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最強の合言葉

BUMP OF CHICKEN『望遠のマーチ』における希望

BUMP OF CHICKENの新曲、『望遠のマーチ』が配信リリースされた。繰り返し唄われる「いこうよ」のフレーズが頭に残る、夏らしい爽やかな炭酸みたいな曲だ。既にいくつかの音楽文でも、この曲に対する熱い想いが掲載されており、読むたびにその文章力に圧倒され、感動してしまう。配信されてすぐに、何人ものリスナーたちが次々と文章を書きたくなってしまうくらい、この曲の魅力はいくら語っても足りないくらいなのだろう。
私はこの曲の中でも特に、サビの中心を担う「いこう いこうよ」のフレーズがとても気に入っている。

繰り返される「いこうよ」というかけ声。それはどう考えても、とびっきりのお節介だ。普段、日常の中で使う言葉としては、迷惑にすら聞こえてしまうことのある一言だろう。負の状態にとどまっている誰かに向けて放つには、あまりにも無責任で頼りない。声をかけた本人の想いとは裏腹に、誤解を招くかもしれない誘い文句だ。
しかし『望遠のマーチ』の中で、このかけ声は、然るべき順序を経て、どんな状態にいる相手にも届くように唄われる。「いこうよ」のフレーズに、BUMP OF CHICKENの軌跡とリスナー自身が抱える孤独をかけあわせたとき、とんでもないミラクルが起きる仕組みになっている。とびっきりのお節介は、最強の合言葉へと変貌するのである。

その始まりは、ひとりひとりの絶望に焦点を合わせることにある。

「皆集まって 全員ひとりぼっち」(望遠のマーチ)

私たちは、世界の見方も対象物の受け取り方も、それぞれが全く異なる立場と感性をもって生きている。個々が手にしているレンズでしか世界を把握できない。その事実は、「全員ひとりぼっち」という歌詞が示すとおり、時に残酷で寂しくてどうしようもないことだ。

「希望 絶望
どれだけ待ったって 誰も迎えにこないじゃない」
(望遠のマーチ)

同じ希望も、同じ絶望も、どこを探したって存在しない。だから、理解してもらえないんじゃないかって、助けを呼ぶことすら出来ない。しかし、注目したいのはこの歌詞の後半部分である。
「どれだけ待ったって 誰も迎えにこないじゃない」
(望遠のマーチ)
助けてほしくても言い出せなかった苦い経験が、明確に表現されている。この苦しい経験は、誰もが一度は経験したことのある、同じものではないだろうか。程度の差はあるけれど、同じものさしを持たない私たちが、唯一分かち合うことのできる、全く同じ経験と言ってもいい。自分だけではないという共感が生まれたおかげで、それまで抱えていた絶望の重みは、ちょっとだけ軽くなる。同じ経験は、歌詞の至るところに出てくる。

「失うものはないとか
かっこいい事言えたらいいよな
本気で迷って 必死にヘラヘラしている」
(望遠のマーチ)

彼らの曲は今までも、それぞれが抱える孤独とその先に見える希望を示しながら、同じ経験を持つことで私たちは分かち合うことができると伝えてくれていたように思う。それに加えて新しいのは、個々の希望と絶望、他者との同じ経験を繋ぐ架け橋と呼べる「いこうよ」という合言葉が登場してきたことにある。たとえ誰にも理解されない負の状態にとどまっていても、あなたの希望も絶望もわからないけれど、同じ経験を持ち合わせているのだから一緒に進んでいける、というメッセージをそこに受け取ることができる。絶望に触れ、同じ経験を分かち合うという順序を経て合言葉は輝きだし、自らが一歩を踏み出す勇気をくれる。同じ場所から歩きだそうという温かい声かけは、余計なお節介でもなんでもなく、待っていましたと言わんばかりの、とびきり嬉しい合言葉に変わってしまう。
 

それにしても、停滞している誰かに向けて、「いこうよ」と唄うのは容易いことではない。声をかけた先でそのあとも一緒に進めるのかという不安や、連れていかなきゃという責任感、嫌われるかもしれない恐怖なんて、お構いなしだ。遠回りや、相手の領域へ踏み込むことに躊躇する慎重さはこの曲の中にはみられない。お節介の遠慮をしなくなるほど、BUMP OF CHICKENの覚悟が光っているように思う。そこには、曲を届けた先にいるリスナーへの信頼と愛情だけが存在している。

そして、私が勝手に合言葉と決めつけている「いこうよ」のかけ声の一番の魅力は、その他大勢に向けて唄われていることにある。合言葉も、マーチも、その他大勢がいなくては成り立たない。みんなで一緒に気持ちを合わせるから、合言葉だって、行進だって、意味が生まれてくる。今まで、彼らの曲と自分との間にあった約束事のような一対一という形式を、いとも簡単に飛び越えてきているから本当に驚かされる。この曲を聴いて、自分もマーチに参加したいと願ってしまう背景には、歌詞や音から透けて見える、その他大勢も一緒だという安心感を絶妙にかもし出していることにあるのではないだろうか。

そう考えると、自分とBUMP OF CHICKENの四人、この曲を聴いた多くのリスナーたちが、同じ方角をそれぞれのレンズで覗きながら、遠くにある希望に焦点を合わせて、進んでいくことは、その時点で希望を生み出している。みんなと一緒に進むって、面倒くさいけど、意外と難しくないことなのではないだろうか。

全然知らないその他大勢を巻き込んでまで、考えを巡らせてしまうのには理由がある。BUMP OF CHICKENのライブに参加して、そのことによく似た希望を、身をもって体験したことがあるからだ。

彼らのライブで泣いてしまった人の話や、実際にライブで泣いている人をよく見かける。私も泣いたことがあるから、その真意がなんとなくわかる。辛かったことや寂しかったことを思い出して涙を流すのではない。それは完全な、嬉し泣きだ。心の奥底にある絶望だけが、その涙を引き出すことを可能にする。イヤフォンで聞き慣れた大事な曲たちが、目の前で演奏され、心臓の奥まで音が響いたとき、味わったことのない感動がやってくる。その感動を辿っていくと、根っこにある絶望に感謝せざるを得なくなる。その時になってやっと、弱い自分と避けられなかった絶望が、希望と同じ場所に並んで動き出す。

弱くてどうしようもない部分を含め、自分って案外すてたもんじゃないな、なんてことを本気で思うことができる。大げさでも何でもなく、よく頑張ったんだと自分のことを認め、満たされた気持ちでいっぱいになる。大好きな音楽が連れてきてくれたその心境は、紛れもなく奇跡としか言いようがないものである。こんな奇跡に出会わせてくれた彼らの曲たちに、BUMP OF CHICKENに、私は何回感謝を言っても、伝え切れないだろう。何度も感謝しなきゃならない人たちがいること、尊敬する音楽を持てたことは、生きている限りずっと私の人生に彩りをもたらしてくれる。
そして彼らのライブを通して、私が絶望だと悩んでいたことは、頭の中で勝手に辛さを肥大化させていただけで、取るに足りないことへと変化することを知った。誰にも話せなかったことは、意外と忘れることができていることに気付いた。おそらく、私の絶望なんてちっぽけだ。人間は案外、図太く生きられるようにできているんだと思わずにはいられなくなる。それは間違いなく世界が開くきっかけになる体験だった。

泣いている人を見ると、そんな体験をしたのは私だけではない、もはや泣いていなくても多くの人がきっとそうなんだという想いを持ってしまう。
生きることの苦しさが輝く瞬間。
世界が開けるような瞬間は、確かにやってくる。その瞬間は、彼らの音楽によって、そして何よりも、会場を埋め尽くす全てのリスナーたちによって生み出されたものである。イヤフォンで曲を聴いていただけでは知ることのできなかった、熱気と涙と笑顔を持って、運ばれてきたものだ。同じライブ会場の中で、みんなと同じ気持ちでいれたから、教えてもらえたことである。
 

「与えられた居場所が 苦しかったら
そんなの疑ったって かまわないんだ」

「体は信じているよ 君の全部を」

「叫びたい言葉が輝いている」
(望遠のマーチ)

どうしようもない状況にある時、私はすぐに答えを見つけたがる。わかりやすく解決しようとしてしまう。だから、簡単に答えの出ない状況に陥っただけで、途方に暮れるほどまいってしまう。しかし、全てのことをその時点で、解決しなくてもいいはずだ。そのいわば負の状態に留まりながら、上手くいかないことにじっくり向き合って考えていったっていいのだ。いつかは必ず、取るに足りないことに変わる。だから遠くを見ること、つまりは気持ちに余裕を持たるために、自分だけではないという同じ経験をこの曲の中でBUMP OF CHICKENと大勢のリスナーたちと共有できたことは、とんでもない武器になる。へとへとに疲れてしまったとき、きっと背中を支えてくれるはずだ。
遠くに見える希望、その瞬間はいつ、どんな形で訪れるのかはわからない。もしかしたら、訪れないのかもしれない。しかし、彼らのライブを通して、それが存在することだけは知っている。

「いこうよ」の合言葉に私も必死でついていきたい。

そう思ったら、走り出さなくてはと、努力し続けないわけにはいかなくなる。今、自分が置かれている状況に対して、くよくよしている場合ではない。

同じ希望も同じ絶望も、どこを探したって存在しない。

しかし、踏ん張ったその先で、見え方は違うけれど、“同じ輝き”をライブ会場でみんな一緒に覗きこめる日を心底楽しみにしている。

「いこうよ」の合言葉が連れてきてくれた希望と一緒に、『望遠のマーチ』がライブ会場で聴ける日を心から願っている。

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