友達なんていらない」と思っていた。
今まで生きてきた中で、たくさんの人を裏切ってきたし、裏切られた。自分の性格の悪さにもうんざりしているし、人のいろいろな面を見てきた。人間関係の中で、ひっそりと芽生えていくいざこざも、ふとした時に生まれる充実感も、どちらも面倒で、大学に入ったら全部捨てよう、と密かに決めていた。もううんざり、誰ともかかわりたくない、一人にしてほしい、ほっといて、と常に思っていた。
私の心の荒み方とは裏腹に、桜が大きくきれいに咲いていて、春らしい春だったのを覚えている。

 授業が同じ子や、サークルのみんなは優しくて、いろんな子がたくさん話しかけてくれた。でも、この子たちは性格の悪い私を知らない。いっそ見抜いて嫌ってくれれば楽なのに、と苦々しく思って、態度にも出したことがある。でも、なぜか私と一緒に遊んでくれたり、ご飯を食べたりしてくれる同じ学部の子ができた。サークルも和やかな雰囲気で、私を温かく迎えてくれた。
 その状況の中でも、私は心を開かなかった。誰も信じない。自分の身一つあれば十分で、なんとかなる。毎日、そう心の中で呟いていた。スマートフォンの検索ボックスに、「人 信じない 楽」、「友達 いらない」などの言葉を、毎日並べていた。

 大好きな雨のパレードが初めて出るし、フェスに興味あるから。と思い切って買った「COUNTDOWN JAPAN 16/17」のチケットを持って、私は年末、ひとりで電車に乗った。フェスは初めてだったし、ひとりなので、さすがに不安だった。事前に、Twitterで音楽用のアカウントを作って、一緒に行く友達を募るのも一つの手だったと思う。でも、音楽の趣味が合うという共通点を持った人でも、本当の自分を出せるのか、話を合わせられるのかが不安で、諦めた。
 私は、人の流れに乗って、イヤホンで音楽を聴きながら幕張メッセに向かった。イヤホンで音楽を聴きながら行動していると、「ひとり」が周りにも自分にも許される気がする。頭の中が、好きな音楽で満たされるのはとても幸せだと思う。周りの声も聞こえない。
 雨のパレードの出番が来る。メンバーが出てきて、マイクや機材のチェックが始まる。雨のパレードを見に来た人が集まるフロアに、期待と笑顔がこぼれる。ステージを見ようと、私が背伸びをしてきょろきょろしていると、隣にいた女の人が、「そこから見える?場所変わりましょうか?」と声をかけてくれた。私があたふたしていると、女の人は気にせずに笑顔で「いいよ~変わろ!」と場所を譲ってくれた。お礼を言いながら、私だったらできないな、と思ったし、何か、私と強烈な差を感じたのも事実だった。
この日、雨のパレードは、『You』を含む計4曲を演奏した。MOON STAGEに、彼らの緻密で、熱を秘めたサウンドが満ちていくのを、体で感じていた。

《人は誰しもひとりでは/生きていけないと知ったんだ》

 CDを買ったときにも『You』のこの歌詞が引っ掛かっていた。ひとりでも大丈夫だろう、ずっと思っていた。でも、もしかしたら違うのかもしれない。場所を譲ってくれた女の人は、私の隣でまっすぐにステージを見つめていた。

 サークルの友達数人と泊まった時、ある子が私のことを「必要」と言ってくれた。今後生きていて、誰かから私は必要とされることはないだろうし、私が誰かを必要とすることもないだろうとも思っていた。私は生きている間に、あとどれくらいの人に会うんだろう、とふと思った。
 寝るときには、音楽の趣味が合う子が、アラームを雨のパレードの『You』に設定した。前に私が貸したものだった。

《抱えてた闇に襲われて/まるで自分じゃないみたいに/あなたのことを傷つけたことも/いまでもまだ覚えている》
 枕もとで、アラームが鳴り響いた。まどろみの中で聞いた『You』は、なぜだか今までと全然違う曲に聞こえた。はっと目が覚めて、こんなにきれいな歌だっけ、と驚いて、胸がどきどきしていた。周りには、まだ寝ている子、もう起きて髪をとかしている子、散らばった布団。
 私はどきどきしていた。

《あなたが傍にいてくれたのに/ひとりと思っていた》
 春休み中、同じ学部の友達と、2泊3日で旅行をした。物理的な距離ももちろん、すごいところまで来た、と思った。入学したての私が想像しなかった、「誰かの横」という場所に、今の私は立っている。いつもと変わらない話をしながら、みんなでおいしいものを食べて、素敵な景色を見た。同じ学部のこの子たちは、この一年間ずっと一緒にいてくれた。どうしてなんだろう、と思っている。けど、多分、それは。

《あの頃の僕は/霧の中の様な場所にいて/遠くの方が見れなくなったから/近くにあるものだけを/必死で守っていたんだ》
《先のことを考えるとなぜか/ものすごく怖くなってきて/何もしたくなくなっていた》
 私は、強がって、「友達なんていらない」と思っていただけなのだ。そして、友達ができたところで、嫌われて傷つきたくない、という自分勝手な理由で、周りを振り回していた。私の周りにいる人は、私のことを「友達」として、仲良くしてくれている。私は、周りにいてくれる子たちを、どう思ってきたか?私は、周りの人に優しくできていたか?大切にしたり、気持ちを考えたりしたか?
 入学したての頃に、話しかけてくれた子たちに、冷たい態度をとったこと。友達やサークルを信じなかったこと。フェスの女の人の横顔。泊まったサークル仲間の家。旅行で並んで歩いた同じ学部の友達。一年間の様々なシーンが、頭の中をぐるぐる回る。
 私は何をしているんだろうと思った。

 今年の桜は、入学したときよりも咲くのが遅くて、散るのが早かった。春が一瞬で通り過ぎたようだった。
 私は、『You』に溢れる優しさをみんなに向けたいし、みんなの支えになることを決めた。そして、誰かが挫けたときに「必要」と言うことも決めた。
 今、私には、大切な、大切にしなければならない友達がたくさんいる。そして、まだ見えない大切な出会いもたくさんあるはずだ。

《あなたが僕にしてくれたように/寄り添うことは出来るだろうか》

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