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COSMONAUTが教えてくれる

小さな夢にBUMP OF CHICKENの唄を

甲子園に行きたかった。
阪神タイガースの応援ではない。高校球児なら誰もが憧れる、あの”甲子園”に行きたかった。坊主の選手たちに紛れて、来る日も来る日もグラウンドに通った。私はマネージャーだった。
休みなんて皆無の毎日や度が過ぎるくらい厳しい規則の中で、先輩とは反りが合わなくて、同級生とは仲違いを繰り返して、ちゃらんぽらんな後輩に頭を抱えて。退部した部員は輝いて見えた。その辞める勇気を羨んだ。辞めた後の楽しそうな学校生活に嫉妬した。
それでも部活を続けたことに意志はほとんど無かった。
自分がやりたいと言ってやったこと。親に高いお金を払ってもらって私立高校の野球部に入部したこと。厳しい試練に耐えてやっと部員として認めてもらえたこと。いくら反りが合わなかったとはいえ、色々なことを教えてくれた先輩に大口を叩いたこと。毎日の練習の中で選手たちとの距離が近くなったこと。それに伴ってどんどん大事になっていったこと。甲子園への思いが、減ったり増えたりしながら少しずつ重くなっていったこと。その積み重ねが、私を野球部に留まらせた。この野球部と”甲子園”という小さな夢が、私の高校生活の全てだった。野球部を辞めることは高校生活が終わること。そしてついにこの野球部のマネージャーを辞められなくなった。

高校3年生の夏、この小さな夢は二度破れた。

一度目は、県予選で負けたとき。
人目も気にせずあんなに泣いたのは、物心ついてから初めてだと思う。思い出してもやっぱり少し胸が痛い。
二度目は、私たちが負けた高校が甲子園で負けたとき。
漫画やドラマでよく言うけれど、負けたチームが勝ったチームに夢を預けるのは本当みたいだ。私は知らないうちに勝手にこの夢をその高校に託していた。青森の祖父母の家に帰省していた帰り道、車の中でその時の甲子園の中継を音声だけで聞いていた。その高校が負けた瞬間、鼻の奥がツンとして、視界がほんの少しだけぼやけたから、耳にイヤホンを入れてバンプの曲を流した。
あの時聴いていた曲は何だっただろうか。ボーカルの藤原さんの声が優しくて、今この瞬間、あんなに敵わなかった高校の選手たちが遠い関西の球場で泣いていると思うと、なんだか不思議な気持ちになった。

現役時代、私は大好きなバンプの音楽を支えにしていた。
特に彼らが10代から20代前半くらいの若い頃に作った尖った曲は、脆くて弱い心の奥にナイフを隠し持ったり、死に際のボロボロの手に鋭い槍を握ったり、もう擦り切れそうな身体でまだ頑張れると嘘を吐いたり、それを、本当にしたり。退部していく部員を横目に野球部に留まる弱い自分を大いに奮い立たせた。
突かれたくない柔らかい部分を他人からも自分からも隠して、半ば盲目的に追いかけた小さな夢。

この夢が二度も破れたあの夏から、2年が経った。

野球部を引退してから、受験を乗り越えて、高校を卒業して、大学に入学して、もう今は普通の女子大生だ。
始発で練習には行かないけど、コーチや監督の愚痴を言いながらそれでも明日も頑張ることを約束する帰り道もない。すぐに意地悪なことを言う坊主頭の選手はいないけど、そんなところも含めてまるで子どもみたいに大事に思える人もいない。精神をすり減らしながら毎日を過ごすことはないけど、そうまでして叶えたい夢もない。
でも私は今の生活のほうが幸せだ。休日は好きな時間に寝て好きな時間に起きて、平日もたまに学校をサボったりなんかして、アルバイトで遊ぶお金を稼いで、こんなに楽しい。あの頃は休みもお金も無くて行けなかったバンプのライブにも、大学生になってから3回も行った。それでもそこで思い出すのは、苦しくて泥まみれの高校時代だった。

彼らのライブに行った時から、よく野球部だった頃のことを思い出していた。
若い頃の尖った曲とはうって変わって、最近のバンプの曲は繊細で芯の通った強さを持つ。彼らが人間であるが故に逃れられない変化の中で、彼らが生み出す曲が変わっていくのもきっと普通のことだ。目の前の扉に鍵が無いことに気づいたり、失った大切なものを大切なまま宝石にできたり、どうしても言葉にならない思いを開き直ってそのままメロディーにしたり。ノートは真っ白だけど、心の中はメロディーとそこから伝わる思いで一杯だ。
 

「COSMONAUT」は彼らが30歳になってから初めて出したアルバムで、私が小学6年生のときにバンプの中で最初に聴いた大切なアルバム。
そのメロディーに乗った宇宙飛行士は、8年の時を経て私のもとへやって来た。

中学生の時も高校生の時も、特に変わりなく普通に聴いたアルバムだった。でも、高校生活の全てを懸けた夢を無くした後に聴くCOSMONAUTは、簡単に凝り固まった心を解してくれた。
 

初めてこのアルバムを聴いて、少し難しい曲が多い中で当時の私が最初に好きになったのが、「分別奮闘記」だった。

“君の夢がゴミと化して はや幾星霜 捨ててこそゴミでしょうと勇ましく”(分別奮闘記)

メロディーはとても軽快で楽しくなるけど、夢がゴミになる歌い出しに、前向きな曲ではないんだろうと思った。なんだか少しねちっこくて明るいのに暗い曲だな。そんなことを思ったけど、耳に残るメロディーがやっぱり好きだったからその頃からよく聴いていた。

“燃えるのか これ燃えるのか 燃えなさそうでも 燃えるのか”
“燃えますよ 灰に出来ますよ あなたがそうしたくないだけなのでは”(分別奮闘記)

中学生になると、このゴミになった夢の持ち主はその夢をまだ捨てたくないんだと気付いた。もう諦めてゴミにしようとした夢をまた追い求めるために立ち上がる再生の唄。そう思った。

“入るのか これ入るのか 小さな袋に 入るのか”
“入るでしょ それ3,000個ぐらい 大きくあって欲しいだけなのでは”(分別奮闘記)

高校生になると、中学生のときに思っていたこの曲の主人公が自分になった。野球部を辞めたくても辞められない。ゴミにすればいい夢をゴミにできない。だからこの曲の主人公と同じように夢を追い続けた。

“捨てないのなら 違いますよ 持ち主がいるのなら夢ですよ あの日からずっとずっと夢のままですよ”(分別奮闘記)

大学生になって、ライブでこの曲を聴いた。楽しくて、輝いてて、それからもこの曲をよく聴いた。そしてふと、今の自分とこの曲の主人公がまた重なった。
2年前のあの夏から、私はこの破れた夢の置き場をきっと探していた。ゴミにして忘れようと思ったけど、どうにもこうにも捨てられない。忘れられない。自分達が負けた高校に厚かましく夢を託すくらいには執念深かった。その高校が甲子園で破れたことを受け入れられなくてバンプに逃げるほど諦めが悪かった。この燃やしたくない夢に、小さいけど大きかった夢に、それでも破れてしまった夢に、バンプの音楽は居場所をくれた。叶えたかったけど叶えられない夢を、夢のままでいいと教えてくれた。
あの夏負けたときより静かに少しだけ泣いて、あの夏よりも何倍も心がスッキリした気がした。

COSMONAUTはそんな曲ばかりだった。

2年間夢の置き場に困っていた私に、時間と空間を飛び越えて優しい音を届けてくれた。

「透明飛行船」や「beautiful glider」は、今も昔も、変わらずいつも精一杯悩んで怖がりながら進んで来たでしょう、と。
「R.I.P.」や「宇宙飛行士への手紙」は、大切なものと出会う前の時間やそれを失うかもしれない未来への怖さを知るけど、でも、だからこそちゃんと今を見つめようとする。
「魔法の料理 ~君から君へ~」や「angel fall」では、それでも失ってしまった大切なものを大切なままちゃんと胸にしまう強さを教えてくれる主人公がいる。
 

破れてしまったけど大切な夢がある私には、どの曲も優しい熱を持っているように感じた。
「モーターサイクル」や「イノセント」で淡々の歌われる日常、その日常での悲しみも苦しさもいつかは消えると歌う「HAPPY」。
選手が初めてホームランを打ったときの喜びや、試合に勝った時の嬉しさ、みんなと繰り広げた他愛もないお喋りの楽しさと一緒に、この破れた夢に対する思いも消えてしまうのだろうか。
今は一生残ってると思う傷も、いつかは無くなってしまうのだろうか。
そんなふうに思わせるCOSMONAUTは、弱さも醜さも傷痕も、全部包み込んでくれるようだった。
 
 

私は今年で二十歳になる。
この区切りの年に、少しだけ小さな夢への踏ん切りがついた。
バンドが大人になって生み出される曲が変わっていくように、聴き手の現状や気持ちが変わればその曲の受け取り方も変わる。
COSMONAUTを初めて聴いてから8年。小学校、中学校、高校、そして大学と、一つの曲がぐるぐると姿を変えてきた。アルバムの聴き方も、受け取るメッセージも変わってきた。
また、大学を卒業したり、就職したり、結婚したり子どもなんかもできたりしたら、また曲の姿が変わったりするのだろう。
その時の現状や悩みで一杯になって、この小さな夢を忘れたりするのだろう。
そうしたら、COSMONAUTと同じように彼らの音楽が飛んできて、優しいメッセージをきっとくれる。
 

私の夢は、甲子園に行くことだった。そして優勝することだった。
もうそれは叶わないけれど、自分で生んだ夢から逃げるのはもう辞めよう。
いつか無くなる時まで持っておこう。
今しか味わえないかもしれないこの気持ちをちゃんと味わっておこう。
それは全部、COSMONAUTが教えてくれたことだった。
 
 

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