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BiSHという名のヒーローの存在

音楽シーンを疾走する6人について

 この時代に生まれて良かった、と心から思う時がある。そのうちのひとつが、ストリーミングや動画サイトなどで音楽を貪るように聴いている時だ。膨大な量の楽曲から自由に選んで好きなだけ再生することができるこの環境は、まるでたくさんの料理が並ぶビュッフェである。気に入ったものがあれば何十回でも何百回でも聴くことができるし、気に入らないものはスキップボタンひとつで飛ばすことができる。多種多様な世界中の音楽と出会えるこの環境をつくってくれた人達には、感謝どころか畏怖をも覚えるくらいだ。

 2年前の私は、ストリーミングのスの字も知らない小僧だったので、YouTubeという名のビュッフェを頻繁に利用していた。YouTubeで音楽を楽しむ場合には、楽曲の世界観だけでなく、それを歌うアーティスト自身の世界観も映像を通して感じ取ることができる。また、観ている動画の関連動画が下に表示されるため、半永久的に動画を楽しめてしまうのがYouTubeの長所であり、短所でもある。
 いつものように様々なアーティストの楽曲から楽曲へのワープを繰り返していたときに、私は偶然彼女らの楽曲に辿り着いた。それは関連動画の中にあった彼女ら=BiSHの「オーケストラ」だった。それはもしかすると偶然ではなく必然だったのかもしれない。
 荘厳なバイオリンの音色とそれを迎えうつかのように激しく打ち込まれるドラムから生み出される重厚な演奏を背に、彼女らは力強く歌い上げる。当時、この「オーケストラ」はネット上で話題となり、この楽曲をきっかけにBiSHにハマる人を指す“オーケストラ新規”という言葉が生まれるほどの名曲だった。私もその一人だった。わずか数分のうちに、私はBiSHという謎の存在に強烈に惹きつけられてしまったのである。

 2015年のグループ結成から脱退・加入を経て、現在のBiSHはセントチヒロ・チッチ、アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人で活動している。
 「新生クソアイドル」、「楽器を持たないパンクバンド」の2つのキャッチコピーを掲げており、私はその両方がBiSHを見事に表現しているものだと思う。キュートなルックスからは想像できないような過激な歌詞やMVを堂々と披露するその姿はまさに「クソアイドル」であり、そんな歌詞やMVに添えられるエモーショナルな演奏は激しいドラミングのものが多く、メロコアやパンクロックなどに分類される。
 そんなBiSHは現在、とてつもないスピードでスターダムへの階段を駆け上がっており、国民的音楽番組である「ミュージックステーション」への出演を果たし、今年の5月には自身最大規模となる横浜アリーナに一万二千人を動員し、ワンマンライブを成功させた。

 では、なぜBiSHはここまで人を魅了するのだろうか。それは、彼女ら6人全員がもつアイドルとしてのポテンシャル、そしてパンクバンドとしてのポテンシャルの両方が非常に高いということが関係していると私は考える。これはずっと私の頭の片隅でぼんやりと考えていたものだったが、生のBiSHを目の当たりにすることで、そのぼんやりとした考えが確信に変わった。

 前述した横浜アリーナの公演が収められたDVDの発売を記念して、タワーレコード渋谷店でリリース記念イベント・ミニライブを行うという発表があった。私はその横浜アリーナ公演には行けず、初めて本物のBiSHを体感できるということもあって渋谷へ足を運んだ。地下一階のイベントスペースは、年齢、性別を問わずBiSHのファン=清掃員で溢れかえっていた。フロアにいる全員が、一秒一秒を噛みしめながらBiSHの登場を心から待ちわびていた。
 熱気で満たされたフロアに流れるBGMのボリュームが一瞬大きくなった後、わずかな静寂を経て6人がステージに現れた。次の瞬間、重厚な激しいサウンドが会場を支配し、清掃員たちはけたたましい雄叫びを上げるとともにステージに押し寄せた。その勢いは凄まじく、パンクバンドのライブそのものだった。清掃員たちが押し寄せるフロアの前方は、まるで満員電車のようだった。

『あの日の僕らは 君の妄想をかき混ぜて 
 孤独なスターを夢見てたんだ
 そううまくいかずに 箱の中でもがいて
 ハッピーエンドを探してた ヒーローに憧れて 謳ってた』〈ヒーローワナビー〉
 
 6人にとってのハッピーエンドとは何なのだろうか。ヒーローとして、BiSHとして活動できているということが既に彼女らの人生の終着点なのかもしれないし、もし仮にBiSHに終わりが訪れたとしても、その散り際にはとてつもないことをやらかしてくれると信じている。BiSHを生み出し、奇想天外なプロデュースを連発して躍進のキーマンとなった敏腕プロデューサーなら、何か仕掛けてくれるに違いない。終わって欲しくないという想いが第一にあるが、散り際にも期待してしまう自分がいた。

 力強い歌声が響く中、フロアでは荒波のように激しいモッシュが起こり、盛り上がりは衰えることを知らないようだった。ここで興味深かったのが、モッシュとともに叫ばれるコール、いわゆる合いの手である。パンクバンドのライブで起こるモッシュとアイドルのライブで叫ばれるコール、その2つが見事に融合していた。ステージに立っているのはパンクバンドでもアイドルでもなく、BiSHという唯一無二の存在だった。

 興奮冷めやらぬまま、「ヒーローワナビー」や「ALLS」など4曲を披露し、ミニライブは終了した。6人は次の日にも大きなライブを控えていたが、そんなことはお構いなしといったような全力のパフォーマンスは圧巻だった。さらに、この日のイベントはまだ終わりではなかった。DVD購入者への特典会として、サイン会とチェキ会が行われたのだ。終わりの見えないほど長蛇の列が並ぶ中、サインやチェキ撮影に応じるその表情に先ほどまでの険しさはなく、終始自然な笑顔で清掃員たちと接していた。このときのBiSHは、誰がどう見てもアイドルそのものであった。

 次の日のライブには行けなかったので、代わりに横浜アリーナ公演のDVDを観ることにした。
 「TO THE END」と銘打たれたこの自身最大規模のワンマンライブは、6人にとって挑戦であり、さらにステップアップするための足掛かりでもあった。これまでのBiSHの集大成といったような珠玉のセットリスト、22曲を次々と繰り出す姿は会場の清掃員たちを震わせ、奮い立たせるものだった。画面を通して観た私も、BiSHが創り出す圧倒的な世界観に飲み込まれ、横浜アリーナに実際にいるような錯覚を覚えるほどだった。
 映像を観ていて、私はまたひとつBiSHが他のアイドルグループと一線を画しているポイントに気づいた。彼女らの楽曲は、6人全員で歌うパートが極端に少ない。このDVDに収録された全22曲の中でも、6人全員で声を揃えて歌っているのは僅か数フレーズだった。一人ずつが入れ代わり立ち代わり歌う、というのがBiSHのスタイルだった。これは、6人全員が確かな歌唱力を持っていることを証明するものであり、だからこそ私たちはその歌声に心打たれるのだろう。

『ありのままでいいのかな??
 何億光年悩めばいいのだろう??』〈HiDE the BLUE〉

『今までちゃんと僕は 間違わずにいれていますか?
 正解なんてないのはきっと 分かっているはずだけど』〈JAM〉

『BiSHだって目を閉じては 現実に怯えていたな』〈PAiNT it BLACK〉

 アイドルでもパンクバンドでもないBiSHという唯一無二の存在であるがゆえに、彼女らには常に不安がつきまとっていただろう。過激な歌詞やMVだけを売りにしていたとしたら、ただの飛び道具や一発屋になってしまう。しかし、彼女ら自身や彼女らの楽曲には他にも魅力がたくさん盛り込まれており、そこに足を一歩踏み入れてしまうと容易には抜け出せない。アイドル好きもロック好きも引きずり込まれてしまうBiSHの魅力が、メディアを通じて多くの人々にだんだん認知されてきている。彼女らは決して間違ってなどいない。

『どんなとげとげの道も 僕らは乗り越えていくんだし
 困難裂いて 過去は忘れ 晴れた明日へと 行こうぜ』〈beautifulさ〉

『できることから やっておきます
 だから一生後悔ない』〈GiANT KiLLERS〉

『世間魅了の爆弾 投げ込むぞ 避けんな
 ただね 見つけて欲しいんだ 前代未聞の様
 誰も止めること出来ない 戻られない』〈ファーストキッチンライフ〉

 モモコグミカンパニーはこの公演の最後に、「BiSHはこれからが力の見せ所」であると言った。横浜アリーナは彼女らにとって、通過点のひとつでしかないのだ。BiSHはこれからも、私たちの度肝を抜くようなことを次々とやってくれるだろう。それらは今よりもさらに多くの人を魅了し、BiSHという存在がより強固なものになっていくはずだ。
 そして先日、今年の10月から始まるツアーの最終公演を幕張メッセで行うことが発表された。横浜アリーナを大きく上回る約二万人規模でのライブだ。彼女らの勢いは凄まじい。どこまで大きくなっていくのか、私たちも同じスピードで彼女らについていかなければならない。

 セントチヒロ・チッチは言う。「私たちの音楽が、あなたや誰かの生きる糧でありますように」。BiSHの楽曲から生み出されるエネルギーは膨大なもので、私を含めたくさんの人々がそのエネルギーを享受して日々生きている。私はBiSHという存在に出会い、飲み込まれ、彼女らの疾走を一緒に体感できているということがとても嬉しくて、とても楽しい。

『きっと巡り合った僕らは奇跡なんだ
 どれだけ話せばわかってくれる?』〈プロミスザスター〉

 セントチヒロ・チッチ、アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D。奇跡的に巡り合ったその6人全員が魅力的な個性、魅力的な歌声の持ち主であり、一人として欠けてはならない。

 私たちにとって、BiSHとはヒーローである。どんな時も音楽を通じて、私たちを救ってくれる存在だ。

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