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ギャップ萌えだってきっかけだ

RISING SUN ROCK FESTIVAL で見た SiM の魅力

「うわ、これSiMじゃん! ! SiM見に行く人ー! ?」

私はそのとき、念願だったRISING SUN ROCK FESTIVALの会場に到着したところだった。 福岡の実家からはるばる北海道まで、しかも市街地ではなく石狩湾の特設会場までともなるとその道のりは果てしない。会場に辿り着くまでに疲れてしまったが、楽しいのはこれから、と広い会場内を進む途中、隣を歩いていた男子グループからその声が聞こえてきた。

それはちょうど、メインステージであるSUN STAGE でSiMのリハが始まった時だった。声を上げた少年 (私と同い年か少し若いくらいに見えたので、もしかしたら「少年」と呼ぶのは失礼かもしれない) はおそらくSiMのファンで、SiMはここに来た理由の1つなのだろう。リハの音出しを少し聞いただけでSiMだと気付き、満面の笑みで仲間たちにそう問いかけていた。残念ながら彼は一緒に見に行く人を釣れなかったようで、じゃあまた後で、と一人でSUN STAGEへ駆け出して行ってしまった。
この時まで、私がSiMに対して持っている印象は「コワモテなお兄さんたちのバンド」だった。予備知識もその程度なのでSiM を見ようと思っていたわけではなかったのだが、現地集合する予定の友人が到着するまでにしばらく時間があったので、とりあえず腹ごしらえをしようとSUN STAGEの方に向かって行った。その近くに食事を販売している出店が並んでいたからだ。目当ての食べ物を手に入れた私は、さてどのステージを見に行こうかと考えた結果、先ほどの少年のことを思い出した。君が仲間を置いてステージに駆け出すほど好きなバンドなら、曲を全然知らないけど見てみるよと、もうすっかりSiMのオーディエンスの中に消えてしまった彼に心の中で呟き、お腹を満たしつつ遠くの方から彼らのライブを見ることにした。
ライブはもちろん、ちゃんと曲を聴くのさえこの時が初めてだった。初めて聴いた彼らの曲の印象は「思っていたよりもメロディアス」だった。「コワモテなお兄さんたち」という少ない予備知識を元にイメージしていた力強いシャウトは予想していた以上に楽曲の中で圧倒的な存在感を放っていたが、そればかりではない。全くイメージしていなかったような陽気な曲もある。そして時折のびのびと歌い上げるメロディが大きなステージによく似合う。こんなバンドだったとは知らなかった。
そして彼らの印象がさらに変わったのがボーカルであるMAHさんのMCだ。一言一句正確に記憶しているわけではないが、
「お前ら今日は誰を見に来た? Suchmos? サカナクション? うん、良いよな…でもSiM だろーーー! ! ! ! SiMって言えーーー! ! ! ! 本人の前ではSiMって言えーーー! ! ! ! 」
と、このような事を言っていた。 ボーカルの彼は、そのいかつい見た目に反してユーモアのある人のようだ。本人の前ではってなんだ。本人の前だけでいいのか。心広いな。おそらくSiM のファンたちの間では彼の性格は知られているのだろうし、ユーモラスなMCは毎度のことなのであろう。しかしこれが初めてのSiMのライブだった私にとっては、それが衝撃的だった。
力強くシャウトしまくるのにメロディアス。コワモテなのにユーモラス。私はいつのまにか、予想していなかった一面を次々に見せてくれるSiMのステージから目が離せなくなっていた。そしてライブが後半に差し掛かった頃、曲間でMAHさんが突然観客をその場に座らせた。

何が始まるんだろう。これはSiMのライブではよくあることなのだろうか。
次の瞬間、客席に向かってMAHさんが言った。
「今からすごいこと言います! ! この中でギター弾けるやつ! ! 」
観客の中でギターを弾ける人は挙手をしろ、ということだろう。その意図を汲み取った観客席から一気に手が挙がった。MAHさんはその中から「お前早かったよな」と1人の少年を指名し「上がって来い! ! 」と声をかけた (その後に「なるべく早めにな」と優しく付け加えたあたりにも、コワモテだが人当たりが良い彼の人となりが表れていたように思う)。
これはSiMのライブでは恒例行事なのかと思ったが、周りのオーディエンスの反応を見る限りいつもやっているわけではないようだ。ステージに上がった少年 (この彼も私の少し下か同い年くらいに見えたので、「少年」ではないかもしれない) は私の記憶が正しければ赤い文字でSiMと書かれたTシャツを着ていた。おそらく彼がライジング・サンに来た一番の理由はSiMだったのだろう。
バンドが観客をステージに上げるなんて! こんなの初めて見た、すごいことが始まった! 私は、まだ食べ終わっていなかったご飯の残りを一口で頬張り、急いで飲みこんでステージへ近づいた。
その少年がステージに上がるなり、メンバーはつい先ほどまで自分が使用していた赤と黒のギターを彼に手渡した。そしてメンバーが演奏を始めると、ステージに上がったばかりの彼はそれに合わせてすぐにギターを弾き始めた。それを聞いたMAHさんが「お前上手いな! 」と驚いていた。
彼を迎えたそのステージは素晴らしかった。少年はメンバーに合わせて見事に演奏をこなすだけでなく、お立ち台に乗って観客を煽ることまでしている。これは咄嗟に出来ることではない。SiMのTシャツを着ていたSiMの大ファンであろう彼は、SiMが好きで何度もギターをコピーしていたに違いない。 そしてその振る舞いを見ている限り、SiMのコピーバンドを組んで何度もライブをしたことがあったのではないだろうか。憧れのバンドのメンバーと一緒に大きなステージに立った彼は、終始楽しそうに演奏をしていた。見事に1曲の演奏を終えた後、名前を聞かれた彼はカズヤと名乗っていた。

カズヤ君を迎えた演奏が始まった後、どのタイミングだったか、ステージに上がった彼に向かってMAHさんが「これがライジング・サンの景色だー! 」と叫んでいた。
ライジング・サンだけではなく、どんなに大きなフェスのステージでも、どんなに小さなライブハウスのステージでも、そこから見える景色は出演者の特権であり、観客である私たちが簡単にお目にかかれるものではない。彼が招かれたSUN STAGE はライジング・サンの中で一番大きなメインステージだ。それも大好きなバンドからそこに招かれ、その上で大好きなバンドの曲を大好きなバンドのメンバーと一緒に演奏したのだ。彼はどれだけ嬉しかったことだろう。
しかし何より、そのステージを作り上げたSiMの心意気に心を打たれた。ライジング・サンのメインステージは、彼らが自分たち自身の力で昇りつめた大きな晴れ舞台なのだ。そこに自分たちのファンを快く上げ、大切な楽器を貸し、限られた持ち時間を使って一緒に演奏をする。SiMはなんて心が広いんだ。
シャウトしまくるのにメロディアス。コワモテなのにユーモラス。そして何より、ファンと一緒に、最高に楽しい時間を作り上げることに一生懸命。そんなライブを目の当たりにして完全にSiMのファンになってしまっていた私は、最後にもう一度MAHさんが投げかけた「今日は誰を見に来たーーー! ?」という問いに、「SiM―――! ! ! 」と手を上げて答えていた (最初にMAHさんが言っていた通り、本人の前だったから、というのも多少はある)。

ほとんどの人にとって、あるアーティストを好きである要因として一番大きなものは、やはり「曲が好きであること」だろう。私もそうである。しかし私はこの日のSiMのステージを見て、アーティスト本人の人となりやライブのスタイルに魅力を感じるいうこともそのアーティストを好きになる要因として充分理由になるものであると改めて感じた。現に私はカズヤ君を迎えたあの日のSiMのステージに魅了され、あの時間が忘れられないものとなり、こうしてこの文章を書きながら、あの瞬間を思い出すために、あの日までは全く聞いたことのなかったSiMの曲を聴いている。 カズヤ君を迎えて演奏したあの曲のタイトルが「KiLLiNG ME」だということまで知っている。
数多くのアーティストが集まるフェスという場所は、今まで全く触れてこなかったアーティストに気軽に触れることができ、不意打ちでその魅力に気付くことが出来るという点でやはり素晴らしい。
SiMのステージが始まる前にたまたま会場で出会った、急いでSiMのステージに駆け出して行った彼はこのライブを見て何を思ったのだろうか。彼に再び会うことは無いだろうが、君が楽しそうにしていたお陰で私はSiMに出会えたよ、と心の中で感謝を伝えておく。

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