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2017年4月27日

ノイ村 (24歳)

諦めが産んだ異物.

The Chainsmokersについて

 もしも音楽界にラジー賞があったとしたら、「最低アルバム賞」の授賞へと目下凄まじい勢いで全力疾走しているのが、4月7日に発売されたThe Chainsmokersのファースト・フルアルバム、”Memories Do Not Open”である。

 海外の様々な批評・レビューを集計するサイト、Metacriticでは今年最低点となる42点を記録しており、ユーザースコアに至っては10点満点中1.2点という有様だ。ここまで低いユーザースコアはちょっと見たことがない。あらゆる批評家と音楽好きが総出でこのアルバムを批判している感じだ。

 では、売上の方に目を向けてみるとどうだろうか。大体20万枚近くを売り上げていて、今週のUSビルボード・チャートでは見事に初登場1位を記録している。これはDrakeの”More Life”(約50万枚)、
Ed Sheeranの”÷”(約45万枚)に次ぐくらいのセールスで、「今年を代表するヒット作」と呼んで差し支えないと思う。

 さて、ここまでで「なるほど、みんなが期待して聴いたのに駄作だったから低評価になっているのか」と考える人もいるかもしれない。

 それは、ある程度は合っているかもしれないが、あらゆる意味で間違っている。実際のところ、このアルバムの評価は発売される前から決まっていたんじゃないかと思っている。一方で個人的には、この作品は今のポップシーンのある側面を切り取ったアルバムだと思っているし、単純に気に入っているので今もよく聴いている。

 まず、現時点でThe Chainsmokersは「最も嫌われているミュージシャン」だと言い切っていい。理由は簡単で、「いい加減にCloserに飽きた」からだ。

 メンバーのAndrewがマイクを持ち、Halseyと共演したこの楽曲は、昨年のビルボード・チャートにおいて、最も長く1位に居座った曲だ。言い換えれば、ずっと流れっぱなしだ。ちょうどその時期にアメリカに住んでいたのだけど、誇張なくどこに行っても流れていたので同僚共々、「もう勘弁してくれ」とうんざりしていた。

 それくらい売れてきて、なおかつBruno Marsのような実力派でもない場合、当然のように批判の声は大きくなってくる。”Closer”以前は「最近人気のEDMアクト」くらいの認識で、批評家は総無視を決め込んでいた。しかしこの大ヒット以降は批評家も黙っていられなくなってきたのか、批判の声を見ることが増えていく。Pitchforkはこの曲が収録されたEPのレビューで「マーケティングの塊」と批判している。彼らのことを「業界が作った」と言う人もいて、この辺の感じは日本ともそう変わらない。

 とはいえ、売れるからには理由があるし、いくらマーケティングを仕掛けたところで売れなきゃ意味がなかったりする。そもそも、彼らは確かに「旬のEDMアクト」ではあるのだけど、多くの面で他の人気アクトとは異なっている。

 まずは歌詞が挙げられるだろう。ULTRA MUSIC FESTIVALやElectric Daisy Carnivalを見れば分かる通り、基本的にEDMというのは大規模な会場で鳴らすことを前提としたダンスミュージックだ。だからこそ歌モノの場合、その歌詞は力強くスケールの大きいもの(もしくはただ盛り上げるだけ)になる事が多い。

「何もかもが終わって,僕が歳を重ねて賢くなったら起こしてくれよ.ずっと自分が何者なのかを探していたんだけど,まさか僕が迷っているなんて思わなかったんだ.」 – Avicii “Wake Me Up” 筆者訳

「どれだけ非難されたって全部跳ね返してやるさ.失うものは何も無いんだから.さぁ、撃ってみろよ.」 – David Guetta “Titanium” 筆者訳

もしも私達の愛が悲劇だと言うなら,どうしてあなたと一緒にいるだけで癒されるの? もし私達の愛がただの狂気だとしたら、何であなたと一緒にいると世界がはっきり見えてくるの? – Zedd “Clarity” 筆者訳

 こんな感じの歌詞をみんなで歌っているのだ。「え、こんなこと歌ってたの?」と思う人もいるかもしれないけれど、EDMが盛り上がっている背景に、酷くなっている生活に対する現実逃避としての側面があることを考えると、納得がいくかもしれない(もちろん、”Where Them Girls At”みたいなチャラさの極みみたいな曲も少なくはない)。
 その流れでThe Chainsmokersの歌詞に目を向けてみると、どこか違和感を感じる。お互いに上京先して数年が経ち,都心のホテルのバーで再開した元恋人同士が,こんなことを歌い出す。

“ローバーの後部座席に座っているけど,もっと近付こうよ.君がこんな車を買えるわけがないなんて知ってるさ.肩にあるタトゥーのところを噛んでよ.隅っこのシーツをめくったら,あの頃君が友達から盗んだマットレスが見えた.僕たちは何も変わってないんだ.” – The Chainsmokres “Closer” 筆者訳

 要は二人とも成功していて、昔の貧乏だった頃を懐かしみながら再び戻っていくといった感じの曲だ。「めっちゃリア充じゃん」と思う人もいるかもしれないが、実際にそんな事があったらどんな気分になるのかを考えた上で上記のPVを最後まで見てほしい。

 つまりこれはファンタジーである。

 今までは自分を鼓舞するような、あるいは世界観の一部となるような楽曲が多かったシーンにおいて、彼らは恋愛ドラマのような世界観と内省性を持ち込んだ。それは楽曲展開においても同様で、トラップ全盛の現行シーンに対して、スローかつメロディアスなドロップを持ち込むことで、徹底的に楽曲の世界観を作り込んでいる。

 ”Closer”が画期的なのは、今までの「ポップソングの感じをEDMに落とし込むスタイル」に対して「EDMの感じをポップソングに落とし込んでしまった」ところにもある。要するに一切フロアのことを考えていないのだ。実際、現在の彼らは”Closer”をDJセットでプレイする時、一度プレイを止めてから”Closer”を流している。もちろん原曲が最も求められているという側面はあるだろうけど、何より”Closer”をミックスに取り入れにくいのだ。

 この流れは、次のシングルとなった”Paris”でも引き継がれている.交際に反対する恋人の両親から離れるために、二人でパリに逃避行する曲だ。

 ”Closer”と”Paris”に共通しているのは、「今、この瞬間は二人でいることに喜びを感じている」こと、そして「でも、この感じが続くかは言い切れない」ということだ。今までの楽曲であれば、二人でいることを全力で楽しんだり、あるいは正反対に振り切ったりしているのが自然だ。そこには、「今が素晴らしいとは言い切れないけれど、でもそう言うしかない」という諦めにも近い感情が見えてくる。

 この決定打となったのが、アルバムの先行楽曲として発表された、Coldplayとのコラボ曲、”Something Just Like This”である。

「伝説や神話に出てくる人物、あるいはバットマンみたいなヒーローには僕はなれないよ。僕が冒険しているのは、そういう力を手に入れたいからじゃない。君みたいに頼れる人、キスを交わすことの出来る人を探しているからなんだよ。そう、ちょうどこんな感じ…」 – 筆者要約

 EDMによって生活が楽しくなったような気がしていたけれど、結局何も変わっていない。むしろ、悪くなっているような気もする。だからこそ、日常的に聴けるような、今の自分を肯定したり、少しだけ夢を見ることの出来るような彼らの楽曲が求められるようになったんじゃないだろうか。

 こうした世界観を貫く上で重要な要素になるのが、メンバーの一人であるAndrewの歌声だ。素朴で、高音域が辛そうで、音程を調節するのが苦手で、声量も低い彼のボーカルは、今までの考え方では論外だが、彼らの楽曲の上では物語の登場人物としてこれ以上ないほど効果を発揮する。つまり、「親しみやすい」のだ。こういう時、かえって下手な方が彼らへの想いが強くなったりする。

 「何かをしなければならないかもしれないけれど、今はこれでいい」という煮え切らない空気を纏うThe Chainsmokersは、当然批評家からは嫌われるだろう。しかし、一方でBeyonceやKendrick Lamarのような強いメッセージ性を持つような音楽を聴くのに体力がいるのも事実だ。そして、そのことを批判したところで、別に疲れが取れるわけではない。The Chainsmokersの初のフルアルバム、”Memories Do Not Open”には、日常に寄り添うような楽曲が敷き詰められている。アップリフティングな楽曲は一曲も収録されていないから、所謂EDMの文脈で聴くのは間違いだろう。しかし、このアルバムを一人で、あるいは親しい人と聴いている間は、ファンタジーの世界にどっぷりと浸ることが出来るはずだ。その先に何があるのかは分からないけれど、とりあえず僕は何度もこのアルバムを聴いている。

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