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『Xlll』という希望

lynch.は邦楽ロックシーンのワイルドカードに成り得る存在だ

「すげー」
それがlynch.の新作『Xlll』を聞き終えた時の感想だった。
数日前に『Xlll』の試聴動画を見終えた時もそうだった。思わず「すげー…」と感嘆をもらしていた。
実はこの文章をどんな書き出しで始めようかと発売前からいくつか考えていた。でも、実際に音を聞いたら予め用意していた言葉なんてどれも敵わなかった。

13周年を迎えたバンドの、ミニアルバムやEPも含めた13作目のアルバムで13曲入り、タイトルも『Xlll』と、とことん13という数字づくし。
こう書くと読んでくださっている方はどんなアルバムを想像するのだろう。おどろおどろしい曲が詰まったアルバムを想像するのだろうか。答えは「NO」だ。
おどろおどろしいどころか、このアルバムは今までのlynch.の中で一番「希望」が詰まっているアルバムだと思う。

暗闇から陽が昇り、新たな歴史が始まる。そんな印象を音から受けたインスト曲『INTRODUCTION』で幕を開け間髪入れず、まるで暗闇に閃光が走るように2曲目『THIRTEEN』が始まる。この曲間は見事としか言いようがない。

12曲目の『OBVIOUS』でボーカルの葉月はこう歌っている。

〈お前だけが見つけた世界は ほら
輝いている
煌めいている
美しさに、溢れている〉(OBVIOUS)

激しい曲にキャッチーなメロディーをのせるのはlynch.にとってお手のものだが、インダストリアルな要素も取り入れているこの曲は秀逸だ。
〈世界は 美しさに、溢れている〉だなんて、今までのlynch.だったら歌っていなかったと思う。
ここまで希望の光に満ち溢れた曲は初めてで感動を覚えた。
かつて『LAST NITE』で〈影を纏いて闇に溶け込む〉と歌っていたバンドは、今は闇をまとって光を歌うバンドへと成長したのだ。

葉月はライブ中「ようこそ処刑台へ!!」と煽ったり〈ようこそ地獄へ〉なんて歌詞の曲もあったりするが、考えるとどちらも招かれたくない場所だ。
だがlynch.のライブは暗くおどろおどろしい空間ではない。それとは正反対の明るく楽しい場所、まるで笑顔の多い地獄だと思う。

さらに特筆したいのがラストを飾る『A FOOL』だ。
この曲は作曲者であるギターの悠介が作詞も担当している。
悠介本人もあるラジオで一大事と言っていたが、まさに一大事。なぜなら今までのlynch.には葉月以外のメンバーが作詞した曲は存在しなかったからだ。
悠介ファンである私は、ある音楽誌で『A FOOL』が悠介が作詞作曲した曲だと知ってから、この曲が聞きたくてたまらなくなった。
そして実際に聞いてみて、リリースの数日前に公開された『Xlll』の試聴動画の数十秒間でも感じたことだが、この曲は今までのlynch.には全くない感じだと思った。
他の曲も今までのlynch.にはない感じだが、この曲は特にそういった印象が強い。
〈I hate myself〉というまるで自己否定するような悠介の歌詞は、悠介ファンの私にとって「そんなこと言わないで」という気持ちになる。
その歌詞を葉月が「そんなことないよ」と言わんばかりに優しく歌うから泣きたくなる。
〈流星のかけら この手に握り締め〉
〈瞳雫〉
〈Save me…〉
などの歌詞も印象的で、それは葉月の今までにないくらい優しい歌い方と、同じように優しい旋律を奏でる楽器隊によるところが大きい。
ああもうこの曲嫌いなところが1個もない!
好きすぎてこの曲を延々とリピートして聞いている。
音がフェードアウトしていって曲が終わるのかと思いきや、そこから代わりにピアノの音が入ってくる終わり方は意外で、黒夢の『迷える百合達~Romance of Scarlet~』というアルバムの最後に収録されている『開化の響(reprise)』というインスト曲を思い起こした。

この『Xlll』には『A FOOL』の〈流星のかけら〉の他にも、『THIRTEEN』の〈星たちは遠く〉や『SENSE OF EMPTINESS』の〈星に願った〉といったように、歌詞に「星」というワードがいくつか登場する。
これらは偶然なのかもしれないが、先日、あるテレビ番組でこんなエピソードが放送されていたのを思い出した。
それは、ある子供の「流れ星にお願いしたらお願いごとは叶いますか?」という質問だった。
その質問に対してある大人はこう答えていた。
「流れ星のスピードはおよそ0.03秒くらいなんだよ。だけど、その間にお願いごとを3回も言える人は、それだけいつもお願いごとを強く叶えたいと思っている人だから、だから、あなたのお願いごとは叶うと思うよ」
その回答は私の胸に響いた。
流れ星に願ったわけではないかもしれないが、葉月は自身のTwitterアカウントに「XlllでチャートTOP10位以内に入りたい」と書いていた。
この文章はその夢の実現の力添えにならないとは思うけど、それでも書いている。どうか、lynch.のこれだけの自信作がチャートのTOP10に入りますように。この願いが叶いますようにと。

他にもこの『Xlll』には印象的な歌詞がある。

〈誰も知らない場所まで〉〈誓い交わした あの場所へ〉(THIRTEEN)
〈夢に見ていた景色を あなたにも見せたい〉(FIVE)

この『THIRTEEN』と『FIVE』の2曲はタイトルをはじめとして歌詞の内容もリンクしているように思うし、これらの歌詞にある「場所」や「景色」とは武道館や幕張メッセなど、あるいはまたもっとキャパシティの大きい会場のことを指しているのかなと思う。
そして、歌詞にはないけど言外に、誰も知らない場所まで「一緒に行こう」とファンに向かって言ってくれている、そんな気がする。

歌詞の面で言えば、今作は聞いていて歌詞がよく耳に入ってくる。
バンドの存在証明を歌った『EXIST』、〈痛みを掲げていく すべてを忘れないように〉とバンドの覚悟を歌った『FIVE』など、歌詞の表現も胸に刺さるものが増えたと思う。
失恋を歌ったような曲も多いが、そうした曲も歌詞も音もどこか幻想的に聞こえる。
そして今までの作品と比べると激しい曲というよりも、どちらかというと歌モノが多い気がする。しかし激しさが鳴りを潜めたわけではなく、激しさのベクトルが今までとは変わっている。
10曲目のインスト曲『INTERLUDE』を挟んでからの後半は、まるで別の作品が始まるかのように雰囲気がガラリと変わる。
特に後半の『FAITH』から『OBVIOUS』『A FOOL』と続く流れがすごく好きだ。

また収録曲の多くが残響のようにフェードアウトしながら終わっていくのが’90年代っぽいと思った。
CDの曲間は配信やストリーミングでは味わえないものだと思う。もちろん配信にもストリーミングにもそれぞれの良さがあるが、できればCDでも曲間を味わってみて欲しいと願う。
そして自分たちのルーツを楽曲に取り入れることを解禁したからか、今までなら誰々っぽいと言われたら嫌がりそうなイメージがあったが、今のlynch.はそれも意に介さなそうだ。

この『Xlll』というアルバムには驚かされてばかりだ。
リード曲である5曲目の『JØKER』はリリース前にあるラジオ番組で初オンエアされたが、それを聞いた時のあの衝撃は忘れない。
女の子の声から始まるという、それまでのlynch.の曲にはなかった始まり方に意表を突かれたし、悠介の不穏な雰囲気のギターの音色で曲が終わるのにも意表を突かれた。
しかも女の子だと思っていたその声の主は実は葉月だったと知りさらに驚いた。

その『JØKER』の曲中で葉月は高らかにこう叫んでいる。

〈I AM JØKER, WE ARE FAKERS〉

何と自分はジョーカーだと、そして自分たちは偽造者だと高らかに叫んでいるのである。
過去に『F.A.K.E.』という曲も存在するが、ここまでハッキリと自分たちは“ニセモノ”だと言い切ってしまうのは、葉月が敬愛する黒夢の『FAKE STAR』へのリスペクトを感じるとともに痛快ささえ感じる。

しかしジョーカーには“ワイルドカード”という別の呼び名も存在する。

いつだったか、いくつかのヴィジュアル系バンドがこんな言葉を言っていた時期があった。

「ジャンルの壁を壊したい」

しかし私には音楽にジャンルがあるようにも、壁があるようにも感じなかった。
「ジャンルの壁」とは何だろうと2年ぐらい考えに考えて出した答えはこれだ。

「壁は自分が必要としているから作るもの、つまり壁を作っているのは自分自身」

葉月は今年3月の幕張メッセのライブにて「化粧した激しいバンドで1番を目指してます」と言った。
JAPAN6月号のインタビューでは「それをヴィジュアル系って言いたくない」と、化粧しているバンド=ヴィジュアル系とは呼ばれたくないようなことをにおわせる発言をしていた。

しかし今はどうだろう。葉月の中には今も化粧したバンド=ヴィジュアル系とは呼ばれたくない思いがあるのかもしれないが、もうlynch.は化粧してる/してない、ヴィジュアル系だ/ヴィジュアル系じゃないなど、そんな次元の話からは跳躍した存在になった。
それは『Xlll』という自信作を作り上げたことが大きいと思う。
事実、JAPANをはじめとした音楽誌のインタビューから感じたのはメンバーの『Xlll』への並々ならぬ自信だ。
lynch.は今後、ヴィジュアル系好きも邦ロック好きも老若男女そんなの関係なく魅了する邦楽ロックシーンのワイルドカードに成り得ると存在だと思う。
それだけの魅力がこの『Xlll』というアルバムと今のlynch.にはある。

私はJAPANのインタビューでメンバーから出てきたワードが「古い」だったので、今作は’90年代のヴィジュアル系っぽい感じの音になることを予想していた。
でも全然違った。
むしろ新しかった。

13年前、彼らはlynch.という足枷になるようなバンド名を自らに付けた。
しかし今彼らは足枷をつけたまま高く飛ぼうとしている。
『Xlll』という希望の光を目印にして。

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