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しわくちゃのファンレター

2018年7月22日に活動10周年を迎えるそらるさんに捧ぐ

 
そらるさんのことを記述[describe]するのは難しい。しかし活動の大きな節目を迎えるということで、意を決してファンレターをここに綴る。
 

そらるさんは、ニコニコ動画に歌ってみた動画を投稿する歌い手である。現在は動画投稿にとどまらず、CDリリースにライブに、幅広く活動を展開しているが、事務所などには所属をしていない。
 

わたしは、もともと昔からニコニコ動画に慣れ親しんできたわけではない。10年くらい前といえば、大学生で、友人に勧められてボーカロイドの曲をちょっと聞いていた程度であった。

それから時が流れ、年々メディアでボーカロイドやニコニコ動画出身のアーティストが話題に上がるようになると、その新しい音楽にわたしの関心が傾いていく。

ただ外部からニコニコ動画の音楽の実態はいまいち掴みづらかったことから、とりあえずTSUTAYAに行き、ネット音楽のコーナーに足を運び、ディスプレイしてあるCDを適当に借りて、少しずつ聞くようになった。

人間が歌う用に作られていないボーカロイドの音楽はやたらと速い、やたらと高いなど、今までの大衆音楽の常識を超える画期的な要素があり、新鮮に感じた。

そのボーカロイドの曲にも果敢に挑戦する“歌ってみた”の文化。96猫さんがわたしの歌い手の入り口で、コラボをしていたvip店長の歌もよく聴いていた。

そんな流れで、なんとなく、いろんな歌い手の音楽を聞くようになり、なんとなく、そらるさんとまふまふさんのユニットであるAfter the RainのCDアルバムを買った。2016年4月のことである。

当時、わたしの歌い手のイメージは、声を加工していて、だから音源はきれいに完成されているのであって、実際の歌唱力はプロの歌手と比べると物足りないんじゃないかと思い込んでいた。
ようはネットの一部の偏見じみた風潮にわかりやすく流されていた。

ところがアルバム特典に収録されていたライブ音源を聞いて、衝撃が走った。
動画の音源に劣るどころか、バイタリティ溢れ、少々荒々しさすらあるそらるさんの歌の勢いに完全に魅せられたわたしは、これはぜひとも生で聴かなければならないと、ライブのチケットを取った。
 

2016年7月16日 After the Rain両国国技館公演初日。

歌い手のリスナーは中高生が多い。
きっとキャピキャピの雰囲気で、当時26歳だったわたしは場違いに浮くのだろうなと覚悟して向かったが、実際に到着するとやたら騒がしいということもなく、ほとんどの子がおとなしく入場待機列に並んでいるのが印象的であった。
やはり中高生が大半だったが、成人済みの大人のお客さんもけっこういたのはほっとした。

一般発売という、ギリギリ最後のチャンスで手に入れたチケットの座席は、会場の一番後ろ。
ステージからも遠く、もちろん肉眼では演者が見えなかったし、三つある画面のうち、最も頼りにしたい中央のメインスクリーンが見えない位置であったため、視覚的にあまり楽しめないなと少し残念に思っていた。

だが、登場シーン。

After the Rainの二人はネットやメディアなどにほぼ顔出しをしないので、この日初めて顔を見る。

バーンと、舞台の左右の扉からそれぞれ出てきたとき、わたしはその目に焼き付けた。
左側の縦長のスクリーンに映しだされた、そらるさんの笑顔を。

そのあとのライブ本編は、MCも楽しく、歌も素晴らしく、見えづらくも満足であった。数日経っても余韻が続き、何より、登場したときだけ唯一はっきりスクリーンで確認できた、あのそらるさんの笑顔が頭から離れない。

おそらく登場する前は緊張していたにちがいないけど、会場いっぱいのお客さんを前に、はにかむような微笑みを見せ、その表情に人となりが全て表れているかのように思えた。
そのほんの一瞬で、あ、この人なんか素敵だなあと思った。自分は人生で一目惚れなんてしたことなど無いが、あれは一目惚れだったかもしれない。

ただ、今思い返せば、一瞬と言いつつ、それ以前に自分はCDで歌声に魅了されていたこと、そして素晴らしいライブの内容も相まって、のちのち、貴重な視覚情報としての笑顔が輝きを増した記憶として思い浮かぶようになったのだろう。
 

それから、そらるさんはわたしにとって歌い手の中の“推し”となった。

両国国技館でライブをするような人なのだから、ドンと構えているのかと思いきや、その直後に始まった自身のソロツアーになると、Zepp DiverCityのステージで、「お客さんがこの辺(スタンディングエリア前方の中央あたりをぐるぐる指差す)にしかいなくてもやんなきゃいけないんでしょ?」などと言いながら、平日開催に伴い集客の不安があったことを吐露していた。
お客さんで埋め尽くされた会場にいた自分は、まさかまさか、面白い冗談を言う人だな、くらいに受け流していた。
 

しかしその後、活動を追っていくうちに、それは冗談ではなく、ほんとうにそらるさんはそういう驕らない性格なのだということを、わたしは徐々に理解するようになる。

いたって控えめで、たくさんの人に注目されるのはどちらかといえば苦手。音楽と同じくらいゲームが好き。たまに少年のごとき好奇心を見せるような、飾らない性格の人だった。

それでも、もともと趣味で動画投稿をしていた人とは思えない、その華々しい実績には目を見張る。

After the Rainとして、2016年は両国国技館2days公演、2017年は武道館2days公演を成功させ、さらに今年はさいたまスーパーアリーナ2days公演(既にチケット完売)を控えるなど、年々規模が拡大し続けている。
ORICONでは2016年の1stアルバム、2017年のシングルともにウィークリー二位を獲得するなど、快進撃が止まらない。

それまでも持続して着実に人気を集め続けてきたが、AtRの活動は短期間のうちに知名度を急上昇させるきっかけともなった。
ユニット本格始動以前は、ニコニコ動画で動画を投稿するほかに、同人サークルでCDを作っていた期間も長い。活動の幅を広げた現在でも、歌ってみた動画を継続して投稿しているし、毎年同人アルバムも制作し、それを引っ提げたツアーをおこなっている。

ユニットとソロの活動を並行しつつ、新しく挑戦していく部分と、昔から継承してきている部分を交差させながら、地に足をつけた活動を続けている。
 

そんな活動のひとつの集大成とも言えるのが、昨年の横浜アリーナでのライブだった。

2017年11月のソロツアー「夢見るセカイの歩き方」では、広島、名古屋、仙台、大阪を回ったあと、そのファイナルである11月25日、横浜アリーナに約17,000人を動員した。
たった一人で横浜アリーナを埋めたということで、歌い手出身のアーティストとしては、まさに前人未踏の金字塔を打ち立てた。

今までのソロライブの最大規模はZeppレベル。ひょんなことから、いきなりこれだけのキャパシティでソロライブをやることとなったそらるさんは、横アリの情報を解禁した夜、例のごとく集客の不安から、ふて寝をしてしまうほど落ち着かなかったらしい。
だが、それは全くの杞憂にすぎなかった。

長年の活動を通してついてきた大勢のリスナーが、全国津々浦々からそらるさんのライブを見るため横浜アリーナに集結した。

この大きな舞台まで引っ提げてきたのは、同人のミニアルバム『夢見るたまごの育て方』である。
ライブのセットリストは、このアルバム曲以外にも、ボカロ曲や、AtRの楽曲をソロで歌うなど、同人の活動、源流たる“歌ってみた”、そしてユニットの活動といった自身の経歴が存分に活かされており、またMCではマイペースでいて、率直な言葉をリスナーに届けてくれるなど、“らしさ”溢れるライブであった。

さらに終盤の豪華なオーケストラのサプライズ登場に観客は大興奮、満員の観客の多くが楽しめたであろう素晴らしい時間となった。
 

今や、歌い手界ではトップレベルという次元でなく、アーティストとして十分にその実力が認められるといえるそらるさん。

わたしはこれまで引き寄せられるがままに追いかけていたが、最近ふとそらるさんがここまで多くの人を魅了するのは一体なぜなのだろうかと考えてみることがある。
ところが、すぐにパッと一言で表すことができない。どこかつかみどころがないというか、ぴったり言い表すキャッチフレーズのような便利な表現は思いつかない。

しかも10年間のうち、たった2年程の活動しか知らないわたしが魅力を語ることはさらに困難だと思う。それでも、拙いなりに記述しようと試みることで、いつか振り返った時に自分なりの備忘録にはなるだろう。
 
 

そらるさんは2008年に歌ってみた動画を投稿し始めた当初、他の歌い手と比べて抜きん出て歌がうまいというわけではなかった。むしろ当時の歌は下手だとすら言われてしまうかもしれない。

しかし負けず嫌いという性格も相まってか、そらるさんは並々ならぬ努力をした。
自身の歌のスキルを磨くだけでなく、録音や作業の環境を整え、積極的にミックスの経験を積んで技術面でも底上げをはかり、歌ってみた動画の完成度を総合的に高めていった。よりよい音楽を届けるために常に試行錯誤を重ねている。

そうした姿勢はそのままCD制作にも活かされ、同人アルバムでの妥協しない音源作りにつながる。メジャーレーベルでのCDもその延長線上にある。

かつては「低音イケメンボイス」などと(不本意にも)称される時期もあったらしいが、今では歌の表現の幅が広がり、かっこいいロックな曲から、ポップで愛らしい曲調、優しい響きのバラードにいたるまで多様な楽曲を歌いこなし、After the Rainでまふまふさんが書く難易度の高い曲もライブで立派に披露する。
耳心地がよい声のしなやかさも存分に駆使しながら、その音楽の表現力は飛躍的に成長を遂げ、実にいろんな表情を見せてくれる。
 

単なる努力家ということだけではない。活動の随所に、その独特の感性に基づく豊かな発想力が発揮されている。

例えば、ソロのCDアルバムとしては『そらあい』『夕溜まりのしおり』『ビー玉の中の宇宙』『夢見るたまごの育て方』があるが、それぞれにしっかりとコンセプトがある。

ほかにも、アルバムやツアー、曲のタイトルなど、馴染みやすい単語をチョイスしながらも、興味を惹くようなネーミングセンス。
たくさんの音楽に触れてきた素地のうえで、歌詞にもまた等身大のわかりやすい言葉を用いることを心がけ、自分の色を出しつつも親しみやすさがある曲作りのバランス感覚。
若いリスナー向けにチケット代が安く設定されているため、限られた予算の中でも、採算度外視かと思うほどの、こだわりのあるライブ演出のアイデア。
そらるさんの思考から生み出されるいろいろなものに、いつもわくわくさせられる。
 

ほかに、今日の基盤を築くうえで重要な要素であったであろう、その人間性についても触れたい。
そらるさんは人の得意とする能力を見抜くセンスに長けている方で、自分から人に声をかけつつ、同人CDの制作活動や動画制作、ライブなど、協力関係を通して何かを築き上げる共創的経験を豊富にもつ。
CDの入稿前は締切を落としそうだといいながら、身を削って作業に徹することもある。一緒に制作をする仲間やCDの受け手などに対する思いが、責任感という名の原動力になるのだろう。

横アリでのオーケストラは、8年ほど前に初共演したピアノ奏者の事務員Gさんの力添えで成り立った。これまでに書き下ろしを提供してもらった作曲者さんも多く、現在の活動のあらゆる面で、地道に培ってきた人脈が大きな支えとなっている。

一方で、活動初期から繋がりがある友人たちと今も交友関係にあるなど、自身を取り巻く環境は大きく変わっても、変わらない人柄で周囲の人たちに愛され続けている。
こうした多方面での人望の強さは、本人の誠意が確かに繋いできたものである。
 
 

これで十分に語りつくせたとは思わないが、そらるさんについて書き連ねているうちに、こちらに伝わる魅力には、人生を楽しもうという本人の気持ちが反映されているのではないかという仮説が浮かび上がってきた。

そういえば、そらるさんは作り笑いが不得意なように見受けられる。握手会やサイン会などの対面式イベントでは緊張している様子で、誠心誠意をこめて対応するも、営業スマイルというか、あまり愛想がない。(と言いきってしまうのも不躾ではあるが)

つまり、逆にいうと、わたしがあの日初めてのライブで見たのも、きっと本心から自然にこぼれた笑みだったにちがいない。

ああそういうことか、と合点がいった。

背伸びをしない、野望にやたらと貪欲ではない、しかし好きなものを好きだと言う姿勢を貫き、目の前の課題は正面から見据えながら、ときには大きな決断も辞さず、今ある環境で楽しむ。
なにかを素直に楽しもうとしている人と一緒にいると楽しいものだ。わたしはとても楽しい。

そらるさんは横浜アリーナの最後のMCで、17,000人の観客にこう投げ掛けた。

「これからも一緒に楽しいことしようぜ」と。
 

10年間の歩みは紆余曲折あったはずだし、ネットを基点に活動する中で巻き起こる風雪にも耐え、強固になった活動基盤に根を張って、自分の好きなことを今日まで手離さなかった。

そしてその歩みは確実に芽を開いて、多くの人を楽しませてくれる。こうして今も活動が続いていることは必然ではなく、様々な巡り合わせが紡いだ10年目の奇跡であり、その神秘をわたしは目の当たりにしているわけだ。

わたしから見ると、そらるさんは不毛な砂漠に咲く一輪の花のように輝いているし、そらるさんがつくる空間はオアシスのように心を豊かに潤してくれる。
 
 

……ここまで書いて、わたしはこの文章をくしゃくしゃに丸めた。

ちがう、ちがう。きれいにまとめたいつもりかもしれないけど、そうじゃない。
これで完結してしまってはいけないという感覚に陥る。目に見える表面だけを掬いとって、繋ぎ合わせたにすぎないような、“コレジャナイ感”。もうすでに何度も何度も書き直した。しかし推敲を重ねれば重ねるほど、これでいいのかと不安になるばかりで、いっこうに自分の納得のいく文章にならない。

でも、これ以上のことは、わたしには言えないのだ。他の人ならもっと真髄に迫るような話ができるのかもしれないが、わたしは所詮過去のほとんどを知らないし、音楽的な感受性や洞察力も乏しいと思う。できることといえば、知らない情報を一生懸命ネットで調べるくらい。

ただ、ここに必死にひねり出した言葉こそ、今のわたしの思いから出てくる精一杯の表現である。だから、この手紙は捨てないでおこう。

丸めた便箋を広げ、しわを伸ばし、最後にこう付け足して、この長いファンレターを締めたい。
 

そらるさん、活動10周年ほんとうにおめでとうございます。これからも応援してます。

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