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今、たゆまずに

とまることのない、とまるわけもない、31年目のエレファントカシマシ

たゆまずに、ひたすらその歩みを止めなかったという事実は強い。

 浮世の風に吹きさらされ
 進むも地獄、ましては後戻りできない。
 苦虫つぶしたやうな顔でジェラシー
 なんだかあたまに来ちゃうね
 もういいや、いまはもうそんなこと。
 I don’t know. I don’t know. 今、たゆまずに。
 【I don’t know たゆまずに】2006

この詩のように、そうやって彼らは30年以上続けてきたのだろうか。
軽快なメロディーとは裏腹に、かなり厳しいシビアな心情を歌っていて、メロディー同様その歌い口の軽やかさが、より八方塞がりな状態を浮き彫りにしているようだ。
もういいや、と諦めにも投げやりにも受け取れる心境は、彼には常にあったのかもしれない。
しかし。
やっていくしかあるまい。
彼らは歩みを止めなかった。
絶望、苛立ち、苦悩、怒り、悲しみ、嫉妬、虚無、諦め、そして敗北感。
わたしは彼らの何を知っているわけではない。
ただ、彼らの音楽を聴いていると、彼のその時々の想いを垣間見た気がするのだ。彼らの音楽には実に生々しい感情の起伏を感じる。それは日常における誰しもが抱く苦悩であったり、ささやかな喜びであったり。決して特別なものではない。
彼は間違いなく世界屈指の才能の持ち主だが、遥か彼方の崇高なフィールドから物事を哲学的に訴えているのではないのだ。同じ目線で、同じ価値観で、日常生活の中で音楽を奏でている。わたしはそう感じる。
だから彼の音楽は、実に腑に落ちる。
それはただの気のせいかもしれないし、そうではないのかもしれない。
ただひとつ、確実なこと。
それは、彼がたゆまずに、ただひたすらに歩みを止めずに、自らの内から溢れ出す想いや感情、情熱を隠そうとはせずに、前向きなものも後ろ向きなものもすべてひっくるめて、音楽にバンドにぶつけてきた、ということ。

結成から37年、昨年デビュー30周年を迎え、今なお不動のメンバー4人で活動を続けているロックバンド。
メンバー4人のうち、他のバンドを経験しているのはひとりだけ。すなわち残りの3人は、このバンドしか知らないのだ。はじめてそれを知った時、これは奇跡的な事だと感じた。しかし、ほんの少しでも彼らの歴史を覗いてみるだけで、それは奇跡などではないことは明らかだった。
努力の結果なのだ。
継続することへの、また音楽への絶え間ない努力。
契約を打ち切られても、自分たちよりも若い世代が次々とヒット曲を生み出すことを目の当たりにしても、決して自らの歩みを止めなかった。
生半可ではない覚悟、そして努力の証。
一種の諦めや意地の感情もあったのかもしれない。ただ、それだけでは到底これだけの年数を継続することなどできるはずがない。

 「おとぎの国に行きたい」
 なんて、逃げ出したいんだ、わかるか?baby。
 たとへば、タイムマシンにのって。
 遠い遠い昔へ go
 【I don’t know たゆまずに】2006

音楽性の不一致、メンバーの脱退、活動休止、解散、そして病気や死という本人たちの意志とは別に、否応なしに活動を止めざるを得ない状況だって世の中には数多ある。多くのバンドがそれらの理由と共に、音楽活動を停止、またその世界から去っていった。彼らにも、そういった危機が無かったわけではない。レコード会社からの契約打ち切り、所属事務所の解散、メンバーの病気により一時活動休止に追い込まれたこともあった。時に歩みを止めることの方がどんなに楽だろうか、逃げ出したいと考えたこともあったのではないだろうか。
しかし彼らは、歩みを止めなかった。

彼が15歳で作った「星の砂」という曲がある。今でもコンサートの定番曲だ。
彼らが若いバンドに交じって毎年欠かさずに精力的に参加している音楽フェスのセットリストでのこと。
たかだか1時間弱の持ち時間の中で、彼は15歳の時に作った曲と51歳で作った曲を当たり前の様に演奏し歌いあげてしまう。
これは、実に凄いことだ。
30年以上続けてきた彼らにしかできないことだ。
これこそがたゆまずに、決して歩みを止めなかった証。
その様は実に痛快で、最高にロックで、最強にかっこいい。
彼がこれもまた10代の頃に作ったファンの間でも大変人気のある「やさしさ」という曲がある。
昨年開催された30周年アニバーサリーツアーのセットリストにも組み込まれていた。
彼が身を捩りながら、絞り上げる様に切なげに歌いあげる様は息を飲むほど。
50代の男性ロック歌手とは思えないほど伸びやかで綺麗な高音が、彼の歌唱力の高さを更に際立たせていた。素人目でも、とにかく圧巻なのだ。
30周年アニバーサリーツアーでの「やさしさ」は本当に素晴らしかった。
51歳の彼が「やさしさ」を歌う姿は、まるで10代の少年の面影がよぎるし、その歌声の艶やかさは、この曲を作った10代そのままのようだ。
「やさしさ」を歌う彼は、まさに大人と少年の共存だ。
そして、それができるのは、たゆまずに30年以上バンドを継続してきた彼らだからなのだ。
これは何物にも代えがたい、彼らの最大の強みのひとつではないだろうか。

彼らの音楽は、わたしにとってヨガ的な、瞑想のような存在だ。
彼らの音楽は、わたし自身も気が付いていない心の葛藤、傷、本当の想いを気付かせてくれるのだ。だからこそ彼らの音楽を聴いて涙する。
はじめて行った彼らのコンサートは2016年の日比谷の野音だった。
「友達がいるのさ」という曲で、わたしは生まれて初めて音楽で涙した。実はその時、わたしはこの曲をCDでも聴いたことがなく、予備知識は皆無だった。
歌の合間に彼が言う。
「なんだっていい。斜めだって、後ろだっていいんだ。行こうぜ。」
後ろに行ったっていいんだ。
そういわれて、本当に自然と涙が溢れた。
わたしが抱えていた心の葛藤と傷を教えてくれた。
そして情緒的な音楽と彼の唯一無二の優しい歌声が、わたしが知らず知らずのうちに抱え込んでいた痛みを包みこんでくれたのだ。
きっと、わたしが一番かけて欲しかった言葉なのだ。それを彼はいとも簡単に発した。

 歩くのはいいぜ! 俺はまた出かけよう
 乱立する文明のはざまを一笑、一蹴、偏執、哀愁
 出かけよう 明日も あさっても
 また出かけよう
 【友達がいるのさ】2005

9月の日比谷野外音楽堂の夜にぴったりな曲。
大都会東京の休日の夜。あの日はうお座の満月だった。
コンサートが始まった時はどんよりと雲に覆われていた空が、暗くなるにつれて澄み渡り、この曲が始まるころには、きれいな満月が野音を照らしていた。
まるでこの場で歌うために生まれてきたかのような彼と、演奏するメンバーと、この曲。
とても美しく、優しい光景だった。
わたしは一番後ろの席で、ひとり涙を流しながらステージを眺めていた。きっと彼が歌うから、心に響くのだろうな。
当時のわたしは、彼らの歴史を詳しく知らなかったし、ましてやこの曲すらも初めて聴いたというのに。
理屈ではない。
彼の歌声と曲とメンバーの演奏。
それだけでいとも簡単に腑に落ちたのだ。

彼の音楽に取り組む姿勢は、まるで職人の様だ。
煌びやかな音楽の世界。
最先端の機器に囲まれて、優秀なスタッフと優雅に制作活動をしているものだと勝手に思い込んでいたが、彼らのドキュメンタリーを観てその夢物語は一瞬で崩れ落ちた。泥臭く、ぎりぎりまで身体も脳みそも絞り出して使い切らねばならない過酷で厳しい現場。
ぴりぴりと張りつめた緊張感。
わたしも毎日毎日、おなじ電車に乗って職場へ行き、淡々と業務をこなす。そうしてやっとお給料をもらっている。
それと同じだ。
全く同じだった。
仕事なのだ。伊達や酔狂ではないのだ。
好きなことを、憧れを仕事にできて羨ましい、などという次元の話ではない。
彼は音楽を愛し、また音楽に愛された屈指の才能を持っている。だというのに苦悩の沼にとっぷりと浸かっているのだ。
それはきっと、音楽のため、バンドのため、聴いてくれる人のため。
そういう人が作る曲、奏でる音楽、歌声だからこそ、胸を打つのだ。
耳にするだけで、目にするだけで。
感じるのだ。
たとえ、彼の深すぎる苦悩や血の滲むような努力の歴史を知らずとも。

 冬が来て春が来て夏が過ぎて秋が過ぎて
 また明日が来るやうに

 もう芽ばえてゐるあのメロディー
 I don’t know. I don’t know. 今、たゆまずに。
 とびらをあけりゃあ外は、晴れた空。
 I don’t no. I don’t no. すすもう。
 おそれずに おそれずに。
 たゆまずに たゆまずに。

 たゆまずに
 【I don’t know たゆまずに】2006
 
彼はこの曲が収録されているアルバム「町を見下ろす丘」発売時のインタビューでこんなことを語っていた。彼が30代最後の年、EMIとの契約終了を控えていた時期のことだ。
 絶望を感覚じゃなくて、実地でわかってきたんですよ。
またこんなことも言っていた。
 4人で作りたいなって。4人でやるのが一番だっていう風に思ったんですよ。

今年6月に発売されたアルバム「Wake Up」のインタビューでは、彼はこんなことを口にしていた。
 昨年の30周年アニバーサリーツアーで受けた祝福で、改めて自らのバンドを知る ことができた。
 むき出しの4人で売り物になる曲を作りたい。

30代最後の年、彼は絶望を熟知したうえで自らが進むべき道を見出した。
52歳になろうとした時、自分たちが祝福を受けるに値するバンドだったことを知り、この4人で売り物になる曲を作りたいと言った。
52歳となった彼は今、再びこの4人で更なる高みを目指して、たゆまずに進もうとしている。いや、すでに進み始めている。

エレファントカシマシ23枚目のアルバム「Wake Up」は、まさに澄み渡った空のもとに立つ彼らを感じることのできる作品だ。
雨はすっかり止み、空は青く澄み渡っている。
彼、すなわち、宮本浩次は昨年の30周年アニバーサリーツアーを終えて、6月から始まった「Wake Up」ツアーをまさにリスタートだと言った。
30年以上も同じメンバーでバンドを続けてきた50代のロック歌手が発するこの言葉に、わたしは期待しか抱かなかった。

 陽だまりも宇宙も 悲しみも喜びも
 全部この胸に抱きしめて駆け抜けたヒーロー
 やさしさも労働も 繊細さもでっかさも
 デリケートもクレイジーも
 全部心の中に抱いたヒーロー
 【RAINBOW】2015

 転んだらそのままで胸を張れ
 涙に滲んだ過去と未来 Oh baby 俺は今日もメシ喰って出かけるぜ
 【Easy Go】2018

喜びも悲しみも知り尽くしてきた。
かっこいいところも、頼りないところも全て胸に抱いている。
無様な面を世間に見せることも意に介さない。
それすらも魅力に変える力が彼らにはあるのだ。
継続しかあるまいと思い込むことで自らを奮い立たせてきた30年だったのかもしれない。
そして今、過去と未来を想って、涙が滲むのだ。

 若き日のあこがれひとつひとつを
 捨てさりゆく歴史。それが人生だった。
 雨の日に、僕は道に迷ってる
 ひゃうし抜けするくらゐ、町はしづかだった。
 【雨の日に・・・】2006

憧れは成長を促す糧には違いないが、それだけでは現実問題として成り立たない。
それを身をもって痛い程知っている。
成功と挫折を知っている。
自分が弱いと知っている。
そして、それは決して恥ずべきことではないと知っている。
それは音楽を作るうえで最大の武器になりうることを知っている。

 いい気になったり 落ち込んだりして 陽がしづみまた陽が昇る
 「今の自分を信じてみなよ」
 流れ星のやうな人生
 「今の自分を信じてみなよ」
 流れ星のやうな人生
 流れ星のやうな人生
 【流れ星のやうな人生】2006

 とまることのない とまるわけもない
 いつものいつもの顔のままでグッバイ
 去年(こぞ)の風に涙を流し 今朝の空に再び立ち上がる
 【いつもの顔で】2018
 
 30年を経て信頼を得た。
彼は最近のインタビューでこう語った。
かつてはファンすらも信じることができない、と言ったそうだ。
しかし30周年の祝福を彼は「信頼」という形で感じ、受け取った。それはきっと、彼もファンを少なからず信頼することができた、ということではないだろうか。
彼らにとって30年は信頼を得るために、いや相手を信頼するために必要な年月であったのかもしれない。そうだとしたら全く不器用なバンドだと思わざるを得ないが、しかし信頼を受取った今のエレファントカシマシは最強だ。
ありのままの自分を、バンドを信じることのできる強さは自信へと繋がる。
自信はその者に輝きを与える。
かつて沈んだ陽は、今再び彼らのもとに昇りはじめている。
デビュー31年目、エレファントカシマシはここから再び立ち上がる。
たゆまずに、おそれずに。
とまることのない、とまるわけもない。
今までもそうだったように。

過去でも未来でもない今この瞬間を生きるエレファントカシマシを、偽りも誤魔化しも何もない、ありのままであり続けるエレファントカシマシを、できうる限りこの目で追っていきたい。
そう強く思った。
 
 

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