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音の鳴るほうへ、ひかりの降るほうへ

sumikaのキャラバンの行く先

ちょうど梅雨が明けたばかりの東京、九段下。暴力的な夏の日差しの下、“sumika Live Tour 2018 Starting Caravan”と刻まれたフラッグがひらりと翻った。結成5周年を迎えたsumikaがとうとうたどり着いた武道館のステージ。彼らが万感の想いをこめて鳴らした2時間は、途方もなく美しく、圧倒的なまでの幸福感に包まれていた。

楽しげなメンバーの影アナから5分、すっと落ちた照明に1万人が息を呑み、鳴り響くSEとともにステージに駆け上がってくるメンバーの姿にまた1万人が歓声をあげる。瞬間、ステージからは光が溢れた。キャラバンというツアー名の通り、ステージの背後には大きなテントを模したセットが置かれ、さながら隊商の宿営地のようである。オレンジを基調にした照明の中、一瞬の空白の次に弾けたのは、「MAGIC」。その一音で、ひとフレーズで、魔法にかけられていく。日常は遥か彼方、sumikaが作り出す夢の国のような空間が広がった。そこから、人気曲「Lovers」、「カルチャーショッカー」、「イナヅマ」と新旧問わず彼らの魅力を最大限に味わえる楽曲が並ぶ。春の光のように軽やかで、夏の景色のように鮮やかな音色が、光の雨あられとなってステージからこぼれ、降り注ぎ、2階席の一番後ろまでくまなく満たしていく。角度のあるすり鉢状になった客席に囲まれながら、その歓声の真ん中で、sumikaは高らかに歌い、晴れやかに笑い、無邪気に走り回った。世界中探したってこんなに平和な場所はないと、本気で思ってしまえるような空間が広がっていた。
ちょうど折り返しのあたりでVo./Gt. 片岡健太が全員に着席を促したのち、「まいった」、「ほこり」といったメロウな楽曲をしっとりと奏で、ゆるりとした時間が訪れる。豊かで深い、こっくりとした片岡の歌声が武道館いっぱいに広がり、琥珀色のあたたかい光で包まれていくようだった。武道館という広い会場においても、どういうわけか彼の声は近い。耳元でそっと歌われるような柔らかさと優しさに思わず目を閉じて聴き入ってしまう。ふと気づけば、ステージ後方の照明はオレンジからネイビーへと変わり、夕暮れに宿営地を決めたキャラバンはそのまま夜を迎えていた。宴はまだまだとどまることを知らず、夜の深みに向かって音はさらにひろがっていく。鍵盤の上で小川貴之(Key./Cho.)の指が自在に踊り、流れるようなうつくしいメロディーが会場を彩れば、反対側では黒田隼之介(Gt./Cho)のエッジィで細やかな、カノンのようなギターソロが空気を飾り、ステージ後方から荒井智之(Dr./Cho)の刻む丁寧で地に足のついたリズムがメンバーの音を受け止め、力強さを添えてまた送り出していく。「マイリッチサマーブルース」、「ふっかつのじゅもん」、「ペルソナ・プロムナード」とラストスパートをかけるように音を迸らせ、オーディエンスはますます熱を帯び、声を重ねる。あれもやりたいこれもやりたい、と言わんばかりにメンバーはステージ上を行ったり来たりして跳ね回り、最後の瞬間に向けて武道館の空気はここにきてこの日何度目かの最高潮を迎えていた。そして最新曲「フィクション」がラストを飾り、本編は華々しく幕を閉じた。興奮冷めやらぬオーディエンスは休む間も惜しいと、すぐさまアンコールを要求する。速くなったり遅くなったりしながら、まだもう少し夜更かししようと、手を打ち鳴らす。

sumikaは不思議なバンドだ。4人の持つ空気はとても親密でミニマルなのだが、その空気を楽曲を聴きライヴに足を運ぶファンに対しても同じような熱量と親密さで手渡す。まるでもう何年も知った仲のように。そうしながら、4人で小さなセッションを始めて、また同様に親密で小ぶりな音を作り出したかと思えば、遠くの誰かまで届くようにそれを高く放り投げて、花火のようにぱっと弾けさせる。近いところで、自分の手で作ったものを、遠くまで同じ距離感で、自分の手で持っていく、そういう不思議な音楽を作り出す。いつだって自分の感情のそばで、琴線のそばで、正しい音量と押し付けすぎない優しさをもって鳴る音楽。近いようで遠く、遠いようで近い、不思議なバンドだ。
音作りにしても、炭酸水のように爽やかなポップスを鮮やかに鳴らすかと思えば、スパイシーに皮肉の効いたロックチューンで鋭く刺す。どちらかといえばsumikaの音楽は軽やかな聴き心地でポップス色を強く感じるが、ジャジーに音をくゆらせたり、R&Bの要素を感じさせたり、シティポップ的な無機質な音を挟んでみたりと、聴き解くほどにその音楽性の豊かさと、張り巡らされた感覚の繊細さを思い知らされる。どこかからサウンドをコピーしてくる手の多彩さではなく、一度耳にしたものを自分の中で咀嚼して消化したあとに、自身の音楽の中でその時一番しっくりくるアイテムとして的確に当てはめて幅を広げていくような、テクニカルな多彩(あるいは、多才)さを感じさせる。天才的な感覚か、秀才的な計算か、そのどちらにしても彼らのポテンシャルの高さが伺え、それを思うとこれからの彼らがどう転がっていくのか、楽しみでたまらない。

ステージに照明が戻り、sumikaが再び駆け上がってくる。この中の誰も、まだこの夜を終えたくないのだ。名残惜しむように「下弦の月」「彗星」と立て続けに演奏し、最後に彼らが選んだのは『「伝言歌」』。片岡の想い、メンバーの想い、さらにオーディエンスの想いが全て歌声になって重なっていく。色とりどりの歌声に彩られ、武道館にはさらに光が満ちていく。

《伝えたい 全部あなたに/全部伝えて この言葉よ/迷わないように》

sumikaはこの夜、今という一瞬を抱きしめながら力一杯歌い奏で、その美しい一瞬を何百倍にも引き延ばしたような、夢のような時間を作り出した。それは今の彼らだからこそ成せたことだろう。後ろ指をさされながら夢を追った月日、悔しさに泣いた夜、喜びで世界が輝いて見えた日、折れるか折れないかギリギリのところでなんとか唄いつないだ歌。歌えなかった日々、音が溢れて止まらない時間。そのかけがえのない1日1日が、一分一秒が続いていくことの貴さや美しさ、喜び、楽しさを、一番身を以て感じているのはsumikaではないだろうか。そういう確かな実感が込められた音に宿る光は、その日を過ぎてもその場にいた人のそれぞれの生活に明かりを灯し続ける。そうしてきっとこの音楽団のキャラバンは続いていくのだ。音という光を、光のような音を、いたるところで降らせ、出会う人の心を満たしながら。そして、出会った人々の帰る『住処』であり続けながら。

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