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2017年4月27日

苅野雅弥 (28歳)

良い音楽とはなんだ?

女王蜂の最高傑作『Q』が示す道

 良い音楽とはなんだ?この疑問に対する答えは人それぞれあると思う。筆者にとって良い音楽とは、いくつもの感情が折り重なり生まれた音楽のことだ。日々の生活は、嬉しいこともあれば哀しいこともある。だからこそ喜怒哀楽なんて言葉があり、そこに収まらない感情の機微だってある。哀しさの中で楽しく感じる瞬間もあるし、逆もまた然り。これは紛れもなく、人という生き物の本質だ。
 そうした本質を理解してる者は、ひとつのテーマを音楽で表現するにしても、その背後に数多くの想いを込める。楽しい気持ちのみならず、楽しい気持ちに至るまでの道のりで味わった感情や感覚が滲んでしまうのだ。悲しみや苦難は、多くの人にとって目を背けたくなるものかもしれない。しかし、そこで目を背けない者たちが、良い音楽を鳴らせる。

 そう考える筆者にとって、4人組バンド女王蜂の5枚目となるアルバム『Q』は良い音楽、いや、とても良い音楽を鳴らしている。本作は「アウトロダクション」で幕を開ける。この曲は、〈最終回へ進まないと〉というフレーズも飛びだしたりと、終わりのニュアンスが込められた言葉を紡いでいく。しかし、軽快に鳴らされるピアノに高揚感を湛えたストリングスが交わるサウンドは、終わりから始まるのだと言わんばかりに祝祭的だ。女王蜂は本作を最高傑作と称しているが、そうした自信は「アウトロダクション」にも漲っている。女王蜂の進化と深化を私たちに突きつける曲にして、優れたオープニングだ。
 続く2曲目の「金星」から6曲目の「失楽園」までは、ダンサブルでファンキーなノリが際立つ。文字通りのパーティー・タイムに突入し、酸いも甘いも嚙み分けた者たちの汗が飛び散るダンスフロアが出現する。なかでも特筆したいのは「金星」だ。2010年代を代表するラッパーになりつつあるDAOKOが参加したこの曲では、〈今夜ふたり夢を見ようよ〉〈明日に少し期待をしようよ〉と歌われ、私たちに一筋の光をもたらしてくれる。カイリー・ミノーグ「Wow」に通じるエレクトロ・ポップなサウンドもキャッチーで、女王蜂史上もっともストレートなポップ・ソングと言える。
 3曲目の「DANCE DANCE DANCE」も特筆したい曲だ。否応にも腰を動かしてしまうエレクトロ・ディスコな曲調に惹かれるが、そんなサウンドに乗せて紡がれる言葉にも心を撃ち抜かれた。特に、〈悪くない でもよくない それならときめきを探して流されたい〉というフレーズに込められた刹那は、快楽だけでなく、その快楽が孕むほろ苦い哀しみも表している。とはいえ、「DANCE DANCE DANCE」のキラーフレーズは、やはり〈BOY MEET GIRL BOY MEET BOY GIRL MEET GIRL〉だろう。男/女という従来のジェンダー観を飛び越え、さまざまな人たちに届く多様性あふれるメッセージだ。

 しかし、このようなキラキラとした気持ちだけではないのが、本作の重要なポイントである。7曲目の「Q」は、「失楽園」までの華やかな雰囲気から一転、グチャグチャになった血みどろの諦念と怖れを醸す曲になっている。アコースティック・ギターが基調のサウンドは装飾を隅に追いやり、ヒリヒリとした剥きだしの心を表現している。歌詞も、〈いいよ 声を殺すから〉〈病院帰りの疲れた顔〉など、不穏な空気を感じずにはいられない言葉が並んでいる。筆者も初めて聴いたときは思わずギョッとしてしまったが、それは本作を聴いた多くの人もそうだと思う。
 8曲目の「つづら折り」も、「Q」に漂う不穏な空気を引き継いでいる。優美なサウンドスケープを前面に出している点は「Q」と異なるが、〈真っ白な総合病院〉というフレーズは、「Q」にも登場する〈病院〉との繋がりを感じさせる。そういった意味で「つづら折り」は、〈病院帰りの疲れた顔〉を見せる「Q」よりも前の時間、あるいは「Q」で声を殺している者の回想が描かれた曲なのかもしれない。
 本作のラストにして9曲目の「雛市」も苛烈な哀愁を漂わせている。ただ、「雛市」は「Q」や「つづら折り」とは違い、前向きな気持ちが明確に表れている。とりわけ、〈強く生きてゆかなきゃ〉というストレートな言葉は、哀しみの中でも勇ましくあろうとする強い悲壮感がうかがえる。また、この勇ましさが、「アウトロダクション」の第一声である〈帰れない道〉を歩ませることに繋がったと思えるのも興味深い。そう考えると本作は、ケン・グリムウッドのSF小説『リプレイ』といった、いわゆるループもの的な方法で物語を描いたとも解釈できる。

 本作は、じっとりと横たわる哀しみに触れたうえで、希望を歌ったアルバムだ。哀しみとそれがもたらす辛さは常にまとわりつくが、それでも前に進もうと私たちを優しく励ましてくれる。そしてこの励ましは、ただ希望を歌ったアルバムよりも誠実で、人間臭くて、多くの人を救う。

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