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世界は、君の手の中に

Suchmosとワールドカップと私

2018年7月2日月曜日、19時50分。
信じられないくらい短い梅雨が明けて、うだるような暑さの中、
わたしは新木場STUDIO COASTに向けて、走っていた。

この日は、Suchmosの一夜限りのスペシャルライブ、
“Suchmos the Experience Supported by adidas”。
YONCEがadidasのW杯の記念映像に参加していることもあり、
奇しくも日本代表の決勝トーナメント初戦の前日となったこの日のライブめがけて、
わたしの(そしてきっと他のオーディエンスも)ボルテージは前日あたりから既に最高潮に達していた。

開演は20時だが、この日は16時にはフレックス制度を利用して会社を出て、
17時前には会場入りし、ステージへの扉が開くのをひたすら待つ予定だった。
当日限定のadidasとのコラボユニフォームも、フォトブックも、
欲しいものだらけだったし、何より少しでも近くで彼らの音楽を見たかったから。
大きなステージだと、基本的には席指定になってしまうので、
これは努力次第で間近で彼らを目撃するまたとないチャンスだ、
と意気込んでいたのだ。

しかし、終わらない。打ち合わせが、終わらない。
14時過ぎから始まった打ち合わせが、もう3時間にもなろうとしていた。
16時には退社、と社内スケジュール表にもしっかり書いていたのだが、
若手のスケジュールなど誰も気にしない。
おまけに、この打ち合わせの議題が、「社内の上の人間に案件報告するための資料について」だったことに更に苛立ちを覚えた。働き方改革とは何だったのか。
結局、そのあと17時半には打ち合わせが終わったのだが、
ありがちな「今日までにやっといて」に巻き込まれ、会社を出たのは19時だった。

新木場までの道すがら、考えた。
人生は一度きり。
あの時、自分が本当に大事だと思えない時間を、心ここにあらずの状態で過ごすのであれば、誰に何を思われようが、さっさと切り上げて最高の時に備えたほうがよっぽどよかったのではないか。
いや、でもそれができないのが社会人なのであって、責任感の欠如なのであって、そもそももはやライブ遅れても仕方ないって思えるくらい打ち込める仕事がしたいよね、っていうか自分の好きなことって、やりたいことってなんなんだろう、ぐるぐるぐるぐる。

新木場STUDIO COASTに到着したのは、開演時間20時の数分前。
ああ、やっぱり。会場は既にぱんぱん、絶望的にステージが見えない…!
わたしの身長は150cmに少し足りないくらい。何か優遇措置とかないのだろうか。
だから早く出ようと思ってたのに。やるせない思いがじわじわとこみ上げる。

程なくしてメンバーがステージに現れ、開演。やっぱり何も見えない。
YONCEの「リラーックス。ゆっくりしていってよ」の言葉で、少し落ち着きを取り戻す。

まずは「Get Lady」からスタート。
メロウなメロディで頭がクールダウンされる。
ふう。深呼吸しながら、揺れながら、終わったことはもういい、この耳と体を使って、精一杯この瞬間を味わい尽くそうと決めた。

その後、新曲を経て、WIPER、808、STAY TUNEなど、他の思考が入り込む余地がないくらいの怒涛の音の洪水。フロアは思い思いのダンスで溢れる。MINTでは、オーディエンス含めた全員でコーラスを歌い、一体感が生まれる。会場はミント色のライトに包まれ、一瞬の涼やかさが吹き抜ける。

そして、YOU’VE GOT THE WORLD。壮大なイントロから始まるこの曲は、6月20日に新しくリリースされた「THE ASHTRAY」からの一曲。このアルバムのコンセプトはずばり、「縛られることなんて”クソ喰らえ” 自由にいこうよ」、そして、個人的には収録曲の中でこの曲が一番コンセプトをメッセージ化していると思う。

ーどこへだって行けるさ
のるか おりるか 君が選べよ
woo wo woo You’ve got the world

バラードでも、いわゆる泣ける歌詞でもない。
でも、気づいたら、泣いていた。
姿は全く見えないけれど、たしかに彼らのメッセージは、わたしの胸のど真ん中に来た。
人生は選択の連続だ。
のるかおりるか、それしかないし、それを選ぶのはいつだって自分だ。
文句をいうんじゃなくて、自分の選択には責任をもたなくちゃいけないんだ。

その後、YONCEがMCでこんなことをいっていた。
「東京が偉いとは思わない。だけど、ここは色々な情報が一番早く集まってくる場所。ここ東京で、毎日タフに戦っている皆さんをリスペクトします」。
そう、みんなそれぞれの人生があって、それぞれのステージでタフに戦っている。
この会場に集まっている他の誰かの、一人一人の抱えている事情はわからない。
けれど、こうして同じ音楽に震え、自由な時間を過ごせるって本当に素敵なことだな、と思った。

その後、2018 NHKサッカーテーマであるVOLT-AGE、アンコールで新曲とONE DAY IN AVENUEを歌い上げ、ひたすらにあつい時間は終わった。

Suchmosの音楽がこんなにもたくさんの人に支持されているのは、彼らの生み出す音はもちろんだが、彼らの世界に対する向き合い方ががっちり固まっていてブレることがないからだ、と改めて感じる夜だった。
彼らが立ち上げた自主レーベル、「F.C.L.S」- FIRST CHOICE LAST STANCE。
最初のチョイス、最後のスタンス。
自分の選択を貫き通す。
自分の選択を自分の力で正解に変える。
そんなメッセージが、一音一音ににじみ出ている。

まだ、わたしには、彼らのように自分の中を一本貫くような芯はない。
毎日毎日、これでよかったんだっけ?の連続だ。
けれど、もう、なんか、もがいてるのが自分らしいのかもな、とも思う。
Suchmosの音楽に励まされながら、ゆっくり進んでいければいい。

YOU’VE GOT THE WORLD.
世界は、君の手の中に。

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