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夢にまで見た景色のあとで

THE ORAL CIGARETTESの歩みをSLSと辿る

8月30日午後6時
わたしはすでに自宅を出発し、最寄りの駅から新幹線に乗っていた。行き先は新大阪駅。人生初の夜行バスに乗るためだった。
イヤフォンから流れるのは、これから見に行く大好きなロックバンド。長い長い旅だって、彼らの音楽があればなんてことはなかった。

「死ぬまでに一度でいいから、絶対にラブシャでオーラルが見たい。ラブシャでエイミーを聴きたい」

そう言い続けていたわたしが、その一度を今年に選んだのは、今年が学生最後の夏だという事実は大きかった。来年からは就職が決まっている。毎年3日間の開催である、働き始めたら日程調整は今より格段に難しくなる可能性は高い……。
山梨県は遠い。移動だけで時間もお金もかかる。3日間のフェスのチケット代はバカにならないし、宿泊だってしなくてはならない。 今までは日程的にも金銭的にもかなりきびしかったけれど、今年はもう、そんなことを言ってはいられないのではないか。
そうして5月のわたしは、通帳の残高やアルバイトの給料明細とにらめっこしながら、意を決して申し込みボタンをタップしたのだ。

家を出てから約12時間、慣れない夜行バスに戸惑い若干苦しみながらもようやくたどり着いた山中湖。富士山の向こうに見上げた空は、見事なまでの快晴だった。

友人と合流して初めての土地に興奮しつつ各ステージやブースをひとしきり楽しみ、日が傾きかけた午後17時50分。
待ち望んだその時が、ついに訪れた。

モニターがカラフルに切り替わり、アーティスト名が高らかにコールされる。
鳴り響く重低音、縦横無尽に旋回するスポットライト、急激に熱量の増すフロア、ステージへと伸びる数多の手。
悠々とステージ上に登場する4人へ、例に漏れずわたしも両手をまっすぐと伸ばし、力の限り叫んでいた。

「お前らわかっとるよなあ?」
にやりと笑みを浮かべ、vo.山中拓也がお立ち台に足をかける。
「もうラブシャは俺らのホームっしょの回を!」と恒例の4本打ちで声高に開幕を宣言した直後、始まったのは新曲「容姿端麗な嘘」。ba.あきらかにあきらのスラップを合図に、会場は一気に熱狂のダンスフロアと化す。「トリ前って力抜かれがちなんですよ!俺らで体力使いきらせてやる!」と冒頭で挑発した通り、続けざまに今夏各地のフェスで初披露している新曲「What you want」を繰り広げていく。ステージの上で舞うように挑発する山中拓也に負けず劣らず、観客も踊り続ける。ただ盛り上がるだけの、暴れるだけのオーラルはここにはいない。
直後、舞台の照明は一気に落とされる。冷たく、しかし観客のボルテージをさらに引き上げるだけの熱量を持って、ステージにはドアが軋み、地面を叩く靴音が響き渡った。誘うように「マナーモード」と囁いた彼から、もう誰も目を離すことはできない。
そして続いたのはフェスではやや珍しい「エンドロール」だった。先ほどとはうって変わった柔らかく切ない表情で言葉を紡ぐ姿に、会場は静まり返る。山中拓也のボーカルとあきらかにあきらのコーラスが美しく畳み掛け、ラスサビへと移り変わった時わたしは、2017年6月、彼らの”1回目の”日本武道館公演を思い出していた。

「俺は、今ここにいる人たちの最期に、自分の名前を刻みたい!」あの日の生の記憶ともう全編覚えてしまうほど見たDVDのおかげで、その瞬間もわたしの脳裏であの声は大きく響いていた。

一息ついた後、ここ最近のバンドの出順に関して自分たちへの挑戦状だと再びフロアを沸かせたオーラルは、お馴染みのキラーチューン「カンタンナコト」「BLACK MEMORY」「狂乱 Hey Kids!!」を立て続けに投下する。思い思いに踊り、歌い、飛び、完全に息の上がったフロアの中、ふと見上げたステージには、満足気な表情で静かにギターを構える山中拓也がいた。

「やっぱりこの曲、やらせてください」

語りかけるように鳴らすその音は間違いなく、間違いなくわたしがこの場所で聴きたかった、その曲のもので。

やるであろうことはわかっていた。
そんな予定調和的な展開は正直あまり好きではないけれど、でもどうかこれだけは違うと言わせてほしい。だってわたしは、その曲を聴くためにここまで来たといっても過言ではなかったから。
「エイミーという曲です、ありがとうございました、THE ORAL CIGARETTESでした」
gt.鈴木重伸がイントロのメロディーを紡ぎ始めた途端、走馬灯のように目の前を映像が駆け巡った。
 

声帯ポリープと、その治療のための活動休止を発表した2015年。崩れ落ちたあの”7月の夜”を無理矢理に乗り越えたオーラルは、このフェスで集まったファンにそれらの事実を告げた。
「今しか聞けない声、全力で届けて帰るから!聴いて帰って!」と力の限り叫ぶ姿と、

『愛しき人よ 僕の声は君に届いてますか?』(エイミー)

続けてそう歌に乗せて訴えたあの瞬間。
大きな目にうっすらと涙を浮かべながら「帰って来たよ」弾けるような笑顔で言い放ち、大きく息を吸って歌い出す2016年のあの表情。
ついにMt.Fujiステージのトリを任された翌年、
「前ばっか見ててもしんどくなるよ。後ろ振り返ってもいいよ」
そう語りかけ、多くの人の背中を押した2017年の堂々たる圧巻のステージ。
わたしにとっては、全部全部、画面越しに見てきた光景だった。

そして今年、彼らの舞台はLakeSideステージに移り、わたしは画面の向こうでなく、彼らの見る景色の中に立っている。その事実に、ただただ胸がいっぱいだった。正直苦しいほどだった。
ここに立つオーラルをやっとこの目で見れた、ここで鳴る「エイミー」をやっとこの耳で聴けた。真っ白に4人を照らすライトはあまりにも眩しすぎて、気がついたら涙が頬を伝っていた。伸ばした右手の震えは、曲が終わっても止まらなかった。

最後の一音が夕闇に溶けると、dr.中西雅哉もドラムを降り4人は揃って頭を垂れる。深く長いお辞儀に対し、賞賛や、感謝や、さまざまな意味をもった拍手はなかなか鳴り止まない。
何度も「ありがとう」と感謝を投げかけ、舞台袖へとメンバーが去っていく中、ひとり残った山中拓也の手元がスクリーンに大写しになる。その右手がゆっくりとギターのボリュームを落とし、刹那の無音が訪れた瞬間、再び大きく温かい拍手が会場中を包んだ。

「頑張っている人を馬鹿にしないように。ありがとうやごめんなさいを、きちんと言えますように。当たり前のことやけど、人間、それが一番大事なことなんかもな」
曲の合間、観客に向けてというよりは、自分に言い聞かせるかのように噛み締めていたことばを、わたしは今も何度も反芻する。

これといった趣味のなかったわたしの人生を変えたのは間違いなく音楽だったし、ここまでにわたしの心臓を掴んで離さず、隣県を飛び越え各地のライブハウスへ通うほどわたしを突き動かしたのは、オーラルが初めてだった。その音楽に、その言葉に、その姿勢に、何度も救われ、背中を押され、力をもらった。
大好きなオーラルが大事にしているフェス、当然わたしが大好きにならないわけがなかった。
 

「一度でいいから、ラブシャでオーラルを見たい」
そう言っていたわたしは宿への帰り道、一緒に歩いていた友人へこう言った。

「わたしもう1回、ラブシャでオーラルが見たい」

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