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2017年5月2日

なかにむ (33歳)
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69な母のライブデビュー

ONE OK ROCK 2017 “Ambitions” JAPAN TOUR 横浜アリーナ

カラオケでチェッカーズの曲を歌っていた。両親にいつも歌わされるのだ。画面には当時のライブ映像が流れていた。いつ見てもカッコイイ。曲が終わって、父が「最近はこういう気骨があるバンドおらんのかねぇ」と言ったので、私は「おるよ」と言い、そのバンドの曲がCMで使われていることやボーカルのご両親のことを話した。そのまま家に帰ってすぐにYouTubeで彼らの動画を片っ端から見せた。両親は満69歳。今年で70歳。その日から、ワンオクの大ファンになった。

母親はCMで流れるTakaの声がずっと気になっていたらしい。誰だかは分からないが「なんて声なんだろう」と思っていたと。カラオケの日以降、母はYouTubeでありとあらゆる動画を見て、CDとDVDを次から次に買い、気がつくと私よりはるかに彼らのことが詳しくなっていた。楽曲や彼らのパフォーマンス、曲とライブに込められた彼らのメッセージに心打たれ、とにかく曲を聴きこんだ。彼らの人柄やこれまでの挫折や努力、葛藤、将来のビジョン、意思、決意などあらゆる側面に触れ、母にとっては彼らの全てが愛おしい対象となったのだ。

「いつか生で聴きたいね」。いつからかこれが母の口癖になっていた。

母をライブに連れて行ってあげたかった。だが、ワンオクのライブは相当ヤバい。倍率も、体力的にも。母は69歳にしてはすこぶる元気だが、ライブに連れていくにはやはり少し不安があった。

野外に数時間立ちっぱなしはさすがに厳しいので、去年の渚園はハナから諦めた。だから、今年のAmbitions国内ツアーに賭けていた。スタンド席なら大丈夫だろう。

父と二人であらゆるサイトから申し込んだが、全く取れない。SNSでは当選したという投稿が徐々に増え、その度に私たちは落胆し、何公演も行ける人が心底うらやましかった。数ヶ月挑戦し続けたが全く取れず、もう本当に諦めないといけないのかと思い始めていた。そんなとき、父が横浜アリーナ初日公演を2枚当てた。西側スタンド指定立ち見。スタンドの後ろの通路のところだ。全然いい!むしろそこがいい!とにかく取れた!!やった!!生で聴ける!!当たった!!!みんな大喜びだった。喜びからくる身震いをジャンプでふるい落すようにぴょんぴょん跳ねて喜んだ。

それからというもの、母は体力作りのために毎日の散歩を強化し、英詞を理解するために英語の勉強も独学で始め、会場で歌えるように毎日アルバムを聴きこみ、4/20に照準を合わせて生活をした。

「着替えとね、ペットボトルの水とね、携帯の充電器がいるみたい」

携帯の一般的な操作すら危ういのに、ワンオクがきっかけでインスタのアカウントまで作った母は、他のファンの方の投稿から情報を拾ってきては、ライブに向けて様々なシミュレーションをしていた。ライブグッズも記念に欲しいとサイトを見たが、ライブまでに配送が間に合わない。当日会場でゲットするしかない。会場限定CDはきっと朝から並んでる人たちがいるから多分諦めた方がいい。様々な作戦会議を重ねて、当日を待った。

そしていよいよライブ当日。朝起きると台所から香ばしい匂いがした。生姜焼きだ。何度見ても生姜焼きだ。

「体力つけなと思って」

二人で朝からワシワシと生姜焼き定食を食べ、いつものように掃除や洗濯をして過ごした。昼過ぎになると母がそわそわして、気がつくと14時すぎにはすでに準備万端でリビングに座っていた。居ても立っても居られないので、もう家を出ることにした。

駅から会場まで歩いていると、ツアーTシャツを着た人たちとたくさんすれ違った。すれ違うたびに徐々にテンションが上がり、無意識に二人とも歩くスピードが速くなる。会場につくと「あぁ、ついに母の夢がひとつ叶うんだ」と早くも涙が出そうになった。グッズ売り場に進み、後悔のないように欲しいものを買い込んだ。幸運なことに限定CDも買えた。

ほくほくとグッズを抱え込んで近くの広場に座り、Tシャツを上からかぶって、タオルを首に巻き、リストバンドをはめる。そんな私たちの様子を、近くにいた若いワンオクファンがじっと見ている。
いや、私たちではない。母を見ている。母の歳を確認しようとしているのだろう。「大丈夫なの…?」という表情をしている。母は、あちこちから注がれるその視線をパンっと弾き飛ばすように、気づかないふりをしている。私は、そんな母がとても誇らしかった。同じバンドを好きになって、夜遅くまでそのバンドの話で盛り上がって、ついに一緒にライブに来れた。ファンになるのに年齢制限なんてないし、ライブに参加するのにも年齢制限はないはずだ。母は純粋に彼らの音楽が好きで、彼らが好きで、心から応援している。他のファンよりたしかにシワは多いだろうけど、会場にいる誰よりも母はロックに見えた。

立ち見席はスタンド席より”自由”な感じで、体力的にしんどくなっても誰かに迷惑をかける心配のなさそうな席だった。私たちにはぴったりだ。母も私も、ここでよかった!と一瞬で気に入った。

母は、ずっと浮き足立っていた。ONE OK ROCKって本当にいるのかな? 4人は本当に存在していて、本当に今日そこに出てくるのかな?と、ステージを目の前にしてもなお目の前で起こるであろうことがどこか信じられない様子だった。

ついに4人が登場してライブが始まると、母はしばらくあっけにとられていた。そしてすぐに、目をキラキラさせて拳を振りあげ、体を縦に揺らし始めた。初めて見る母の姿だった。ONE OK ROCKというバンドが本当に存在しているという実感が、母のつま先から指の先までじわじわと染み渡っていったのが分かる。一緒に飛んで、叫んで、歌って、泣いて、笑って、ヘドバンまでした。手すりがあってよかった。持ってきたペットボトルの水を二人で大事に飲み、反響して聞こえにくいMCを耳打ちで母に解説し、隣にいる男の子に負けじとぴょんぴょん飛んで、一言も、一瞬も、一音も逃さないよう五感に焼き付けた。

まだツアー中なのでネタバレになるようなことは書きたくないが、一つだけ。18歳のために作ったという”We are”の前に、Takaが18歳以上の人たちにもメッセージをくれた。ものすごく簡単に言うと、Never too lateということだった。年齢なんか関係ない、いつでも「遅い」なんてないんだと。「こうやって、チケット買ってきてんじゃん!ここに!」と。全くその通りだ。母と目を合わせて笑いあった。今回ライブを見て、彼らの言葉を聞いて、あのセットリスト、あの流れ、全てを目の当たりにして、今回のアルバムに込められたメッセージの本質が、全貌が、やっと見えた気がした。

次の日、私は筋肉痛に苦しんだ。母はケロッとしていた。さすがだ。体力作りが功を奏したのだろうか。おそるべし69歳だ。

母は、あれが最初で最後だというようなことを言う。なぜそう言うのか分からないが、そう聞くと毎回寂しさを覚える。もしかしたら、69歳のロックな年だから今年だけだと勝手に決めているのかもしれない。「おばあちゃんが行くような場所じゃないもんね」と前にもボソッと言っていた。でも、来年も、再来年も、チャンスがあれば連れて行こうと思っている。ライブを目標に体力作りを続けてくれれば、ずっと一緒に出かけられる。なんてったってNever too lateなんだから。

ほかの人の迷惑にならないように、私たちは必ずスタンドで観ます。またいつか、今度は3枚、チケットが取れますように!

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