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2017年5月・月間賞 最優秀賞 | 2017年4月28日

月の人 (23歳)

『光源』が照らす新たな次元

Base Ball Bearが再び"君"と出会う時

ふとした瞬間に思い出す過去の自分が触れた忘れがたき出来事たち。今に至るまで輝き続けているものあれば、既にくすみきったもの、決して見ないように脳の隅っこへ押しやったものもある。そのシーンが頭によぎるたび、心はざわめいたり、ときめいたり、怒りに震えたりする。たった一秒でも心に深く刻まれた記憶は消されることなく自分の中に蓄積されていく。

Base Ball Bearがかつて何度も瑞々しく歌い、パブリックイメージとして根付かせた青春の光と影。それに紐づく絶対的な”君”の存在というモチーフは、そういった忘れがたき記憶に接続できる美しさがあった。彼らが2000年代ギターロックシーンにおいて異端であり続けた要因もそこにあった。

刹那的だからこそ見えるかけがえなさや終焉の時が近づいて覚える儚さ。若き日のベボベが音楽として記録した青春の映像たちは、バンド自身の衝動を形にした瞬間芸術だった。僕たちは記憶や理想をそこに重ね合わせ、楽曲に思い出を結びつけながら、ベボベに引き込まれていった。

そして僕たちが記憶を過去のものとして徐々に受け止めていくように、ベボベもまた活動を続ける中で、その青春性からゆっくりと距離を置き始めた。分かりやすいバンドのイメージである青春にとどまることをせず、”君”への想いを胸に隠し持ちながらも、着実に大人になることを選んだのだ。

考え方や生きる姿勢と同じように、表現もまた歳を重ね変わっていく。次第に、ソングライター小出祐介の現在進行形の私小説を極めた「新呼吸」「二十九歳」、世界・社会を冷静に見つめた「C2」といった現実を直視する作品群が生まれていった。これらのアルバムを聴けば、バンドとしても表現の方向としても納得できる躍進をベボベが遂げたということがよく分かる。

ところが2016年春、15年間メンバーとして活動してきたギタリスト湯浅将平の脱退という思いもよらぬ出来事に見舞われた。4人組のBase Ball Bearの順調な成長は、そこで突如として打ち切られる。ギター2本、ベース、ドラムという編成にこだわり、追い込むように作風を磨いてきたベボベにとってはバンドの在り方を根底から覆される出来事だった。

その別れを引き金に、バンドは生まれ変わった。生まれ変わらざるを得なかった。各パートの存在意義を再検証し、グルーヴを再構築する。かつてバンドが歩んできた進化の痕跡をもう一度確かめながら、ベボベ自身を見つめなおした。

そのようにしてBase Ball Bearを徹底的に究明する最中で、彼らの原点であり最大のイメージである”青春”というテーマへと再び視点が向かったのは自然なことだろう。遠い過去となったその日々に大人になった彼らは改めて挑んだのだ。

その結実として完成した7thアルバム『光源』には演奏楽器の鉄則から離れた自由なアレンジを謳歌し、”2周目の青春”というテーマを引き連れながら、ここに至るまでのバンドの精神的なドキュメントとしての側面までも持った珠玉の8曲が集った。

アルバムの主題である”2周目の青春”を最も分かりやすく楽曲化したのがリード曲「すべては君のせいで」だろう。かつてより鮮明な色遣いで、青春の影・それゆえに強まる光をきらびやかなポップソングに映し出している。”君”の存在こそが僕のすべて、というベボベの心臓部にあるような思考をアップデートした1曲だ。あの日覚えた感情がまたしてもベボベによって沸き起こされ、くすぐったい気持ちになる。

一方で、「SHINE」では”君”を神と崇めるようなかつてに近い描写と共に、いつしかその幻想が打ち砕かれその事象が大人になって尚もフラッシュバックする様までもが合わせて歌われる。青春の痛み、”君”を信じたが故の苦しみとも正面から立ち向かい、トドメを刺すことを選んだのが2周目における彼らの表現だ。

2周目だから出来る”青春のやり直し”を想像させるような場面もある。ソングライター小出祐介がスクールカーストの頂上から転げ落ちたことをきっかけにベボベが生まれた歴史があるわけだが、「リアリティーズ」はそもそものスクールカーストという概念を失くそうとする祈りの歌だ。

ベボベがかつて青春を圧倒的な輝度で活写していたのは、その頃の小出祐介が生きる現実に伴った闇を振り切るためでもあったのだと思う。今回収められた「寛解」では、清廉なエレピの旋律に乗せ、混沌とした青春の呪いを浄化させようとしているように聴こえる。

青春のやり直しを想像することで、様々な”もしも〜だったらの世界”が楽曲の中で広がっていく。「Low way」は前作収録の「不思議な夜」と同じシチュエーションで、”もしも一緒に帰る相手がいなかったら”、という世界線の曲だ。「Low way」はバンド史上初のブラスを取り入れたメロウチューン、「不思議な夜」は切ないギターロックと楽曲そのものも全く異なる様相を呈し、パラレルワールドを見事に演出している。

「(LIKE A)TRANSFER GIRL」は過去作収録の「Transfer Girl」「転校生」のシリーズpart.3に位置づけられる。前2作とは異なる大人びた恋模様が展開されるこの曲は、どこでいつ”君”と出会い、どんな関係を築くのかというボーイミーツガールにおける永遠の試行錯誤を、ずらした時間軸の中で再び向き合っている。

『光源』は全編を通して、歌詞において「記憶」や「戻らない過去」を振り返ったり、「もしも〜であったら」や「並行世界」を題材にしたりしながら、青春と対峙している。それらは湯浅将平の脱退で生まれた3人のベボベが呼び寄せた必然的な要素なのだろう。4人だった過去、そして4人のまま活動が続いたかもしれない未来に思いを馳せることは、今作の歌詞で紡がれる事象とそこはかとなくリンクする。

しかしそれと同時に、3人になったからこそ出せるグルーヴや新たなアレンジの導入も圧巻の仕上がりである。これもまたこの状況になったからこそ到達できたステージだ。『光源』はまさに、今この次元に存在するベボベにしか鳴らせない必然と確信に満ちた作品なのだ。

状況に対し、運命を受け入れるという気迫にも似た感情は「逆バタフライ・エフェクト」に意思表示されている。

また あの日あの時ああしてたらって
ifや畏怖が尽きなくても
あの日あの時ああしてたことが鳴り響いて
決められたパラレルワールドへ
(“逆バタフライ・エフェクト/Base Bal Bear 作詞作曲:小出祐介”)

今ここにいる3人のベボベは運命に導かれた一つの正解なのだと力強く歌われる旅立ちの1曲。3つの楽器がそれぞれ互角に主張しあいながら、互いを支え合う完全無欠な演奏を聴けば、3ピースバンドとしての堂々とした誇りが明快に伝わってくる。

アルバムは「Darling」という曲をラストにして終わる。どれほど願っても戻らない季節があり、どこを探しても出会えない”君”がいる。しかしふとした瞬間に五感で記憶したその煌めきが胸に蘇り、たった一秒その瞬間を思うだけで、今を生きるための大切な御守りになる。出会いと別れを受け入れ、心を前に進めるための決意を噛み締めたエンドロールに相応しい楽曲だ。

小出祐介は自らの表現の起点となった青春時代を指し、このアルバムを『光源』と名付けた。呪い渦巻く現実から突破するために空想と妄想を駆使して書き綴ったかつての青春譚ではない。今ここにあるありったけの現実感までもぶつけて完成したこの作品に宿る青春はより多くの人の心に届く普遍性を持つ。

そしてこの傑作『光源』を起点とし、再びベボベも新たな次元へと歩み始める。置かれた状況を作品の中に落とし込んで完璧に回収する。アーティストの鑑のような佇まいを今の彼らは放っているのだ。

やりきれない後悔や巻き戻したい過去はいつだって僕たちの日常にもつきまとい、時に暗い影を落としたりもする。自分の今立たされた現在位置を思い悩み、選択肢を間違えたのでは?と考え続けてしまう日も沢山ある。『光源』はそんな僕たちの胸の内に温かな輝きを灯してくれる。心に秘めた思い出にそっと寄り添う優しさがある。バンドの歴史、個人の物語を余すとこなく結晶化し、リアルを体現したこのアルバムは、いつまでもどこかの誰かに救いを与え続けるだろう。

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