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スーパーヒーローにはもうなれない

Foo Fightersに生かされている

 
平成最後の夏は訃報が多かった。こんな言い方は失礼だけれども、正直ニュースを見て確認するたびにアーティストではないこと、自殺じゃないことを見て、ホッとする。そういう癖がついた。毎日楽しく生きている裏側で、いつも怯えている。

音楽ファンは、特に洋楽が好きだとどうしようもなく、突然誰かがいなくなることから逃れられない。明日も同じようにいると信じていた大好きな人が、突然いなくなってしまうことが避けられない。それは当たり前のことだけれど、日常的に警戒しなくていいことのはずなのだ。

最初にいなくなったのは、Nirvanaのカートだった。カートと私の時間は一年しか交差していないけれども、好きになって彼の現在を知ろうと検索をして初めて、この人がいないと知った。その瞬間に好きな曲が全部色褪せるようで、同時にもう二度と新しいものが更新されないという恐怖を味わった。それまでのワクワクと期待に満ちていた気持ちがすっと萎えて、そうか〈次〉は起こりえないのかと実感するしかなかった。

次はRed Hot Chili Peppersのギタリスト、ヒレル。次はThe Beatlesのジョージ、デヴィット・ボウイ、Deftonesのチ・チェン、Temple of the Dog(Soundgarden)のクリス。そしてLinkin Parkのチェスター、今年の春はAviciiもいなくなってしまった。

好きになった時、すでにいない人もいれば好きになってからいなくなってしまった人もいる。喪失感は同じで、いつも同じことばかり考える。次がない、いなくなってしまった人には次がなくて、新しいものは生まれない。二度と会うこともできない。またおいていかれたんだと、思わずにはいられない。

どん底に落ちて、落ち込んで、しばらく音楽そのものが嫌いになる。自分の好きな人を殺している原因の一端が、この音楽にある気がする。そうして少し経ってから、いつも決まってFoo Fightersを聴いた。

Foo Fightersは大好きだ。何がどう好きなのか、これほどまでに言い表しがたいアーティストはいないけれども、おそらく一番好きだ。そして何よりデイヴが好きだ。だけど今まで一度も誰かに勧めたことはなかった。Foo Fightersの作り上げる音楽は、誰かと共有したいものじゃない、自分と彼らの間だけで十分になる。Foo Fightersの音楽は約束なのだ。生き続ける、存在し続ける。次を作り続ける、それを証明する。その約束に対して、誰かの共感は必要ない。

誰かにもっと知って欲しい思ったのは、9thアルバム〈Concrete and Gold〉が初めてだった。リリースは2017年9月15日。一年かけて聴いて、Foo Fightersがもっと好きになる。

1stからこの9thアルバムまで、余すところなくFoo Fightersの音楽は好きだけれども、これは別格だった。最初のT-Shirtの温かいメロディから始まって、Runの昔ながらのFoo Fightersの音楽が蘇る。1st、2ndで作り上げてきた確固たるグランジロックのサウンドの格好良さと、Foo Fightersが22年かけて作ってきた厚みと温度のある柔らかいサウンドの良さが両方合わさった出だしで、そこだけでもう堪らなく好きになった。

前作、Sonic Highwaysでも十分だと思っていた。あれを聴いた瞬間、完全体だと感じたからだ。8thアルバムまでの過程で、散々Nirvana時代と比べられながら、既存のグランジと新しいFoo Fightersの音楽と、それぞれを混ぜ込みながら苦労した末の剥き身みたいなアルバムで、あれを聴いた瞬間聴き続けていてよかったと思った。Foo Fightersを好きになってよかったんだと思ったのが、8thアルバムだった。

〈There is a river I’ve found / Something From Nothing〉
〈I am a river I am your river / I Am A River 〉

Sonic Highwaysは最初の曲と最後の曲が呼応している。川を見つけたと歌うSomething From Nothingから、自分が川になる、君の川になると歌うI Am A Riverと。水脈を見つけて川をたどって、最後に自分自身がだれかの川になった。それがFoo Fightersの音楽そのものだ。多くのものを経験して吸収して、最後にFoo Fightersになった。大真面目にそれを歌う。私たちに約束してくれた存在続けることを証明してくれるアルバムで、長い時間をかけないと生まれない音楽だった。だからこれが一つの完全体なのだと、初めて聴いた時感じて理解した。

この8thアルバムは結局のところNirvanaを知っている私たちだけのものだ。デイヴは最も好きなアーティストでありながら、共にカートを失ったという人でもある。同じだけの喪失を味わっていて、そこから彼が這い上がると約束してくれた。Nirvanaがなければ、Foo Fightersは存在しなかった。存在し得たとしても、きっと今ほどの存在にはならなかった。

だから私にとって、1stから8thまでは多くの課題を乗り越えるプロセスだったのだ。Nirvanaを克服する、カートの死と向き合う、自分自身の生と向き合い音楽と生きていくことを選択する。新しい音楽を得る、作り上げる、確立する。19年かけてそういうことをしてきた。

その次の、9thアルバムだった。完全体から生まれた、次の新しいものを生み出すアルバムだった。懐かしいと新しいが交互に起きる、そして何一つ懐かしくなくて全部が刷新されたものなんだと唐突に気がつく。質が圧倒的に変わっている。知っているものの焼き直しは一つもなくて、培ってきた経験から磨き上げられた違う音楽を作っている。

知っているグランジロックだ。でも知らない音がする。それが格好良くて、良くて、長く時間を共にしていてよかったんだと思える。終わりはない、次を作り続けるとFoo Fightersの気概を感じる。

今、いろんなものが終わろうとしている。みんな、チェスターがいなくなって苦しんだ。毎年毎月、自分たちが知っていた人たちはどういう形でも消えていく。好きなアーティストは人生の後半という歳も多く、体調も芳しくなくて何かあるのがいつも怖い。

だからだ。もう誰も次なんて信じられないかもしれない時にこそ、この9thアルバムを聴いて欲しくなる。この歳になっても次に挑む、次を見せると教えるFoo Fightersに戻りたくなる。

でもFoo Fightersは全然優しくない。

〈Counting down to zero hour / Happy Ever After (Zero Hour)〉

〈Where is your Shangri la now? There ain’t no superheroes / Happy Ever After (Zero Hour)〉

ゼロに向かってカウントダウンを始める。

繰り返されるこの歌詞にどんな意味があるのか、何も考えなくても感じ取れる。デイヴも来年でもう五十歳になる。カートがいなくなってから四半世紀が経とうとしていて、みんな歳をとったと思う。今度はリアリティのある確実な終わりが見えてきている。だから、ゼロに向かっていくのだ。

ものすごく温かいサウンドで、覚悟しろと迫られた気がした。優しい音と声で、淡々と絶望が来る日を教えられる。スーパーヒーローはもういない、楽園もどこに行ったかわからない。だからゼロに向かって歩んでいく。それが現実だった。そして現実を歌い上げた最後に、もう一つの決意と希望をくれる。

〈Our roots are stronger than you know
Up through the concrete they will grow / Concrete and Gold〉
根は思っているよりもずっと強いんだ、コンクリートすら突き破って伸びていくぞ。

現実を見ろと散々言われて、もう終わりは近い覚悟をしろと散々言われた後に、でもやるだけやるさと言われるような気がする。だからFoo Fightersはスーパーヒーローじゃない。ヒーローの時代は終わって、ヒーローから生まれた彼らだからそうはならない。だけれどもスーパーヒーローじゃないから、こんな格好いいことが言える。この時代に次に期待しろと言えるのだ。

次はもう起きている。デイヴのプレイプロジェクトは、インタビューも動画も情報もアップされるごとにワクワクした。9thアルバムの後、十番目のアルバムがどんな風になるのか、それだって楽しみにできる。

デイヴ・グロールもFoo Fightersもヒーローにはなれない。でも生かされている。彼らが作り続ける新しい次の話にワクワクできるから、彼らはまだ終わらないと信じていられるから、他の誰がいなくなってもまだ生きていける。長い時間をかけて与えられたもののおかげで、彼らがゼロを迎えた時でもきっと乗り越えられる。神様みたいなものだ。だからこれからもずっとFoo Fightersが大好きだ。

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