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細美武士へ続く〝虹〟

ここにある、確かなもの

“ELLEGARDEN”

『ELLEGARDEN BEST 1999-2008』初めて買ったエルレのCDだ。だから僕はリアルタイムのエルレを知らない。と同時に、活動休止を知った。何だかとても残念だった。

『ELEVEN FIRE CRACKERS TOUR 06-07~AFTER PARTY』幕張メッセ国際展示場ホール9・10・11

このDVDを観て、僕は“細美武士”が好きになった。最後の曲〝金星〟の前に語ったその言葉が今でも忘れられない。

「生まれて初めて、生まれて初めてだよ、ここの穴が埋まった気持ちがするのは。生まれて初めてだよ」

胸をグーにした手で叩きながら語る細美は、とても綺麗だった。

知らぬ間に、この心にも穴が空いていたのだろうか。その言葉に癒され、何とも言えない充実感がその隙間を埋めてくれた。

僕は人から「優しそう」とか「気が弱そう」とよく言われる。部活は「サッカー部」だったと話すと、「えー!?見えない」と一掃される。「ロックが好きだ」と言うと笑われた。人一倍熱い気持ちが“ここ”にあるのに、「なんでだよ!?人を見た目で判断するなよ」と正直、腹が立った。だから“草食系男子”という言葉が嫌いだった。他人への反抗心は、より僕をロックに走らせた。その反面、自分の殻を破れない自分にも気付いていた。大学卒業後、働き始めた職場は女性社会で、人に話すと羨ましがられるが、現実はそう甘くない。ライオンに睨まれたネズミのように、ただ周りに気を使い、次第に心も体も疲れ果てた。そこで“草食系男子”のレッテルを貼られても、それを覆すだけの行動力も勇気も、当時の僕にはなかった。勘が鋭い人はこれで察しがつくと思うが、純粋で真っ直ぐな子ども達の笑顔だけが僕を癒してくれた。

どうして僕はこんなクソッタレになっちまったんだ/ああ もう家に帰る道さえわからない/君は「もう昨日までとは違うのよ」と言う/ハートの真ん中に一つだけ足りないんだ

(〝The Autumn Song〟)

細美が歌うと胸に刺さる。さすがにグサッと音は聞こえなかったが、見えない何かが“ここ”に刺さった。

「一つだけ足りないように感じてるだけ、この胸のど真ん中には“確かなもの”が必ずある」

自分を肯定したかった、だけなのかもしれないが、僕はそう解釈した。

そして、「僕は仕事を辞めた」

不安もあったが、とにかく「やりたいようにやってみよう」と思った。心が変わると勇気が行動力となって、僕の足を動かした。憧れていた服装や髪型にも挑戦してみた。燻っていた音楽への夢や情熱も形にしたくて、アコースティックギターを買い、地元の駅前で路上ライブをするようになった。以前の自分からは、考えられない自分がそこにいたように思う。解放感が、僕を満たしてくれた。それでも、相変わらず「優しそう」とか「気が弱そう」と他人に言われたが、気にならなくなっていた。その時、レッテルを貼って自分を苦しめていたのは“自分自身”だと気が付いた。どこか清々しく、一皮剥けた気がした。

少し話を戻して『ELEVEN FIRE CRACKERS TOUR 06-07~AFTER PARTY』のDVDには、ボーナストラックとしてALLiSTERとの対バン・ライブの映像やツアーのオフショット映像が収録されている。ライブMC集での下○タ話も、細美が話すと愛嬌たっぷりでなぜかゲスく聞こえない。女性はどうか分からないが……(笑)むしろ好感が持てる。無邪気で少年のような笑顔で話されると、自然と頬が緩んでしまうから不思議だ。細美マジックとでも言っておこうか。ファンに対して飾らないその姿も、僕らへの愛情や信頼の証なのかもしれない。エルレの音楽やライブ演奏も最高だがそれ以上に、生粋のロック少年のようなその人柄に、僕は心惹かれた。また、ALLiSTERとのやりとりがとても素敵で、「バンドっていいな」と素直に思えた。別れ際に、両バンドが抱き合うシーンはとても感動的で、対バンの相手バンドを敵視するようなマイナスイメージは、一切無くなった気がする。それ以来、細美の魅力に少しずつハマっていった僕は、より一層エルレの音楽を聴くようになった。

薄い氷を割らないように/下を向いて歩く僕は/簡単に虹を見落とした

迷わずにすむ道もあった/どこにでも行ける自由を/失う方がもっと怖かった

積み重ねた 思い出とか/音を立てて崩れたって/僕らはまた 今日を記憶に変えていける

(〝虹〟)

一皮剥けた後、僕は音楽活動を続けながら、お年寄りの方の日常をサポートする仕事に就いた。つまり、介護の仕事だ。介護と聞くとあまりイメージは良くないが、利用者の方の笑顔や言葉に、いつも元気をもらった。以前「優しそう」とか「気が弱そう」と言われ傷付いた時期もあったが、他人の見解もあながち的を射ていた。見た目から優しさが滲み出ていたのだろうか。利用者さんやパートのおばさんに、とても可愛がってもらえたのである。嫌な気はしなかった。いつの間にかそれさえも長所と捉え、優しい自分も好きになれたように思う。

そんな折だった。

ある日の午後の送迎時、利用者の方を乗せた車の窓越しに、大きな虹と虹が重なる光景を見た。綺麗だった。雨が降った後だったので、曇り空から光が差して、より綺麗に見えたのかもしれない。それ以来、その利用者の方に会うと、いの一番に「○○さんを見ると、あの虹を思い出す。ほんとに綺麗だったね」と、その時の話を嬉しそうにされる。信号待ちの車内で見た数秒の出来事だったけれど、僕にとっては忘れられない記憶となった。

今まで虹を見たくて必死に歩いてきたはずなのに、そのチャンスを何度も自ら逃していたのだろう。仕事を辞めて失ったものも沢山あった。けれど、その日見た虹は美しく、あの日見た細美のように“ここ”のど真ん中をそっと埋めてくれた。必死に自分を肯定しても不確かだったものが、確かに“ここ”にあると気付けたこと、そう思える自分がそこにいたこと「一生、忘れないでいたい」と思えた瞬間だった。

ねぇ この夜が終わる頃 僕らも消えていく/そう思えば 僕にとって 大事なことなんて/いくつもないと思うんだ

(〝金星〟)

“ELLEGARDEN”が活動休止を発表してから10年もの月日が経った。活動休止後、結成された“the HIATUS”の細美も“MONOEYES”の細美も、僕は好きだった。その人柄や音楽の才能は天性のようなものだ。彼の魅力が、無意識の内に人を惹きつけ、そこに和が生まれる。気づけば自然と笑顔の輪が彼を囲む。その繋がりがその記憶が、細美武士を大きくまた前に進める。そして僕らも、彼と共に歩き、彼と共に生きる。特別なことは何一つない。バンドメンバーもファンも彼にとっては何も変わらない、大切な仲間、かけがえのないものだから。あの時、僕に勇気や希望を与えてくれた歌の数々を、細美は“今”どんな気持ちで歌うのだろうか。2018年8月8日“新木場STUDIO COAST”で、その答えがわかる。

彼が教えてくれた“確かなもの”それは今も“ここ”にある。次は僕の番だ。この思い届くだろうか――虹の記憶が、僕らを繋ぐ。「さあ、渡ろう。みんな一緒に」

その〝虹〟を――。

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