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サヨナラ、ロックンローラー

THE BOYS&GIRLSは、何を歌ったのか

2番目に登場したのが、THE BOYS&GIRLSだった。
 
 

「九州のバンドなんだってな!」とフロアの向こうを指差しながらワタナベシンゴが叫んだ。

2018年6月22日、ircleのミニアルバムリリースツアー「心の真ん中に何がある」が福岡で行われた。一組目のBAN’S ENCOUNTERは長崎の、主催のircleは大分のバンドだった。

ワタナベシンゴは拳を高く挙げて、胸を反らしながら、「北海道札幌“代表”、THE BOYS&GIRLS!」と言った。

ircleというバンドが回ってきたツアーの終盤、北から来た彼らは、福岡で何を歌うのだろうか。“代表”を名乗った彼らは、これから何を見せようとしているのか。胸が高鳴った。
 
 

《ボロボロと涙が止まらなくてもカーテンを開けてみたい/そう思えたのはあなたがやってるロックバンドが優しかったから》“階段に座って”

こう歌いながらワタナベシンゴは、ステージ上手で、中指を立てた。そして、大きな口を開けて笑いながら、親指を下げる。フロアにいる観客に向けてではなく、そのポーズはきっと、フロアの後ろで彼らのライブを観ていたであろう、“九州のバンド”に向けられていた。

既にライブを終えたBAN’S ENCOUNTERと、これからライブをするircleへの、リスペクトを込めた宣戦布告は、少年漫画のワンシーンのようでわくわくした。
 
 

「このツアーのタイトル知ってる?『心の真ん中に何がある』…俺は震えたね」

「何がある?心の真ん中に、何がある? 」

ワタナベシンゴは、フロアに何度も問いかけた。
 
 

「一話完結のライブ」と彼らはよく表現する。

この日の福岡でのライブは、ツアー日程の内の1つに過ぎず、次の日には、同じメンバーが大分でライブをすると決まっていたし、発表もされていた。
ircleにとっては、その日が対バンツアーの最終日で、しかもそれが開催されるのはircleの地元、大分県だ。きっと、その日の方が特別だったんじゃないかと思う。

だけど、ワタナベシンゴはこのライブを1つのものとして完結させようとした。
 
 

「心の真ん中に、何がある?」

ライブの終盤、彼はポツリ、ポツリと
「俺の心の真ん中には、友達がいる」
「そのことに、気付けてよかった」と漏らした。

この時に私は、THE BOYS&GIRLSを観ることを選んでよかったと思った。

ステージで歌いながら、ワタナベシンゴは“心の真ん中に何があるのか”を探していた。45分のライブの中で、このツアーのタイトルの答えを出した。

それは、予め用意されたものではなかったように感じる。きっと、セットリストを決めたときにも浮かんでいなかった答えなのだと思っている。

ポツリと漏らした“友達”というのが、誰を指すのか分からない。それはもしかしたら翌日の大分で語られたのかもしれないけれど、福岡だけに居た私には分からない。

ロックンロールだとか音楽だとか、そういった類いの答えを出さなかったのが、彼らしいとも思えた。この45分間だけに向き合って導いた答えを聞けたことが、とても嬉しかった。
 
 
 

「なんか、俺にだけ、なんか、降ってる?」
ワタナベシンゴは、自分の髪から飛んでくる汗を見て笑った。

「すーごいね、アナタ!自分の汗!」
カネコトモヤが答える。

「もう、汗もすごいし、頭も薄くなってきたし、30歳になるし……」
汗はキラキラと光に反射していた。命を燃やすように、息を切らしながら、ワタナベシンゴが話す。
 
 

「夕焼けは、自分自身を燃やして、辺りを照らす。俺には出来ないな。あんな良い声も良いメロディーも。九州には、あいつらがいるんだろ。もし、あんたが立ち止まることがあるなら、あいつらが歌ってくれるんだろ?」

「もし、俺たちのことを好きでいてくれる人がいるのなら、今日、好きになってくれた人がいるのなら」

「その時は、また歌おう。心の真ん中に何がある、教えてくれ。話をしよう。」

「……いや、話なんかしなくていい。そこで、じーっと見ててくれ。」
 
 
 

THE BOYS&GIRLSは、この日、ライブハウスにいる一人一人の“今”を証明するように歌った。ステージに立つ人も、ステージに立たない人も、どちらも肯定するように、同じように一緒に居たことを歌った。

《君との「今」が確かにあった過去を僕は離しはしないから》“ただの一日”

《状況は変わってくけれど、ここにいるよ/「ここにいるよ」》“一炊の夢”

《いつだって思い出してくれ/君なら確かにここにいた》“卒業証書”

《ここで歌ってた/君と歌ってた/それがすべてだったな》“ライク・ア・ローリング・ソング”
 
 
 

THE BOYS&GIRLSは、ライブを観に来た人たちに何も求めない。拳をあげろ、とも、声を出せ、とも言わない。

《今日という日に僕は僕の歌を空に解き放つよ/そして優しく響いておくれ》“ただの一日”

《さよなら、今日より笑っててね》“卒業証書”

《握りしめたまま思い出す日々には/優しく笑えたら それだけでいいから》“ノンフィクションの約束”
 
 

何も求めない代わりに、この日が終わってもどうか笑っていられますように、と歌ってくれる。全てを肯定してくれているみたいに笑いかける。それだけで、背筋がピンと伸びる気がする。この日があるから大丈夫だと思えてくる。
 
 

この日歌われた「卒業証書」という曲の中に、《そんな夜にもう負けるなよ》という歌詞がある。ここは、メンバーのコーラスも入って、力強く《負けるなよ》と歌われると思っていた。ラジオ番組で初めて聴いた時に、鳥肌がたって印象深かったから、ライブで聴いたらどうなるんだろうと楽しみにしていた。

しかし、ワタナベシンゴはこの部分で、歌うのでなく、何度も「負けるな!」と叫んだ。他のメンバーのコーラスとずれてしまったその声は、耳からなかなか離れないでいた。
 
 
 

「音楽に勝ち負けなんてないけど、男に生まれたからには、こだわってしまうんだ」

最後の曲として、「ライク・ア・ローリング・ソング」が始まった。

《俺たちの声が一番でかいから/どこまでも響いてたってさ》
ワタナベシンゴはフロアのお客さん達と拳を合わせた。「お兄さん!ほら、お姉さんも!」

その姿が、羨ましくなるぐらい格好よくて、彼らが冒頭で“代表”を名乗っていたことを思い出した。

彼らは福岡に、自分達の名前を売りに来たのではなかった。先輩のバンドに九州のバンドに、花を持たせる為に歌った訳でもなかった。

きっと彼らはこのライブを“勝ちに来ていた”。
 
 

THE BOYS&GIRLSは戦っていた。フロアに向けて、優しく笑っていてくれと歌いながら、彼ら自身は冷たく鋭く、その時を待っていた。

「負けるな!」と叫んだその声は、もしかしたら彼ら自身に向けられていたのかもしれない。自分自身を奮い立たせるその姿は、まるで夕焼けみたいに、ライブハウスにいる一人一人を照らしていくように見えた。
 
 

音楽の勝ち負けは私には分からない。だけどこの日確かに、私の心の真ん中には、THE BOYS&GIRLSの歌が響いていた。
 
 
 

次は、自分自身の力で。
ライブを観た後も変わらず、相変わらずの日常が続いている。ワタナベシンゴと合わせた拳を、ぐっと握り潰したりしながらも、なんとか続けている。だけど、この日があるからきっと、私はこの先を自分の力で進んでいけるだろう。
 
 
 
 

“サヨナラ”ロックンローラー、いつかまたどこかで

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