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2017年4月26日

新井ヒサコ (51歳)

スピッツのライブに行く

スピッツの世界に触れてみること

数週間前にスピッツの「渚」がNexTone Award 2017で金賞を取った。
これは著作権使用料分配実績が1番高かったという事らしい。
「渚」は20年前にリリースされた曲だ。その時もCMで使われた。今回もCMで再度使われた事がきっかけでたくさんの人に聞かれるようになったらしい。
最初に聞いた時の衝撃は今でも覚えている。胸を掻き毟られるようなギターのリフから始まる高揚した気分。甘酸っぱいメロディーを歌う声。 突き刺すような憂いを帯びたボーカルの瞳。
雄弁で豪快なドラムとベース。
あの曲から完全にスピッツに落ちてしまった。
その曲が20年後もこうやって変わらず今を鳴らし、輝き続けている事が嬉しい。
永遠に続く命みたいだ。

私はスピッツの水に関連した曲がとても好きだ。
これ以降書くことは私個人の感覚なので、スピッツファンの方々には異論があると思いますがご容赦いただきたい。そして私に見えるスピッツの景色がうまく伝えられたらいいな。

スピッツには「プール」という曲がある。
ファンクラブイベントで演奏して欲しい3曲をリクエストする時、私は必ずこの曲を入れる。
この「プール」の中でプールらしい歌詞は
“孤りを忘れた世界に 水しぶきはね上げて バタ足 大きな姿が泳ぎ出す”
これだけだ。
だけど、曲の冒頭から、この曲はプール以外の何物でもなく、終始一貫泳いでいるのだ。
ギターの音色で、ベースやドラムの刻むリズムで。
曲中の彼は、イントロの部分で、おもむろに水を掻きはじめる、おそらく平泳ぎでゆっくりと。ひと掻き、ふた掻き。水の抵抗力や温度に身体を馴染ませるように。息を止めて水面に顔をつける。顔をあげて息を確かめる。そして歌い出しと共に本格的に泳ぎだす。クロールか、背泳ぎで少しずつスピードをあげながら。楽しい、これは。彼の気分は徐々に上がっていく。そしてギターソロから、一回思い切り潜水する。そして彼は本当に魚になったように自由自在にプールの中を勢いよく泳ぎ回るのだ。水飛沫をあげながら、上下左右、イルカのように、水を得たペンギンのように。
そしてまたクロールに戻り、息を整え、次はゆっくり水の中に沈んでしばし漂う。水に自分を預けて漂う。時間を忘れて、息をするのも忘れて。
そしてまたゆっくりと泳ぎだす。
その一連の体感を、ギター、ドラム、ベース、ボーカルだけでこの曲は描いているのだと思う。
描くというよりももっと、鮮明な体感そのものを味あわせてくれる。
イルカにもペンギンにも実際にはなれないけれど、この曲を聴いている最中は、私は魚になれるのだ。

「渚」もそう。
渚について以前草野マサムネが言っていたことは確か、海と陸が混ぜ合った場所が渚で生命の誕生の大切な場所と言っていた記憶がある。
「渚」のダイナミズムはそういう事を描きたかったのかなと思う。
海岸の岩場に当たって砕ける波、激しく強く。一定のリズムを刻む、寄せては返す波の濃淡さ。波の砂をさらっていく。海風も強い。でも、そこは温かい場所だ。優しく打ち寄せる波もある。太陽の光を浴びて煌めく飛沫。海岸を歩く足跡。焦がれるような想い。
“柔らかい日々が波の音に染まる 幻よ 醒めないで
渚は二人の夢を混ぜ合わせる 揺れながら輝いて”

恋の始まりをこんなにダイナミックに、繊細に明瞭に激しく強く描かれたら、心掴まれても仕方ない。演奏はただただ渚の風景を描いているのに歌詞は恋を歌っている。その相乗効果で私は完全にノックアウトされた。

最新のアルバム中にある「みなと」も海だ。
みなとは多分、霧がかかっている。遠くでカモメが飛んでいる。野良猫が魚貰えるかもと近くに丸くなっている。大きい船が目の前をゆっくりと動いている。彼は旅立った彼女をみなとで待っている。
約束はない。彼らの将来も霧の中だ。でも二人で居た黄昏のオレンジの記憶の中に彼は今もいる。彼は彼女のために作った大事な歌を携えて、彼女の到着を待つのだ。もう一度二人で朝焼けを眺めるために。0からもう一度やり直すために。船はもう少しで到着するのだろう。
明るい兆しのような口笛がどこからともなく聞こえてくる。海は凪の状態から少しずつ動き出す。

私は、草野さんには海辺で日がな一日一年くらい遊び暮らしてほしいと思っている。川のそばでもいいし、無人島でもいいし。そして水にまつわる曲をたくさん作ってくれないかなあと思う。
一度、水だけの曲を集めて、水族館や無人島でライブやってほしいと思ったりする。
たぶんそれは無理だと思うけど。
ライブに行く時、今日もあの音の中を泳ぎに行くのだと思う。何度でも水の中を潜る。
潮風を感じたり、川沿いを走ったり、匂いを感じたり、水を触ったり、猫に触ったりする。
飽きることなく、記憶のどこかの鮮明な体感にアクセスしながら。

スピッツは今度のJAPAN JAMに出演する。場所は蘇我スポーツ公園。行ったこと無いけれど海沿いだから海風が届くかな。
「渚」やってくれるかな。
壮大に力強くリズムを刻むドラム、縦横無尽に世界を拡げるベース、明瞭に鮮やかな色付けをするギターの音色、そして、その世界を牽引するボーカルの声。登場人物の表情や仕草まで彼の声や詩はまるで連続写真をコマ送りしてるくらいの写実性を持ってその世界を表現する。ライブ会場で鳴らされるスピッツの世界はどこまでもどこまでも拡がっていくのだ。それを体感し、酔いしれるために私は電車に乗る。
水だけでなく色んな煌めきを彼等は奏でてくれることだろう。それは夕焼けの刻々と変わるグラデーションの色合いなのか、むせるような新緑の匂いなのか、溢れそうな涙の落ちる瞬間なのかわからない。そして胸に忍び寄ってくる恋い焦がれるような気持ちに、また何度でも落ちるのかもしれない。
きっと彼等なら、言葉よりも、もしかしたら映像よりも雄弁に、彼等の世界に連れてってくれるだろう。それに私達はただ身を投げればいい。
きっとまた素晴らしいライブを味わえるだろう。

ライブ、楽しみにしています!

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