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夜空の下の紅い野望

[ALEXANDROS]・「VIP PARTY 2018」に寄せて

劇的な猛暑を何とか掻い潜った8月16日、[ALEXANDROS]が「VIP PARTY 2018」を今年も盛大に開催した。舞台は、ツアーを含めてもバンド史上過去最大規模の会場となる、千葉県幕張・ZOZOマリンスタジアム。約8ヶ月ぶりとなる彼らの純粋なワンマンライブが初の野外でのスタジアムライブということで、会場はライブハウスともアリーナともまたちょっと違う 1つのフェスのような祝祭的でオープンマインドな空気が流れているように感じられた。

しかし、やっぱり何より心配だったのは天候。開演前、深呼吸をしていると、辛うじて雨を耐えているような雲の隙間から金色の光が漏れているのがはっきりと見えた。この幕張の地にロックの神様から天命が下されているようなあまりにもドラマチックな光景を前にして、表す言葉も見つからない。しかし、まぁ彼らが自分たちの登場前からそんな感動に浸ることを許すはずもなく、開演時間ちょうどになると、さっきまでの美しさが嘘のように頭上は頑丈な屋根の替わりに不穏な灰色の雲で覆われ始めた。これは今日も何かが起こるに違いない。偶然の空の移り変わりでさえ用意周到な暗示に感じさせてしまう、そんなバンドは彼ら以外にはありえない。

そうして迎えた午後6時過ぎ、ライブではすっかりお馴染みとなったストリングスチーム「村田一族」が一足早く静かにオンステージ。蒼い光がまだ陽の落ちきらない会場をジワーっと照らし出し、ストリングスのメンバーも徐々に満ちていく大洋の水平線を優しくなぞるように丁寧に音を紡いでいく。しかし、これまでにはないこの汪々としたライブの始まり方にはちょっと驚いた。正直、なぜかどうしようもなく不安になり、目を閉じて顔の前で両手を合わせずにはいられなかった。どうか、どうか。そんな何に対してともよく分からない漠然とした祈りが通じたのか、そっと目を開けると、庄村聡泰(Dr)・磯部寛之(Ba&Cho)・白井眞輝(Gt)の順にようやくメンバーが姿を現した。彼らはゆっくりと落ち着いた様子で各々の定位置に着くと、頑丈なドラムを芯に、濃淡をつけるベース・飾りを施すギターと音を重ねていく。ストリングスの繊細なベールをさらに際立たせるよう、 1人、また1人と低音から加わっていくにつれ、徐々にバンドの様相を呈し始めた。そして最後、完成しつつあるサウンドの最後の鍵となるべく、会場中央部 花道の先端から満を持して川上洋平(Vo&Gt)が登場。ライブの幕を切るすべてのピースが出揃ったとき、割れんばかりの大歓声が注がれる中、センチメンタルな音の満ち引きに導かれるようにして遂にあの曲から「VIP PARTY 2018」がスタートした。

《ワタリドリの様に今 旅に発つよ/ありもしないストーリーを/描いてみせるよ》
(“ワタリドリ”)

1曲目は“ワタリドリ”。華々しいファンファーレに最も相応しいこの曲が今日の物語の1番の主人公となる。肝心のメンバーはというと、ポーカーフェイスの白井は1発目のギターリフを弾いた瞬間から何だかニヤケが止まらないといった様子。川上は袖の部分を大胆にカットした黒のグッズTシャツをひらりと身に纏って花道を渡り終えると、リズムに乗って嬉々として軽やかに飛び跳ねながら高音を伸び伸びと響かせていた。最後には「イェーイ!」の掛け合いでオーディエンスにマイクを向け、お互いに声の調子ぶりを確認し合う準備運動のキャッチボールも忘れない。

すると、曲が終わるのと同時に大量のスモークが炊かれ、ステージ上の様子が完全に見えなくなってしまった。流れてきたのは、この日のためにリミックスしたという新鮮味のあるSE“Burger Queen”。コンクリートに囲われた部屋を背景に、スクリーンにはメンバー1人1人の名前がデカデカと刻まれていき、いろんなガラクタのようなアイテムが次から次へと画面上に飛び出してくる。しかし、ここまでのハリウッド映画のようなクールな展開は前置きにしかすぎなかった。そこから始まったのは、「VIP PARTY」の歩みをその日程とライブ写真と共に振り返るオープニングムービー。アルバムをめくりながら彼らとファンの歴史を辿っていくようなその時間はあまりにも尊いものだった。中でも特に印象に残っているのが、誰も座っていない王様の椅子がほんの一瞬だけぽつんと映った場面。空席の王座は彼らがやって来るのをずっと待ち続けたように落ち着き払っており、今日ついに彼らがそこへ大手をかける、そう思うだけで胸の高鳴りが一気に加速していった。そしてその最後、彼らはこう私たちに尋ねてきた。

「R U READY?」

もちろんだ。さあ、始めよう。

残像を残すようにしてSEがまだ終わりきらない内、再び登場した彼らが立て続けに演奏したのは、“For Freedom”と“city”。爪を立てて首を掻きむしりたくなるような渇きがそのままドライな音となってスタジアム中を駆け巡る。リリースから変わらず即戦力として活躍する初期の2曲で、彼ら自身もまた当時と何ひとつ変わることなく、自由を追い求め、己を探し続けていた。続く“Cat 2”では、寡黙な白井が叫び散らしながらコルナのジェスチャーを求め、早くもヒートアップ。情熱的なアコースティックギターが花を添えた“Waitress, Waitress!”では、庄村が方向不問と言わんばかりのドラミングで上下左右に大地を波打たせ、直前までメタル一色だったスタジアムがムーディーなジャズバーへと一変。ステージと遠く離れたスタンド席ですら「暑すぎる!」と火を噴く声がそこらじゅうから聞こえてくるほどの熱気に包まれた。

そんな中、川上がアコースティックギターから他のエレキギターに持ち替えることなく、次の曲が始まろうとしていた。突然訪れた予想外の静けさに察しかねて会場が一瞬だけ無音になる。ささやかな余韻に浸るのも束の間、空気がスッと色を変え、意を決したように彼の指先のピックが6本弦の上を歩き始める。“spy”だ。

《少し目を閉じて/想像して/もう一つの人生を/そっとイメージしてみよう》
(“spy”)

この曲は川上が大学を卒業する頃にはもうすでに形になっていたが、デビュー後になってようやく4枚目のシングルとしてリリースされた。「やっとスタート地点に立てたからこそ歌いたいと思った」と彼はそのときの心境を自身のブログに綴っているが、この場でこうして演奏されたのもそのときの気持ちときっと無関係じゃないはずだと思った。私たちにとっては広すぎるくらいのこのスタジアムが、彼らにとってはいくつもあるスタート地点の1つ。大事な区切りであることに変わりはないが、他の始まりがそうだったように“spy”を歌ったここからまた何かが始まっていく。そんな将来の予告を後押しするかのように、川上はもう1人の自分の姿を辿り 穏やかで優しい顔を浮かべた後、《I’m gonna walk/This is my road/迷いは無くて 固くて/雲一つ無い》と全身を震わせながら唄っていく。そこへ「大丈夫、分かってるよ」と囁くオーディエンスの声が暖かな眼差しとなって惜しみなく注がれる中、タオルで目元を抑えるようにして静かに涙を流している人がいた。堪えきれず つられるように視界がどんどんぼやけていっても、その姿だけはなぜかはっきりと目に映る。しかし、「弱さを売りにはしたくない」と過去に川上が話していたように、その泣き顔には苦労してきた彼らへの慰めは浮かんでいなかった気がする。どんなことに思いを馳せ、何に泣いたのか。すべての心を理解することは難しいかもしれないが、私にはその涙が彼らのしてきたことすべてを物語っているような気がしてならなかった。

次の“Forever Young”では、今にも青空が広がりそうなほどの笑顔が咲きこぼれていき、会場がみるみるうちに大輪花咲くひまわり畑へと姿を変えた。その中心に立つ川上は反論の余地も与えないほどバシッと《僕等はまだ若い このままで》と言い切り、いつも以上に誇らしげ。しかし、その殺気は何処へやら、もう終わりに差し掛かったアウトロに乗せて《light up all the star yeah》と悠々と歌い始めると、そのまま“Starrrrrrr”へ。仕切り直すように庄村がカウントを4つ刻むと、ステージの照明がバッと落ち、1人ギターを掻き鳴らす川上だけが照らされる。何本もの細い光が彼の黒い服にチカチカと刺さっては反射し、両手では救いきれないほどの星屑が身体中から今にも溢れてきそうだ。さらに、4人の魂のセッションでは、メラメラとステージ上から身を乗り出す炎のような赤い照明が火花を散らす中、《押し殺した その感情曝け出して》の歌詞通り、狂喜も怒気も恍惚も悲嘆も絞り出してそれぞれが自分の楽器に全力でぶつかっていく。

思い返してみれば、3年前に出会った頃、彼らはもうすでに世間の注目を浴びていた。「話題」「人気」といった枕詞が付いて回り、どこで見かけても必ず“ワタリドリ”が流れてくる。私もそうした中で出会った1人だが、彼らを知ってまだ日が浅いというだけで「ニワカだ」「所詮は顔ファンだ」と散々に言われ、ひたすら悔しい思いを沢山してきた。「第1回音楽文大賞」で最優秀賞に選ばれた文章はその悔しさと4人へのとびきりの感謝を込めて書いたものだが、やっぱりもっと早く出会いたかったことに変わりはない。私だって望んでこうなった訳じゃない。物怖じせずにドンと言い返すパワーならいくらでも湧いてきたが、何せそれを実証する知識も経験もなかった。この先、彼らについて知っていくことはあっても、過去を記憶に書き加えることはもう二度と出来ない。名残惜しさもない。不意に思い出して懐かしく思うこともない。彼らの改名は私にとってまさにそういう出来事で、自分の劣等感の象徴だった。

さて話は戻り、ここまでの8曲が1stアルバムから4thアルバ厶の順に演奏されてきたのを見ても分かる通り、実は本編のセットリストは音源のリリース順に組まれていた。スクリーンにはそのジャケットやそれに因んだ映像が流れ、ライブが進むにつれ これまであったことを手に取るように見つめては思い出した人も少なくなかっただろう。しかし、“Forever Young”の1番初めに《くだらない日常だって/いつかアルバムになって/頭狂わす事だって/いつか君の歌になって》とあるように、それはどうやら4人も同じだったようで、歴史的なあの場面を今に蘇らせるべくオーディエンスを連れて会場ごとタイムスリップ。「バンド名が変わります」という川上の声を合図に、過去へ遡ること今から4年前の2014年3月28日。新しいバンド名へと改名が行われた初の日本武道館ワンマンライブのときの様子が映し出され、その画面上へ突然 王様と思われる1人の男が姿を現した。彼は空席の王座に腰を掛けるとグラスを手に取り、前バンド名に込められた「音に酔いしれてほしい」という願いを身体の隅々まで行き渡らせるかのように、何の躊躇いもなく意気揚々とシャンパンを飲み干していったのだ。

私はこの様子を見て、思わずハッとした。というのも、グッズTシャツなどにデザインされている今回のライブのコンセプトに通ずる何かをここで感じたからだ。ちなみにそのコンセプトというのが、NYの地下鉄。現地の壁には映画などのポスターがズラーッと貼ってあり、貼っては剥がしの繰り返しなので汚れて沢山の跡が残っているのだそう。

《繋がっていく 繋がっていく/大人になり破いた夢/連なっていく 連なっていく/その続きを 今 生き抜いていけ》

彼らは“Starrrrrrr”の中でこうも歌っている。昔の経験が今の彼らを形作る血となり肉となる。さらに、かつての跡を残しながら、そこへどんどんと新しいものを重ねてゆく。そんなメッセージを感じる改名の際の映像とライブのコンセプトに触れ、1番初めの《追い風 届けるよ/僕等 一心に 羽ばたいて/遠い過去を 背負ってた/あなたを未来へ運ぶよ》の宣言通り、自分の過去が彼らの手によって少しずつ救われていくのが分かった。今も昔も何も変わりやしない。いや、変わっていないというより、「変わらない大切な何か」を守るために彼らはずっと変わり続けてきたのだろう。そう確信した。

そして「[ALEXANDROS]の新曲を」との紹介も手短にそのとき初お披露目されたのが、5thアルバム『ALXD』から“Droshky!”。改名直後に初めてライブで演奏された曲ということで、先程触れたそのときの様子からバトンタッチするように、映像と音の両方がシームレスに縫い合わされ、今現在のライブへとそのまま曲が繋がっていく。まるでターンテーブルを操るDJのように川上がギター弦を擦り、そこから一気にテンポアップすると音玉が炸裂。ブラスバンドがより映える華やかさで駆け抜けていくと、最後は《Life is great》という痛快な一言で歯切れよくフィニッシュ。最高だ。そのスピード感を引き継いだ“Run Away”では、同アルバム収録曲の“ワタリドリ”と“Boo!”のイントロを交互に行き来し どんどんスパンを狭めながら曲に雪崩込むというニクい仕掛けも。そのアレンジはどれもがさすがの一言に尽きるものばかりだが、すべてはきっと私たちファンのため。そう思うだけで、何だか泣けてきた。

《タラリララリ「僕等」は/中途半端な満足じゃ/事足りぬ様になって/現在に至る》
(“Run Away”)

さて、その勢いのまま、一昨年リリースされた6thアルバム『EXIST!』のフェーズへと突入。殺人的なサイレンと轟音が殷々と響いた“Girl A”を経て、“ムーンソング”が放たれる。思わず空を見上げてみると、さっきまであったはずの月の姿はどこにもなく、黒に近いネイビーブルーのまっさらな夜空だけが広がっていた。しかし、スクリーンでは振動を受けて共鳴しているかのような満月が前面に押し出されており、スタンド2階席と3階席の間にある細長いスクリーンにも無数の美しい星が煌めく様子が映し出されている。もし今この景色が本当に空に広がっていたならと思うと少し残念な気もしたが、この言葉が真っ直ぐ胸に届いたのはきっとそんな何もない夜空のおかげだった。

《君がいなくなった世界で/僕はどれくらい残るの?/君がいないならいないで/自ら月に成り上がろう》
(“ムーンソング”)

ここでメインステージからサブステージへと移動し、ずっと続いてきたリリース順のセットリストが一旦中断。直前の“ムーンソング”から降り始めた雨がいよいよ本降りになりつつある中、事前に募ったファン投票でリクエストの多かった上位10曲をダイジェストで繋ぐスペシャルコーナーが設けられた。

《He was a boy/who once had a dream/to be a king/with an enormous ring》
(対訳:その昔/彼は一人の少年だった/巨大な指輪を持った/王になるのが夢だった)
(“Oblivion”)

雨の中、「これもウチららしいかな」と言って子供のように音で遊ぶ4人が何とも眩しかった“Oblivion”から栄えある第1位の“Leaving Grapefruits”まで全10曲。たった1人の例外もなくファン全員の思い入れに次々と応えていく彼らだったが、この顔ぶれを見たとき、私は思わず笑ってしまった。というのも、これは彼らのことを本当に好きじゃなきゃ出来ないリクエストだし、本当に好きな人たちが選ばなければ出なかったような結果だからだ。案の定、1曲1曲始まる毎に起こるオーディエンスの反応はまるで、10年ぶりに開けたタイムカプセルの中から次々と宝物を取り出していくときのようにキラッキラしており、こちらまで喜びをお裾分けしてもらっているような幸せな気分になれた。

さらに、ある感動的な場面があった。ダイジェストも順調に進み、先程披露された“Starrrrrrr”が第3位にランクインしていることが発表されたのだが、もうすでに演奏したということでスルーされそうに。「えぇー!」と残念がる声に応えて、サビ前のフレーズから演奏し始めてくれたのだが、今まさに盛り上がりがピークに達するというときになって突然楽器を弾くのを止めてしまう。サビ直前までというちょっとしたイタズラのつもりだったんだろう。しかし、オーディエンスはそんなことなど全く気にしていないどころか、むしろ声を大きく張り上げて歌い出し、星もない夜空に《彷徨って 途方に暮れたって/また明日には 新しい方角へ》のアカペラが煌々と響き渡ったのだ。しばらく何も言わず、その光景をただただ眺める4人。ようやく口を開いて「感動しました」と零す磯部の横顔はとても柔らかく、その言葉と共に感慨深げに語られた多くの人への感謝の想いだけが、彼らによるこの日唯一のちゃんとしたMCとなった。そんな今回のリクエスト総数、占めて5万票。ひとつとして同じものがない5万通りの愛し方が確かにそこにあった。

その後、リクエストコーナーのサブステージから再びメインステージへと戻ると、彼らは来る7thアルバムのリリースをも今回のセットリストに組み込み、まだ見ぬバンドの未来をどこよりも早く私たちに見せてくれた。後日発表された 11月21日発売のニューアルバムのタイトルは『Sleepless in Brooklyn』。捻りも何もないユーモア溢れるネーミングが何とも彼ららしいが、今回はその中から新曲“LAST MINUTE”を含む4曲がずらりと出揃った。

《愛したいなら/思う存分愛せばいい/今でも疼く傷跡も/息を吸い吐く身体も/生きると願うから》
(“明日、また”)

“明日、また”が披露される頃には雨も止み、曲の明るさがより一層 華やいで見えるピンク色の背景にメッセージ性の強い歌詞が大きく刻まれていく。銀テープに至っては贅沢に2回も降り注ぎ、明日へ向かってまた歩き出そうとする人々の背中にダメ押しの一念を込め、眩いばかりの門出を祝した。3番手として登場したのは、“I Don’t Believe In You”。シングル『明日、また』のカップリングとして収録された本曲だが、川上の呼び込みに応えるようにして突然ボンゴを叩き出したのは磯部。我を忘れて叩き狂う様は野生の勘に突き動かされているかのように本能剥き出しで、どちらが本業か分からなくなるほど堂に入ったプレーで会場を湧かせる。血湧き肉躍る瞬間の連続だった。

そして本編ラストは、もちろん“Mosquito Bite”が締める。川上のファイヤーバードが静寂を破るように鳴くと、今度は逆に歴史を遡っていくようにライブ冒頭とほぼ逆の順番でイカつい音を重ねていく。真っ赤なライトで禍々しく染まるステージは、神聖な空間のようにピンと張り詰めた空気が漂っており、砂埃を上げて吹く乾いた風のように荒々しさだけが容赦なく吹き付ける。しかし、その中でも彼らは広大な砂漠に咲く濃い紅のアデニウムのように凛としており、全員が円になり向かい合った長いアウトロではその気勢の紅さがますます濃くなる一方だった。

そうして人々の心に大きな爪痕を残したままステージを後にした彼らだったが、ずっと鳴り止まない手拍子に出迎えられて、白のグッズに衣装チェンジして再登場。このアンコール前から所々でポツリポツリと灯されていた携帯電話のライトを見た彼らの粋な計らいにより、本来の照明内容が変更され、その小さな灯りがスタジアム全体へと広がっていくことに。本日2度目のアコースティックギターを握り、何とも平和なルードの中 初めてフルサイズで披露されたのは、“ハナウタ”。

《ひかりのなかに恋をしてる/孤独はきっと、そういうもの》
(“ハナウタ”)

ゆらゆらと稲穂が揺れ、短い寿命を全うする蛍が飛び交うような非現実的で美しい光景。それを夢見心地で眺めながら、この会場で見かけた沢山の人のことを思い出した。お母さんと手を繋ぎスキップする保育園くらいの女の子、友達に手を取られながらゆっくりと歩く妊婦さん、仕事終わりと思われる小綺麗なOLさん、扇子で涼みながらステージを指さして談笑する中老の夫婦。この曲に込められた想いがそうであるように、彼らが目指してきたのは、特定の人へ向けての限られた嗜好でも、特定の年代へ向けての廃れる流行でもない。ジャンルもムーブメントも度外視して、ただただ「最高にカッコいいロックバンドであり続けること」。本当にそれだけなのだ。そして今、その理想から少しもズレることなくこうして人々が彼らを求めている。この姿こそ、「変わらない大切な何か」が行き着いた1つの答えなのだと思わずにはいられなかった。さらに彼らはこうも歌う。

《Seize the day you boys and girls/and young and the old/life is different/life is not fair/and life is short》
(対訳:老若男女よ/今日という日を摘め/人生は一人一人違い/平等ではなく/とてもあっけない)
(“Oblivion”)

アデニウムが太い幹から何本もの枝へと分かれていくように、その誰もが彼らの音楽に背中を押され、毎日の生活を共に送ることを選び、それぞれの日常を必死にこなして生きてきたはずだ。そこには等しく与えられたものなんてないかもしれない。しかし、彼らはその辛さや非情な運命をなかったことにするのではなく、そこから前に進むためのポジティブな何かを生み出していく。たとえ1人の人間とその忙しない日常を象る1台の携帯電話だとしても、彼らの手に掛かれば一瞬にして桃源郷を創り出すことが出来るのだ。

これは夢なんかじゃない。“Adventure”で見た夕暮れのようなあの橙色はそう言っているように温かく、このまま余韻に浸って終わるはずだった。……が、急に“Kick&Spin”のサイレン音が鳴ると、ドラムのキックでより攻撃性を増したイントロが会場の至る所で過去最高の盛り上がりを記録!ステージ上で火柱が上がる中、そこを掻き分けるようにメンバーが花道へと繰り出していき、ステージと客席の境目なんてまるでないように一同が騒ぎまくって、叫びまくって、暴れまくる。余韻という余韻すべてを私たちの元から掻っ攫っていった彼らがその代わりに置いていったのは、ゼロの体力。世界1の裏切りで世界1のカオスの渦を巻き起こしたラストシーンは「世界制覇」の4文字を体現したかのように圧倒的だった。

「愛してるぜ、ZOZOマリーン!」

そして、4人は本物の王となった。

しかし、ここでもまだ終わらない。シャンパングラスを片手に颯爽と去っていくと、今度は腹を抱えて笑ってしまうほどコミカルな寸劇が流れ始め、その中で キャリア初となるアリーナツアーが発表されたのだ。この数日前にアナウンスされた9月のマレーシアでのワンマンライブ(先日無事終了!)と10月のアメリカ各地でのツアーと合わせ、彼らは日本だけに留まらず世界中を飛び回り、たった4人だけで喧嘩を売りに行こうとしている。《ワタリドリの様に今 群れをなして》名実ともに「世界制覇」を成し遂げようとしているのだ。でも、きっと大丈夫。何の心配もいらない。アデニウムがそのあまりの美しさから「砂漠のバラ」と呼ばれ、誰が見ている訳でもなく今日も健気に熱砂の地に花を咲かせているように、彼らもまた 魔性の魅力を武器に《大それた四重奏を/奏で終える日まで》この乾ききった世界で強くしぶとく生きていくはずだ。

《Well, see you one day》
(対訳:だからいつかまた会おう)
(“ワタリドリ”)

そんな4人に私たちはきっと明日もまた恋をする。
いや、懲りずに何度でも。
だって、アデニウムの花言葉は「一目惚れ」と「純粋な心」——。

もう誰もこの運命からは抜け出せない。

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