208 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年5月1日

フナムシ (37歳)

星野源とYELLOW DANCERが変えた景色

もう一度開かれた音楽の扉

あの頃の私は、子育て中心の生活だった。
家の中には子供の好きな音楽ばかり流れていたし、
もう自分自身は10代の頃のような気持ちで音楽にときめくことなんてないと思っていた。

カラオケに行けば、最近の曲は分からないので時代別検索で90年代のヒットソングを選ぶ。
音楽番組のランキングはアイドルグループが席巻していたが、「ああいうのは若い人達の音楽」だと決めつけてあまり真剣には聞かなかった。

ラジオから流れてくる音楽に心が動くこともあったけれど、せいぜいCDをレンタルしてくるくらいで満足していたし、忙しさにかまけて、ほとんどの音楽を通り過ぎてしまっていた。

そんな私が、2016年1月1日、10年ぶりくらいに自分のためにCDを買った。

星野源 4thアルバム 「YELLOW DANCER」

元旦早々にCDショップに駆け込んだのは、
大晦日の紅白歌合戦で「SUN」を歌う星野源と出会ったからだ。
ドラマやラジオなどで存在は少し認識していたが、音楽はじっくり聞いたことがなかった。
なにせ、10年以上音楽を楽しむ心を忘れていたのだから無理もなかった。

「SUN」を聴いて、30代で初めて音楽に心を鷲掴みにされたような感覚になり、2015-2016の年越は、一睡もせずにyoutubeで星野源のMVや関連動画を繰り返し視聴していた。その世界観に釘付けになった。
俳優としての魅力や、彼の人間性への興味もあったが、やはりこの人の作る音楽にとてつもない興味が湧いた。

元旦早々購入した「YELLOW DANCER」を自宅まで待てずに車内で聞いた。

「クラブ」よりも「ディスコ」という言葉の方がしっくりくるような、いつの間にか身体が動いてしまうようなリズム。
スネアのキレの良い響きと、その後の不思議な余韻。
微かに和のテイストを感じる馴染み深いメロディライン。
どこかオリエンタルでエキゾチックなマリンバの響き。
壮大かつどこか狂気じみたストリングス。
言い方はアレだが、「内臓に響く」ようなベースライン。
「普通じゃない」とか「滅茶苦茶な」、という表現しか思いつかない、なんか妙なコードのキーボードやピアノライン。
ソウルフルかつ都会的でセクシーなホーンセクション。
とんでもなくエロいコーラス。
個性的でセクシーなファルセット。

どれもこれもが計算され尽くしているように感じた。
これまで聞いたことのない音楽だった。
音楽に明るいわけじゃなかったので知らなかっただけかもしれないけど、私の知っている他のどんな音楽とも違っていたし、似ていなかった。

10年以上音楽を楽しむ気持ちから離れていた私は、
自分の中に音楽で高揚するハートが残っていたことに静かに興奮していた。

どの曲にも、サビの高揚に合わせて青春要素や恋愛要素をメガ盛りにして泣かせてやろうという押し付けがましさが全くなかった。

「音楽は若者のもの」
誰が決めたわけでもないのに、勝手にそう決めつけていた自分の頭を撃ち抜かれたようだった。
これなら、私でも踊れるし楽しいじゃん。

俺の歌で感動したまえという、歌唱力の押し付けがましさも感じない。
良い声の俳優さんが、詩を朗読しているのを聞いているような感覚に近い。
 

歌詞の響きはすごく素敵なのに、
声だってすごく良いし好みなのに、
全体として歌や歌詞が楽器が奏でる音のひとつひとつを全く邪魔していないのだ。

全部の音が聴こえる気がした。

音楽が生きている、と感じた。

にもかかわらず、メロディラインにはちゃんと個性があって、
ちゃんと「歌モノ」として成立していた。
(つまり、カラオケで歌いたい感じ!)

どこかでJ-popはまず感動させる歌詞ありきだと思っていた私には、
あまりにも衝撃的な一枚だった。

凄い。

ふつふつと、高揚感が身体を支配する。
身体が勝手に動く。ワクワクする。

この高揚感は、 17歳の時、先輩にもらったCDで初めて小沢健二に出会ったときの衝撃に似ている。
「球体の奏でる音楽」というアルバムだった。

オザケンと星野源の音楽性が似ているわけではないけれど、誰とも似て居ない、聞いたことのないジャンルの音楽に出会えたときの高揚感があった。

当時はカラオケ全盛時代。
しかし「球体の奏でる音楽」というアルバムは、
テレビで流れているボーカリストの圧倒的歌唱力で聴き手の心を鷲掴みにするようなタイプの音楽ではなかった。
当時は「渋谷系」という表現はあまりしっくりこなくて、聴き手に「仲間に入りなよ」と語りかけるような音楽だと感じた。
楽器のひとつひとつが活き活きと楽しそうに音を奏でていて、それぞれが音の海の中で絶妙なバランスを保ちながら、ジャズのようで、Jpopのような、当時はどこにもなかった世界感を表現していると思った。

何よりも初めて聴いた時の感想が
「あ、この人たち楽しそう」と思ったのだった。
文字通り、ワクワクしたのだ。
オザケン1人じゃなく、そこにいるメンバー全員が楽しそうだと感じた。

「あ、この人たち楽しそう!ワクワクする!」
音楽の方向性は違うけれど、同じことを
「YELLOW DANCER」の中にも感じた。

YELLOW DANCERを手にして1年半近くが経つけれど、全く飽きないし、いつ聴いても何度聴いても楽しいし、身体が勝手に動くし、ワクワクする。

それは、大好きなブラックミュージックとJ-POPのどちらの要素も譲れない作り手が、
心底音楽を楽しんでワクワクしながら作っているからだと思うし、
それを聴いて自分もワクワクできる事が心から嬉しい。
 

2016年、桜の季節を過ぎた頃には、私は積極的に色んな音楽を聴くようになっていた。

あるとき星野源の過去のアルバムをいくつか聴いてみると、全く印象が違った。
カントリー風の曲調や、あるストーリーがあって、その1シーンを切り取ったかのような叙事的かつ写実的な独特こ歌詞の世界があった。
へぇ、こんな曲も書くんだ、と新鮮な驚きを持った。

病気療養を経て、音楽性が全く変わったというレビューを見て、なるほどね、と勝手に納得していた。
 

さらにその後何ヶ月か過ぎ、ツアーYELLOW VOYAGEの映像作品を見たとき、「湯気」という曲に出会った。
「湯気」は星野源のファーストアルバム「くだらないの中に」のB面の1曲。
このシングルのB面はどれも名曲なのだけれど、
「YELLOW DANCER」を聴き倒した後にこの「湯気」に出会った私は戦慄が止まらなかった。

「YELLOW DANCER」につながるソウルとかブラックミュージックの要素とJpopを融合させようとする試みが、ファーストジングルの頃から星野源のなかにあったのだ。
曲全体がステイする感じ、スネアの響きや、clapの入れ方、歌詞が写実的な点も含めて。
私の勝手な解釈だけれど、星野源の中で「YELLOW DANCER」につながる一番最初の曲と言えるのではないか思う。

注意深く他の曲も聴いていくと、
2ndシングル「フィルム」のB面の「もしも」や
2ndアルバム「エピソード」の収録曲「ステップ」にも
ブラックミュージックに通じるステイするような感覚を感じた。
「YELLOW DANCER」のようなキャッチーで一発で覚えるメロディラインではないし、JPOPとしては少しパンチが弱いかもしれない。
だけど、うまく言えないけれど、なんとなく同じような匂いを感じたのだ。

そう言えは、星野源が2011年1月に
「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」に「スーパースケベタイム」というラジオネームで、偽名で応募し見事優勝したというジングル。
あれにはYELLOW DANCERに続く世界観がハッキリとある。

星野源は変わったんじゃない。
ずっと続いていたんだ。
ずっと前からこれがやりたかったんだ。
それが、ちゃんと昇華できたんだ。

それに気づいた時、
もう一度「YELLOW DANCER」を聴きたくなった。

「やっぱりこの人たち、すごく楽しそう!」
「やっぱり何度聴いても、すっごくワクワクする!」

前よりも強く、そう思った。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい